「働き方改革」という言葉は2017年の流行語大賞にもノミネートされるなど、いよいよ一般からも認知される言葉になりました。2016年の9月には労働界と産業界のトップと有識者が集まった「働き方改革実現会議」という安倍総理の諮問機関が設けられています。現政権が本気で取り組んでいる課題の一つです。「働き方改革」とは何か。一体何が変わるのか。そして、何を変えなければならないのかを、ここで具体的にみていきます。

 

なぜ働き方改革が必要なのか。その必要性とは?

「働き方改革」が必要とされる背景にはいくつかの要因があります。最も大きなポイントは「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」です。子供が少なくなり、人口のボリュームゾーンが高齢化した現代、労働者世代は育児・介護と仕事を両立する必要が生じています。育児や介護をしながら働くには、従来のフルタイム勤務では難しくなっています。こういったことから、短い労働時間でも生産性をあげられる工夫(労働生産性の向上)や、多様な働き方を可能にする方法が模索されているのです。

 

働き方改革実現会議で議論された9つのテーマ

それでは「働き方改革」を行っていく上で、現状ではどのような問題を解決していけばよいのでしょうか。その中身を具体的に見てみましょう。「働き方改革実現会議」では、これまでに主に以下の9つの分野について議論が行われました。そして、その成果として「働き方改革実行計画」が平成29年3月28日にまとめられました。

「働き方改革実現会議」で示された9つの分野
1)非正規雇用の処遇改善
2)賃金引上げと労働生産性の向上
3)時間外労働のあり方など長時間労働の是正
4)転職・再就職支援、人材育成、格差を固定させない教育
5)副業・兼業といった柔軟な働き方
6)女性・若者が活躍しやすい環境整備
7)高齢者の就業促進
8)子育て・介護と仕事の両立
9)外国人材の受け入れ

 

これらは労働力確保のため、生産性向上のため、あるいは家庭環境の改善するための枠組みや環境づくりに関連した項目であることがわかります。そこには「労働力を増やす」、「出生率を向上させる」、「労働生産性の向上させる」という、日本社会における根本的な課題に対しての問題意識が読み取れます。

 

働き方改革の「3つの大きな柱」と、実際に取り組むべきポイント

労働力不足を解消するための議論の中でも、「残業の上限規制」、「同一労働、同一賃金」「高齢者が働ける環境づくり」の3つは特に重視され、改革の柱となっています。そして、これらの課題は実行計画がまとめられたことによって、大企業のみならず中小企業であっても近々に取り組んでいかなければならない現実の課題にもなっています。

では具体的にどのようなことに取り組んでいけばよいのか、そのポイントを見ていきましょう。

ポイント1)残業の上限規制

日本の長時間労働については、2013年に国連から「多くの労働者が長時間労働に従事している」、「過労死や精神的なハラスメントによる自殺が職場で発生し続けていることを懸念する」という2点に関して是正勧告が発せられました。これに対し安倍晋三首相は、「モーレツ社員という考え方自体が否定される日本にしていきたい」という発言をしています。このことから、改革では特に「法改正による時間外労働の上限規制の導入」を実施する予定です。

具体的には、40 時間を超えて労働可能となる時間外労働の限度を、原則として、「月45 時間、かつ、年 360 時間」とし、違反には罰則を科すことになっています。また、特別条項付36協定を締結している場合についても条件が細かく決められ、上限は720時間となる見通しです。

最終的には2019年4月以降の法律施行が目指されているようです。なお現状では、運輸業、建設業は改正法施行後5年間、適用が猶予されるようです。まずは現状を把握することからはじめましょう。

ポイント2)同一労働同一賃金

「同一労働同一賃金」とは、性別や年齢等の違いに関わりなく、同種・同量の労働に対して同一の賃金を支払うべきという考え方です。「働き方改革実現会議」が2016年12月にまとめた「同一労働同一賃金ガイドライン案」では「基本給」「手当」「福利厚生」「その他(教育訓練・安全管理)」の4項目に分け、具体的な状況を想定して、非正規雇用が不利にならないようなルールが考えられています。

厚生労働省は、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)に働き方改革の関連法案の要綱を諮り、施行日は原則2019年度としました。ただし、中小企業は適用までに1年間の猶予を設けています。

そりなりに大きな改革になりそうです。施行までにはもうしばらく時間があるとは言えるので、企業は今のうちに賃金や待遇の決定方法をより明確に客観化し、社員の納得の行く形を模索しておく必要がありそうです。

ポイント3)高齢者の就業促進

65歳以降の継続雇用延長や65歳までの定年延長を行う企業への支援を充実することも決められています。このために、「働き方改革実行計画」には、将来的に継続雇用年齢等の引上げを進めていくための環境整備や、多様な技術・経験を有するシニア層が、一つの企業に留まらず、幅広く社会に貢献できる仕組みを構築するための施策等が盛り込まれました。

また、これとは別に年金に関しても新しい案が出ています。政府が中長期的な指針となる「高齢社会対策大綱」の見直し案では、公的年金の受給開始時期を変更する方針です。現行では年金の受給開始年齢は原則65歳、本人の希望で60~70歳の間で選択できますが、今後は70歳を超える選択肢も可能とするようです。受給開始を遅らせれば、毎月の受給額は増え、70歳を超えて受給を開始する場合、さらに上積みを図る案も示されています。

国立社会保障・人口問題研究所により発表された「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)中位推計」によると、2055年には高齢人口が人口全体の40%にまで増加するとされています。高齢化の進行に対応し、働きたいシニア層がより長く働く仕組みを整えることは急務と言えるでしょう。

 

まとめ

ここまで「働き方改革」について見てきました。「改革」と銘打つだけあって、2019年度以降、労働環境は大きく変化しそうです。労働現場はしっかりと変化を認識し、行動していく必要にせまられそうです。

経営側にとっては、ある意味痛みを伴うと言えなくもないでしょう。しかし、この政府の方策は労働環境をよりよく整え、生産性を挙げ、国際的な競争を勝ち抜く力を身につけるためのものであることが重要な点です。日本企業はもはや滅私奉公では闘えないという事実を受け入れ、変化すべきときといえるかもしれません。しかし、この改革の実現はあくまでこの先、発展するための手段です。改革を行うことが目的とはならないよう、意識する必要はありそうです。

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<参考URL>

厚生労働省『「働き方改革」の実現に向けて』

首相官邸「働き方改革の実現」

働き方改革実行計画(PDFファイル)

働き方改革研究所『「知らなかった」では済まされない!36協定の基礎知識』

同一労働同一賃金ガイドライン案(平成 28 年 12 月 20 日)(PDFファイル)

産経ニュース「年金開始70歳超も 雇用環境の整備が重要だ」