「睡眠障害」という言葉がよく聞かれるようになってしばらく経ちました。そこまでいかなくとも、眠りが浅い、寝付きが悪い、と感じている方も多いのではないでしょうか。

2006年、日本大学医学部の内山真教授の試算によると、眠気による作業効率の低下などで発生する経済損失は、およそ3兆5000億円とのことです。睡眠管理と生産性の関係がよく分かる数字です。こういったことから最近では企業向けに睡眠研修を行なう企業などもあるようです。ここでは睡眠管理の方法について考えてみましょう。

日本人の睡眠時間は充分なのか?

「厚生労働省がまとめた『過労死等防止対策白書』によると、睡眠時間が『足りていない』と答えた労働者は、全体の45.6%に達しています。理由としては『残業時間が長いため』が36.1%で最多となっています。睡眠時間を削って行われる長時間労働が見える結果といえそうです。OECD(英:経済協力開発機構)が2014年にまとめた調査では、日本人の睡眠時間は1日平均7時間43分で、加盟25カ国中で2番目に短い(最も短いのは韓国)という結果です。ちなみに25カ国の平均睡眠時間は8時間22分、随分長いなぁと感じるならば、こちらの感覚の方が麻痺しているのかもしれません。

また、2015年の厚生労働省「国民健康・栄養調査」では、1日の平均睡眠時間が6時間未満の割合は男女ともおよそ40%です。そのうち「日中、眠気を感じた」人は男女それぞれ 44.5%、48.7%となっています。6時間睡眠に関しては、「2週間続けると集中力や注意力が低下し、脳の機能が徹夜明け程度まで落ちることがある」ことがペンシルベニア大学などの研究で明らかにされています。また、脳の機能低下に本人に自覚がないこともあるそうです。これは作業現場などでの不慮の事故を招きかねない危険な状況と言えるのではないでしょうか。

また、経済的側面からの研究も進んでいます。非営利研究機関ランド・ヨーロップの調査研究によると、睡眠不足による経済損失額を国内総生産(GDP)比で見た場合、日本は2.92%となり、調査対象5カ国のうちで最大となっています。損失額で見ると、米国の年間4110億ドル(約47兆円)についで、日本は1380億ドルで2位です。

これらのことに対し、第一生命経済研究所の柵山順子主任エコノミストは「長時間労働をしなくてはいけないような雰囲気や、長時間労働をすることで求められている以上のものを返すことを良しとするような文化が、睡眠時間の不足や生産性の上がりにくい状況を作ってきている」と指摘します。

勤務間インターバル制度とはなにか

こういった状況を受けて、昨今「勤務間インターバル制度」が注目されています。自民党政務調査会の「働き方改革に関する特命委員会 中間報告」(平成28年12月15日)では、「勤務間インターバルについては、当面は、これを導入する中小企業への助成金の創設や好事例の周知を通じて、労使の自主的な取り組みを推進することにより、将来的に規制導入を進めていくための環境を整えていく」 と述べています。

この「勤務間インターバル制度」は、1993年にEUで制定され、2000年に改訂されたEU労働時間司令に基づき、勤務終了後、一定時間以上の休息に関して義務付けられたものです。例えば、日本で早くからこの制度を進めているKDDIでは、8時間のインターバルを就業規則に定め、翌日の始業時間を調整することを厳守するものとしています。

みずほ情報総研株式会社による「平成27年度厚生労働省委託 過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究事業 報告書(平成28年3月)」では、アンケートに回答した1,743社のうち、勤務間インターバルを導入していると回答した企業は39社、そのうちインターバル時間を「7時間超8時間以下」とする企業が28.2%で最も多く、次いで「12時間超」が15.4%、「11時間超12時間以下」が12.8%という結果となっています。現在では企業が自主的にルールを置いている段階、この先の法整備が待たれています。

すっきり起きる目覚まし法と睡眠管理できるアプリ&グッズ

さて、ここまでは社会的な睡眠管理について見てきましたが、ここで自己管理の方法についても考えてみましょう。人間の睡眠は「90分サイクル」で「レム睡眠(浅い睡眠)」「ノンレム睡眠(深い睡眠)」を繰り返すと言われてきました。しかし、最近の研究によると、実はこのサイクルは必ずしも90分ではなく、人によって異なるようです。また、季節や寝具、光や音の状況でも変化します。そうなると、90分から計算して逆算して目覚ましをかけてもうまく起きられない、という人は自分の睡眠サイクルが異なっていたのかもしれません。

こういったときに便利なのが、睡眠管理アプリです。枕元にスマホを置いて眠るだけで指定した起床時刻周辺の起きやすい時刻にアラームを鳴らしてくれます。仕組みとしてはどのアプリも基本的にスマホが感じ取る「振動」を元に睡眠状態を計測しています。なので、寝ているときの振動が伝わらない場所にスマホを置いては意味がありませんのでご注意を。

編集部オススメ睡眠アプリ

Sleep Meister – 睡眠サイクルアラームLite

開発:Naoya Araki 対応機種:iPhone

https://app-liv.jp/599456380/

レム睡眠を察知してアラームが鳴る。眠りの質をグラフにまとめて統計化。寝言やイビキの録音も可能。総合的に眠りの質を管理できる。

Sleep as Android

開発:Urbandroid Team 対応機種:Android

https://android.app-liv.jp/000970815/

睡眠の波を解析・判断し、ベストなタイミングで起こしてくれる目覚ましアプリ。特別な機材は一切必要ナシ。枕元に置くだけですぐに使える。

熟睡アラーム-目覚ましと熟睡サウンドでスリープ&リラックス!

開発:株式会社C2 対応機種:iPhone 、Android

https://app-liv.jp/827600695/ (iPhone版)

https://android.app-liv.jp/000975190/ (Android版)

寝返りなどの動きから睡眠の質を記録。就寝・起床リズム等をグラフ化して睡眠の質を詳しく確認できる。リラックスサウンドで、睡眠の質向上をサポート。

こちらのオススメの他にもAndroid、iPhoneともにさまざまなアプリがあり、無料で使えるものも多いので、ぜひ探してみてください。

もっと本格的に、という人には本格的な睡眠計がオススメ。オムロンやTANITAなどのメーカーが生産しており、一部は一般医療機器としても承認されているものもあります。リストバンド式から、ベッドサイドに置いて微弱な電波センサーで測定するもの、枕元に置くもの、などさまざまです。意外と言ってはなんですが、デザイン性もあり、シンプルでかっこいい感じもします。

参照:SAKIDORI「オムロン?それともタニタ?おすすめの睡眠計14選!リストバンドタイプから目覚まし機能付きまで睡眠計測器特集」

https://sakidori.co/article/11599

関連記事:ぐっすり眠って翌日も元気に出社 熱帯夜でも快適に過ごせる安眠寝具特集

http://kaitekigenba-plus.net/2017/09/29/1168/

まとめ

ここまで睡眠管理に関して、現状把握、対策としての「勤務インターバル制度」、自己管理の方法まで考えてみました。ふと、その昔「24時間戦えますか」というキャッチフレーズのCMが流行った時代もあったことも思い出されます。平成の始まりの頃でしょうか。「寝ないで頑張る」ことで発展できた時代があったのかもしれません。しかし、当時はスマホやインターネット、ケータイ電話もなかったはずです。つまり、働き詰めでもどこかで自分をオフにすることはできたはずです。

翻って現代では、24時間オンラインです。いつでもどこでも働けてしまいます。だからこそ、逆にどう休むか、どのように眠って、頭を休ませればよいか、といったことが大きな問題だと言えるでしょう。現代は働いた分だけお金になる、という時代ではありません。どううまく頭を休めて生産性をあげるかということが喫緊の課題と言えるのではないでしょうか。

<参考URL>

日経新聞「健康経営へ睡眠研修の導入広がる」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO14056060U7A310C1XV3000/

日経スタイル「睡眠の短さ際立つ日本人 生産性に影響も」

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO20232760S7A820C1EAC000

財経新聞「日本人の睡眠時間、6時間未満が4割」

http://www.zaikei.co.jp/article/20170710/384267.html

厚生労働省「平成27年 国民健康・栄養調査結果の概要」(PDFファイル)

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/kekkagaiyou.pdf

Bloomberg「寝不足がもたらす膨大な経済損失、頭痛だけでなく生産性の低下も」

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-02-15/OL002C6TTDS201

日本の人事部プロフェッショナルネットワーク「働き方改革で注目を集める勤務間インターバル制度設計と就業規則」

https://service.jinjibu.jp/article/detl/bizguide/1761/