熱中症やその対策に関しては毎年話題に上がります。しかし、職場における熱中症による死傷者数は、平成22年以降毎年400人を超え続けています。熱中症は予防が第一。対策はまだ先で大丈夫と考えず、早い時期からしっかりと準備することが大切です。ここで実際にどのような状況で熱中症が発生しているのか、また、どのような対策・準備が可能なのか、今一度考えてみましょう。

 

職場における熱中症の最近の発生状況

熱中症は例年の平均よりも暑かった年に特に多く発生しています。2016年のデータによると、疾病者数、死亡者数ともに建設業が最多、2位は製造業で、この2つの業界で全体の半数を占めています。月別では、7月と8月、時間帯では14時から16時台が最も多いタイミングです。また、作業終了後、帰宅してから体調が悪化するケースもあります。異常を感じたらすぐに病院へという意識を持ちましょう。年齢別に見ると大差はなく、若いから大丈夫ということはありません。労働者全員に危険があります。

 

平成27年に起きた死亡事故の実例を2つ見てみましょう。WBGT値という単語が出てきますが、これは一般的に「暑さ指数」と呼ばれます。気温のほか、地面や建物などから出る輻射(ふくしゃ)熱、湿度、風の影響までを取り入れた国際的な指標で、熱中症予防を目的に提案された数値です。販売されている機器で測定することが可能であるほか、環境省の「熱中症予防情報サイト」で数値が公開されています。この数値が28℃を越えると著しく熱中症患者数が急増することがわかっています。

 

◎建築工事業 50歳代

8時頃 住宅の新築工事現場で基礎の型枠の組立作業を行う

15時頃 気分が悪そうに座り込み、型枠に寄りかかった。事業主が帰宅を指示したが、車を正常に運転できなかったため、事業主は、気分が良くなったら帰宅するよう指示。

17時30分頃 作業を終えた事業主が車の運転席で横たわっている被災者を発見。

病院に搬送されたのち死亡。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は 31.8℃
  • 被災者に対して熱への順化期間(身体を慣らすための期間)は設けられていなかった。

 

◎建設工事業 40歳代

7時50分 事務所の新築工事現場で、コンクリートブロックの仮置き作業

14時50分頃 被災者がふらつきながら事務所裏手に歩き、よく分からない言葉を口走ったため、同僚が付き添い、水分を取らせて日陰で休ませた。その後、次第に被災者の目の焦点が合わなくなり、地面に倒れて呼びかけにも応じなくなり、同僚が 119 番通報。

病院に搬送されたのち死亡。

  • 環境省熱中症予防情報サイトによるWBGT値は 29.5℃
  • 水分や塩分の摂取は労働者任せであった。
  • 被災者に対して熱への順化期間は設けられていなかった。
  • 被災者は熱中症発症に影響を与えるおそれのある疾患を有していた。
  • 被災者に対して熱中症に関する教育は行われていなかった。

 

いずれも事前の対策で予防できた部分がいくつもあることが理解できるかと思います。こういった点について厚生労働省は以下の予防策をまとめています。

 

 

準備期間(4月)にやっておくべき7つの項目

こういった熱中症を予防するための対策として厚生労働省は以下の7つを挙げています。

①WBGT値(暑さ指数)の把握の準備

JIS規格に適合したWBGT測定器を準備しましょう。

②作業計画の策定等

WBGT値など、状況に応じた作業の中止、休憩時間の確保など夏期の暑熱環境下に対応した作業計画をあらかじめ策定しておきましょう。

③設備対策の検討

簡易な屋根の設置、通風又は冷房設備の設置、ミストシャワー等による散水設備の設置を検討しましょう。

④服装等の検討

透湿性及び通気性の良い作業着、帽子、ヘルメット等を準備しましょう。冷却機能のある作業着(クールベスト等)の導入も検討しましょう。

⑤休憩場所の確保の検討

冷房を備えた休憩場所又は日陰等の涼しい休憩場所の確保を検討しましょう。

⑥教育研修の実施

各級管理者、労働者を対象として、熱中症予防のための教育を行いましょう。

⑦熱中症予防管理者の選任等

熱中症の予防を管理する責任者を選任するとともに、管理体制を整えましょう。

 

まず現場のWBGT値を正確に知るための機器を準備し、こまめな休憩(水分補給)を含めた作業計画を策定します。また適切に休憩を取るための設備(氷、冷たいおしぼり、シャワー等)が必要です。作業中の身体の負担を減らすための対策は欠かせません。まずは、熱のこもらない作業着を採用することが大事です。また、熱中症予防の責任者を任命し管理体制を整えた上で、予防の知識を全員が把握できる研修を行います。

 

熱中症にならないためのグッズ

まず大事なのが、現場の状況を知ること。WBGT値や温度・湿度チェックを徹底し、非常用の冷却パックも準備しておきましょう。また、安全を確保して作業を効率よく進めるには空調服が最適です。こういった備えられる物品に関しては、早いうちに準備しておきましょう。

 

編集部オススメ熱中症防止グッズ

 

(WBGT測定器)

タニタ TT560WH 黒球式熱中症指数計 熱中アラーム 

http://www.tanita.co.jp/product/g/_TTT561BL/

ポケットに入り携帯に便利な熱中症指数計。11段階で熱中症の危険を分類し、危険度に合わせて異なる警告アラームでお知らせ。アラームの音量は3段階で切替え可能。屋内、屋外、直射日光下でも使用可能。

 

(環境管理温度・湿度計)

EMPEX(エンペックス) TM-2486 防雨型

https://www.empex.co.jp/products/heatstroke_cautions/index.html

熱中症の注意レベルを4段階で表示。壁掛けタイプで、作業所等の状況をすぐに把握できます。

 

(瞬間冷却パック)

クイックフリーズ(サンケイ商事)

http://www.sankei-shoji.co.jp/chiro/quick

急速に冷却し持続時間が比較的長め(30℃の静置で90分)。タオルに巻いて脇、脚の付け根、首を短時間冷やすと効果的です。長時間の使用は血管が収縮し、立ちくらみの危険があるので注意。

 

(空調服)

空調服(株式会社空調服)

http://www.9229.co.jp/product_wear.html

快適な作業服。電動ファンを内蔵し、気化熱で身体を冷やします。身体が汗をかく自然な仕組みを利用して体温のバランスを保つ仕組みです。

 

まとめ

ここまで早めの熱中症対策で必要なことをまとめました。熱中症は事前の対策がなによりも重要です。また対策をすることで未然に防ぐことができるものです。まずは、作業状況をしっかり確認して作業計画を策定すること。休憩設備、ドリンク補給設備などを充実させること、その上で作業時の服装に意識を向けることが大事です。滞りなく作業を進めるには、作業員の安全に対してしっかりとコストをかけることです。また、安全に対する意識を持って取り組むことで、企業としての信頼性は高まります。

 

<参考URL>

厚生労働省 STOP!熱中症クールワークキャンペーン

「職場における熱中症の最近の発生状況」(PDFファイル)

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/shosai.pdf

 

厚生労働省「職場における熱中症による死傷災害の発生状況(平成27年)」(PDFファイル)

http://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11303000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu-Roudoueiseika/0000125407.pdf

 

環境省「熱中症予防サイト」

http://www.wbgt.env.go.jp/

 

環境省「熱中症要望情報サイト 暑さ指数(WBGT)とは?」

http://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php