暑さの厳しい屋外での作業を終えて、「少し熱っぽいな」と体温を測ってみると37度。ひょっとして熱がある? これは微熱?

いやいや、本当に37度は発熱の兆候なのでしょうか? 家でも職場でも、手軽な健康チェック法として体温計を用いていると思いますが、意外に知らないのが自分の「平熱」とその示す意味。この記事で平熱に関する基礎知識を身につけてみてください。


「平熱」とは生命活動を効率的に行える体温のこと

平熱について理解を深めるために、まずは人間が熱を発する仕組みから振り返ってみたいと思います。

私たちの身体は、摂取した食べ物を原料に細胞が活動し、エネルギーを作り出しているわけですが、この工程(=「代謝」)で発生した熱こそが体温となります。言い換えれば人間が生命活動を続けている以上、大なり小なり熱が発生することになります。やや専門的な内容を補足すると、身体の中心部に近いほど体温は高くなるのです。これは、脳や心臓など生命活動をする上で重要な臓器の働きを保つための身体の仕組みであり、この安定した高い温度を「中核温」と言います。

もちろん、この中核温を測ればより正確な体温を知ることができるわけですが、少なくとも日常的には、内臓に体温計を入れて測定できません。そのため、それに準じる部位として、脇や口(舌下)、耳、直腸などの部位で体温計を用いて測っているわけです。

上記を踏まえて、平熱についてあらためて考えてみたいと思います。

平熱を辞書で調べてみると“健康時の体温”と定義されています。それでは平熱とは具体的に何度なのでしょうか。人によって“健康”の状態は様々です。万人の平熱が一定ではないのは想像いただけるかも知れません。

では、生後間もない子と成人、あるいは年配の方が“健康”を維持するために発する熱は、はたして同じでしょうか? また、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、実は人間は1日の活動のなかで体温が上下しているのです。しかし、1日のなかで健康と不健康を繰り返しているのかというとそういうわけではありません。

人は気温や水温など周囲の温度に左右されず、一定の体温を保つ恒温動物でありますが、それはあくまで1日の体温の変化の幅が小さいということであり、季節や加齢によっても「体温」には多少の温度のバラつきがあるのです。また、人それぞれで平熱も異なるのです。


人により平熱が異なるのは代謝量の違いから。実は平熱が38度の方も

「私、平熱が低いから」とか「平熱高いんだよね」といった会話のやり取りは珍しくありません。それでは人間の平均的な平熱とは一体何度なのでしょうか。

参考となるデータは意外に少なく、かなり昔の研究データとなるのですが、東京大学教授などを歴任した田坂定孝先生の1957年に発表した著書「健常日本人腋窩温の統計値について」(日新醫學)において、日本人の平熱は“36.89±0.34度”と定義されています。おおよそ60年ほど前のデータではありますが、これが基準とすれば36度はもちろん、37度も平熱と言えることがわかります。これはあくまで平均値の体温ですから、35度後半や38度前半が平熱という方がいらっしゃるということも、考えられます。

これを踏まえ、この記事では平熱を36度〜37度と仮に定義させていただき、話を進めましょう。

次に、どうして平熱は10度や90度ではなく、36度〜37度周辺なのかということを話題にしたいと思います。この点についてはっきりと言及している研究結果などは現時点までには発表されていませんが、以下のような興味深い推測データがあります。

ここまで、発熱とは生命活動をするうえで身体全体の細胞がエネルギーを生み出す過程、つまり代謝により生じるものと説明しました。この代謝というものも一般的な化学反応の法則にあてはまるため、他の化学反応と同じように基本的に温度が高いほど活発になります。つまり、人の場合は体温が高いほど代謝は活発になり、より効率的になるはずです。

しかし、体温が高くなると別の問題が起きてしまいます。体温が42度を超えたあたりから、細胞内に酵素系の障害が起こり始めるのです。要は“体温は高いほど代謝が進む一方で、42度周辺になると細胞にダメージを与えることになる”ということです。

*テルモ体温研究所

これこそが、人の「平熱」が36度〜37度であることの、現時点での有力な理由といえるのではないでしょうか。


平熱を保つのに重要なのは、“自分”が快適でいられる環境づくり

代謝の活動の度合いによって発熱温度が変わるということは、運動の有無や時間帯によっても、代謝には差が生じるので体温は変わってくるということです。

時間帯での体温の変化について言えば、人間には朝、昼、夜と24時間単位の体温リズム(*概日リズム)というものがあり、一般的に体温は、早朝が最も低く、しだいに上昇して夕方にピークを迎えます。体温の変化は1日のなかで1度前後と言われていますが、起床時と夕方、それに就寝前のそれぞれの「平熱」を把握してこそ、より精度の高い体調管理が実行できると言えます。

概日リズム….約24時間周期で変動する生理現象で、一般的に体内時計などと言われる。人間のほか植物や菌類にも存在すると言われている

さらに言えば、年齢によっても平熱に変化が現れますし、季節ごとの体温の変化も把握しておくことが望ましいです。

そして、もう一点気をつけておきたいことがあります。それは気温の変化に応じて自分の身体を最適に保てる環境をつくるということです。

人は、各々平熱が違うだけでなく、暑さ、寒さへの耐性も異なります。そして、その違いを理解することこそが平熱を保てるかどうかの鍵となります。たとえば職場において、室温を「暑い」と感じる人もいるでしょう。逆に「涼しい」と感じる方もいるでしょう。仮に「寒い」と感じれば、身体は代謝を活発化させ体温を上げるでしょうし、「暑い」と感じている方の身体は、脳の指令により汗を流して身体を冷やそうとするはずです。こういった違いが平熱に変化を生じさせるわけです。

平熱を保つには自分が快適と思える環境を自主的に生み出すことが欠かせないのです。つまり、室内などにおける適温を知っておくことが重要です。

社内の室温を暑いと感じるのであれば、自分用に小型の扇風機を用いたり、水分をこまめに取ったりして、平熱を保つ努力をしましょう。定期的に体温計などで体温を確認することも効果的かもしれません。こういった意識の持ちようが猛暑の季節を健康に過ごしていくポイントと言えます。社内での効果的な暑さ対策については、こちら「熱中症患者の半数は室内で発症って本当? その油断が深刻な事態を招く。室内での熱中症対策の正しい知識」でも紹介しています。

また、暑さを感じた場合、身体を効果的に冷やす方法については「おでこを冷やすのは効果なし? <熱中症予防>リンパが集中する3箇所を冷やして体温を効果的に下げる」 でも紹介していますので、ぜひあわせて読んでみてください。

 

*本内容は記述時点で入手している情報をもとに執筆された原稿であるため、その内容の実現や確約、正当性をお約束する趣旨のものではありません。あらかじめご了承ください。


参照、引用元

テルモ株式会社 「知っておきたい体温の話」
メディカルα 第7回 体温計〜人間の体温は一定だ! 世紀の大発明〜