仕事中や通勤中というのは、考えてみると家庭とは比較にならないほどたくさんの危険が潜んでいるものです。とはいえ、危険な環境であるとはいっても、その途上で起こった全てを労働災害として扱えるわけではありません。業務と労働者の死傷病との間に「因果関係」がある場合にのみ、労働災害は認められます。

この因果関係は2つの基準を中心にして判断されます。業務遂行性(雇用者の管理下で就業している状態か)と業務起因性(業務と死傷病との間に一定の因果関係があるか)という基準です。この基準を満たしていれば労働災害として認められます。ただし例外もあって、労働者に故意や重大な過失があった場合は不支給になったり、支給が制限されることもあったりします。

ここでは労働災害の種類やケースについてご紹介するとともに、労働災害を減らすために何ができるかを見ていきましょう。

油断は禁物! 労働災害はこれだけ起きている

厚生労働省による平成28年の労働災害発生状況の報告書によると、年間の労働災害による死亡者は928人。928人という数字は多いように見えますが、年間の死亡者数は右肩下がりで年々低下しています(※平成28年は前年比4.5%減少)。

業種別に分けた統計によると、死亡者が全体で928人の内、建設業が294人、製造業が177人、陸上貨物運送事業が99人と多くを占めています。

また、休業を4日以上必要とするような労働災害は、年間で117,910人もの労働者に降り掛かっています。業種別では、製造業が26,454人、建設業が15,058人、陸上貨物運送事業が13,977人、小売業13,444人と多くなっています。

年代別では40代以降が労働災害全体の70%を占めており、40代で26403人、50代で27603人、60代以降は28605人となっています。40代は、若い頃のままの感覚と衰えはじめた肉体が一致しなくなってくる時期です。自分を過信せず何事にも慎重に行動するよう心がけましょう。

事故の型で見る労働災害の発生状況にも傾向がありますので確認してみましょう。

死亡災害では、高所からの「墜落・転落」が232人、「交通事故(道路)」が218人、機械などによる「はさまれ・巻き込まれ」が132人となっています。

休業を4日以上必要とするような労働災害では、つまずきなどによる「転倒」が27,152人、高所からの「墜落・転落」が20,094人、腰痛などの「動作の反動・無理な動作」が15,081人となっています。

自身の仕事と照らし合わせてみたとき、いかがでしょうか? 労働災害が多い傾向がある現場で働いているならば、現場の安全が十分に確保されているか今一度、確認して見てください。

安全対策への反発が不安全行動を生み出す?

危険の多い現場においては日常的に安全対策や安全講習会などが実施され、対策を練り、安全装置を使いながら作業されているかと思います。現場の労働者の努力によって凄惨な労働災害は年々減っていますが、しかしそれでも労働災害は完全になくすことは難しいのが現状です。安全対策や安全講習会は労働災害の防止に寄与していますが、必ずしも完璧に機能しているわけではないのかもしれません。

安全対策とは、むやみに実施すれば良いと言うものではありません。現場に沿った適切な対策をとらなければ逆効果になってしまう事があります。講じられた対策が現場に即していない的外れな内容であったり、現場において安全対策やルールが守られていない事があったりするとしたら、労働災害を減らすことは難しいでしょう。

○的外れな対策の例

高所での作業では安全装置としてロープ等を使用する場合がありますが、高所でなければロープは邪魔になりかえって危険なものです。ですが、現場全体でロープの着用を義務付けるような安全対策がルールとして作られてしまうと、高所以外での作業時には逆に労働災害の可能性は高まってしまいます。

こういった、現場に沿っていない机上の安全対策は、現場の状況や労働者の意見を反映させて効果的な形に正していかなければなりません。

○安全対策が正しく実行されない

労働者にとって安全講習会などへ出席して延々と話を聴かされる事は面倒な事です。新しい安全対策やルールが作られて道具や手順が増える事は、労働者にとっては作業の手間を増やされたと感じるもの。仕事を煩雑に感じさせます。

いくら面倒だとしても、労働者が安全対策を面倒・不要なものとして省略してしまい、正しく実行しないとどうなってしまうでしょうか。適切な安全対策がどれだけ実施されても、これでは効果がありません。このような意図的に行われる安全ではない行動を「不安全行動」と言います。不安全行動を減らし、正しく対策が実行されるよう注意を払う必要があります。

不安全行動を防ぐには意識改革と管理が決め手!

厚生労働省調べの『労働災害原因要素の分析(平成22年)』によれば、労働災害発生の原因全体のうち97.6%が不安全行動に起因する労働災害となっています。正しい安全対策を「忙しい」「面倒くさい」「みんなやってるから」といって省略してしまったり、「長年やっているから大丈夫」などの慣れや過信から不安全行動がとられてしまったりすることが、大多数の労働災害を生んでいるといえるでしょう。こういった不安全行動について知り、意識改革や管理を進め、一つずつ芽を摘んでいくことが一歩進んだ安全対策になります。

厚生労働省では、不安全行動の類型として以下の12項目を挙げています。

【労働者の不安全行動】

[1]防護・安全装置を無効にする
[2]安全措置の不履行
[3]不安全な状態を放置
[4]危険な状態を作る
[5]機械・装置等の指定外の使用
[6]運転中の機械・装置等の掃除、注油、修理、点検等
[7]保護具、服装の欠陥
[8]危険場所への接近
[9]その他の不安全な行為
[10]運転の失敗(乗物)
[11]誤った動作
[12]その他

引用元:厚生労働省「不安全行動」

不安全行動は、要因として、①労働者の要因、②作業の要因、③作業環境の要因、④安全管理の要因、⑤組織の要因等の様々な要因が絡み合って発生すると考えられています。つまり、不安全行動は個人の心構えや意識だけの問題ではなく、管理・監督の不徹底や、設備・環境面の欠陥によってもたらされるケースもあるという事です。

不安全行動を防止するには、上記の12の項目について対策を考える必要があります。[1]、[2]、[7]などについては指導や監督によって注意し防止することが可能ですが、[3]、[4]、[6]、[8]などについては、不安全・危険な状態や場所についての認知から始まり、定期的な機械のメンテナンスや危険の周知、環境改善が必要になります。職場における人間関係が良好であれば、互いに声をかけあう事も抵抗なくできることです。労働時間や休日休憩といった労働条件の適正化も、労働者の注意力向上に繋がります。こういった労務管理においても不安全行動防止の観点を持って考えなければなりません。

また、十分な安全教育も大切な事です。安全教育は、十分に時間をとって教えたつもりでいても、教えた内容が労働者に伝わり、さらには実践されなければ意味がありません。教えた内容を日常の作業において実践させ、不安全行動を見かけたらすぐに注意し、「あるべき姿」を身に付けさせることが重要です。

まとめ

管理者と労働者の間には、安全対策について意識の差が存在してしまいがちです。それが不安全行動を生む原因になってしまう事は多いのですが、管理者側がどのような安全対策を作ったとしても、労働者が自分の安全を自分で守らねばならない事に変わりはありません。身体を賭けて仕事をしているのは労働者なのです。

安全の大切さや労働災害の怖さを日々意識に植え付け、互いに注意喚起を繰り返し、適切な安全対策を実行していく事がとっさの場面で安全を生んでくれます。労働者は、安全対策を上から与えられた面倒なものとせず、日々気持ちを新たにして安全意識を持ち続けられるように心がけましょう。管理者は、労働者の気持ちに寄り添えるよう努めながら、不安全行動を抑止できる策を考えていきましょう。

また不安全行動防止に向けた、さまざまな取り組みについて知りたい方は『現場の安全「ヒヤリ・ハット」報告を習慣に! 意識づけで事故を防ぐ』『不安全行動防止にも効果アリ!? 現場でのメンタルヘルス対策』『「安全衛生経費」の確保が、現場の安全を高める』をご覧になってください。

現場の安全「ヒヤリ・ハット」報告を習慣に! 意識づけで事故を防ぐ

不安全行動防止にも効果アリ!? 現場でのメンタルヘルス対策

「安全衛生経費」の確保が、現場の安全を高める

<参考URL>

安全衛生マネジメント協会「労働災害の基礎知識 – 労働災害とは?」
厚生労働省「平成28年労働災害発生状況」
労働災害防止への提言