「心理的安全性」という言葉をご存知ですか? この言葉は、Google社による4年にも渡る労働改革プロジェクト・アリストテレスの結果報告にて「心理的安全性は成功するチームの構築に最も重要なものである」と報告されたことから注目を集めた言葉です。

あらゆる仕事においてチームワークが必要とされるシーンは多く、仕事に限らずともチームで何かをする機会というのは多いものですよね。心理的安全性について知り、意識することで、チームでの働き方やチームの動かし方が上手くいく事は増えると思います。

この記事ではこの「心理的安全性」の有用性や、高めるにあたっての方法などについてご紹介します。

日本人の現場では相性が良くない? 心理的安全性とは

心理的安全性とは、サイコロジカル・セーフティ(psychological safety)という英語を和訳したもので、ビジネスと強い関連性を持つ心理学用語です。自分の言動が他者に与える影響を強く意識することなく、感じたままの想いを素直に伝えることのできる環境や空気感のことを指します。

「チーム全員が、思ったことを自由に発言し、行動に移したりでき、それによって人間関係が壊れたりしないと感じている状態」と言い換えても良いでしょう。「こんな発言をしたら上司からにらまれる」「ここでミスをしたら他のメンバーに呆れられる」といった思いを抱いた事がないですか?

このような不安がなく、本来の自分を安心してさらけ出すことができて、さらにそれをお互いに受け入れられるような場の雰囲気があれば、心理的安全性は高いと言えるでしょう。前述のGoogle社による発表では、こういった環境が担保されているチームほど高い生産性を発揮している、と結論づけています。

Google社はグローバル企業で様々な人種が働いており、4年に渡ってかなり大規模なモニタリングを行ったようですが、日本人だけの単一チームでデータを採取したかは公表されていません。

そのため、「日本ではこのやり方は合わないのでは」とか「現実問題として実践は難しい」といった疑念を抱く方も多いかもしれません。日本人単一のチームや日本の企業・現場でも同様に効果的であるのでしょうか?

たとえば、日本人の特徴としてよく言及されるのは、自分で積極的に課題を見つけることは苦手ですが、与えられた仕事に対しては強い責任感を持っているというものです。また、自分からはあまり思い切った事ができない部分がある反面、誰かを気にかける心遣いが身についています。このように様々な場面でプラス、マイナスの効果として発揮されるような両面性を持ち合わせているのが日本人の国民性です。

そして、このマイナス面をポジティブなものに変換し、お互いに受け入れ合えるようにするのが、心理的安全性が高い環境ということであるといえます。心理的安全性を確保することは、多くの日本企業にとっても重要な課題であると言えるでしょう。

 

心理的安全性が現場へ生み出すメリット

心理的安全性が確保されると、次のような多くのメリットが望めます。

【主に組織側が享受できるメリット】

  • 生産性の大幅な向上
  • 成功や目標達成を阻む障害の排除
  • 円滑なコミュニケーションによる作業効率の向上
  • 各メンバーの積極性向上
  • 各メンバーの思考や将来ビジョンの明確化
  • 人材の持つポテンシャルが最大限発揮される
  • 学習する組織(チーム)の構築
  • イノベーションが生まれやすい環境の構築
  • 建設的な議論を行える環境の構築
  • 優秀な人材の流出や退職の抑制

【主に従業員やチームメンバーが享受できるメリット】

  • クオリティ・オブ・ライフ(Quality Of Life、QOL)の向上
  • メンタルヘルスケアの一環としての効果
  • 最高のパフォーマンスを発揮できる職場環境の獲得
  • 長期にわたって働きたいと思える職場環境の獲得
  • 将来ビジョンを実現させるための人材育成計画の構築

心理的安全性によってもたらされるメリットは、企業やチーム全体にとっても個人にとっても大きなものです。
心理的安全性の確保と維持のために施策を実施することは、組織やチームだけでなく従業員・チームメンバーにも多くのメリットを与えることができます。

 

現場での実践は難しい?心理的安全性を高める方法とその注意点

心理的安全性を高めるための方法を知るためには、まず低い場合に何が起きているのかを知る必要があります。心理的安全性が不足している環境では、次のような不安によって心理的なブレーキが働くことになります。

【心理的安全性の不足が引き起こす4つの不安】

  • 無知だと思われる不安
  • 無能だと思われる不安
  • 邪魔をする人だと思われる不安
  • 否定的でネガティブだと思われる不安

この不安を放置すると、分からないことや理解が不十分なことがあっても質問や相談できなかったり、失敗やミスを報告せずに隠したり、そのミスを自分だけで解決しようとして、より被害を拡大させてしまうことなどがあります。

また自由な発言が許されない環境では、自発的な発言が抑制され、多角的な視点からの検証や発想がなくなってしまいます。では、このような不安を改善する方法とはどのようなものなのでしょうか。

1)助け合うことで道がひらかれることを正しく理解してもらう

人によって得意な仕事、領域は異なるものです。自分にはできない事をチームの誰かができたり、逆にチームの誰もできない事を自分ができたりします。このような、ある意味では当たり前のことを認識し、そのビジョンを共有するだけでメンバーの精神環境に大きな余裕が生まれます。

2)規律を重んじ、チーム内でフェアな関係を作る

チーム内での発言は一聞すると突拍子もないものであったとしても、価値あるもので検討され活用されるべきものです。しかし、目的や規律が曖昧な環境では、暗黙の了解や強すぎるリーダーシップによる独善的な決定などが発生しやすく、場の空気によって発言内容が制限されることがあります。

このような状況に陥らないようにするため、目標を明確にし、意志を持って行動できる、規律あるチーム作りをしていく必要があります。

3)社会的感受性を高めつつ、発言の機会を均等に確保する
Google社のプロジェクト・アリストテレスらの研究記録によると、どのような課題に

対しても十分な成果を残すことができるチームは、いずれも「社会的感受性の平均値の高さ」と「均等な発言機会」を持ち合わせているといいます。社会的感受性とは、簡単にいってしまえば、他人の表情や態度を見ただけで、その感情を理解できる感性のことです。

これを高める方法にはSensitivty Training(ST)などの感受性トレーニングを実施する方法などがありますが、ちょっと気にするように意識づけするだけで大きくかわります。

また、カーネギーメロン大学における研究を率いたアニタ・ウイリアムズ・ウーリー氏によると、女性は男性よりも社会的感受性診断テストの数値が高く、チームに女性が加わることでより高まるとされています。

均等な発言機会をつくるためには、リーダーが配分を考えながら発言を引き出したり、発言時間を均等に分配する決まりごとを作ったりするなど、チーム内で自由に発言できる環境を作っていくことが大切になります。

4)多様性を認め合い、相手を受け入れる考え方を推進する

チームのメンバーは、出身や性別、年齢やさらには役職など様々です。これらのチームメンバーの多様性を受け入れ、自由な発言を推奨する事で、多角的な意見やアイデアが生み出される土壌が生まれます。

また、他者の意見に耳を傾けることは社会的感受性を育むことにもつながります。このように組織内に心理的安全性を確保することには多くのメリットがありますが、一方でルール付けや運用を誤ってしまうと、それがかえって逆効果を生み出してしまうこともあります。

たとえば、リラックスできる快適な職場環境であることを勘違いし、馴れ合いの関係をつくってしまうことです。このようなことを避けるためにも、現場における意識改革やマネジメントも同時進行で行わなければなりません。

上司やリーダーが各メンバーと積極的にコミュニケーションを取り、状況把握や目標管理を手伝う事はとても大事なことです。上司やリーダーにあたる人は各メンバーをよくサポートし、責任感と安心感を与えられるよう努めましょう。

 

まとめ 腹を割って話し合える現場環境がパフォーマンスを最大化する

心理的安全性は、組織で働いている一人ひとりが本来の自分の姿で働くために欠かすことのできない重要な要素であり、またチームが最大限のパフォーマンスを発揮するための施策です。ですが、まだ十分に浸透している考え方とは言えません。

いわば心理的安全性とは、常に腹を割って話せる関係を築くためのもの。言えない、できないという不安を、チームの人間関係の中でカバーし合い、チーム全体のパフォーマンスを上げるためのものです。

馴れ合いチームや役割放棄がないように注意しなくてはいけませんが、自社に必要な施策を見極めて優先順位をつけつつ実施することによって心理的安全性を効果的に高め、より良い労働環境を作れるよう努めましょう。