「近頃の新人は……」というぼやきはいつの時代にも聞かれるものですが、人材育成という問題はいつの時代も悩みのタネです。「経営資源」と言われるものには「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」があるといわれます。しかしよく考えてみると、「モノ」「カネ」「情報」を企業にもたらすものはなにかといえば、やはり「ヒト」。こう考えると「ヒト」をどう育てるかは、企業にとって最も大事なことになるでしょう。ぼやいているだけでは終わらせられない問題である人材育成について、どのように考えていけばよのでしょうか。

 

やってみせるOJTはなぜ必要? どう行う?

端的にいえば、人材育成において最も大切なのは部下のやる気をどう維持するか、またどう引き出すか、という点です。そのため、指導する上で意欲的な部下には、やや強く厳しくし、そうでない場合はうまく励ますということが人材育成の基本的な態度として考えられています。また能力不足で失敗が起きた際には、叱責したり、問い詰めたりせず、「いつまでにやるか」もしくは「どのようにやるか」と訊くほうが効果的だといえます。

職場での教育・指導法の代表的なものとして挙げられるものに、OJT(On the Job Training)とOff-JT(Off the Job Training)があります。OJTとは実際にその仕事を行いながら教育する方法、Off-JTとは仕事から離れて、講師によるセミナーや研修会を通じて行う教育です。もちろんどちらも並行して行う方が効果的ですが、重きを置いたほうがよいのはOJTです。Off-JTは、一般的な仕事内容や知識を知る分にはいいかもしれませんが、外部に委託する場合が多く費用がかかります。また現場での動きや注意点は、肌感覚で慣れた方が早いという側面もあります。

OJTの基本ステップは以下の4つです。

  • やってみせる(Show)
  • 説明する(Tell)
  • やらせてみる(Do)
  • 確認、追加指導(Check)

「やってみせる(Show)」では、指導者が実際に作業をして具体的に動きを真似できるようにします。まずはとにかく真似ることからスタートです。「説明する(Tell)」ではなぜこれを行うのか、この作業や行為の意味や目的を教えます。意味や目的が分かれば、この作業のどこが重要なのかということを教わる側は理解します。理解することで次の発展的作業もスムーズに行うことができるようになるはずです。「やらせてみる(Do)」では実際に作業を行ってもらいます。ここでは、適度な失敗も大事な学びになります。うまくいったことだけでなく、うまくいかなかったことも体験してもらうことが大事です。「確認、追加指導(Check)」では、やらせてみた結果に対して、できたこととできなかったことを振り返り、できていればより詳しく、できていない部分があればなぜできなかったかを振り返り、学びにしていきます。そして、次にやるときには、どのようにやるのか?などの目標を設定してもよいかもしれません。

こう書くと非常に単純ですが、この繰り返しが重要です。新人が上達してきたら、段階を踏み、より高度なトレーニングを実行していきます。もちろん、一度で習得する人もいれば、複数回必要な場合もあります。指導者には根気強さが必要です。「最近の若者は〜」とすぐに言ってはいけません。そう言いたくなったら、同じ作業を何度でも繰り返します。また、その場の単発的なアドバイスだけではあまり効果があがりません。業務マニュアルをしっかり作り、指導者が変わっても同じ指導ができるよう職場の人間で協力し、評価基準を提示して、どこまでできればいいのかを明確に示す必要があります。

 

OJTを行っていない会社には将来性がない?

ただ、現状としては、OJTを行っていない企業もあり、中小、零細企業では少なくないようです。労働政策研究・研修機構の調査によると、従業員300人未満の企業では1割あまりが人材育成方針を定めておらず、従業員数が減るにつれてその割合は増えます。従業員10人未満の企業ではその割合は4社に1社にまでなり、OJT経験の自覚がない従業員も3割超いるという結果が出ています。

一方、OJTを実際に行った成果に関しては、「うまくいっている」と回答した割合がおよそ8割に達しています。また、同アンケートでは、「指導する人材が不足している」「人材育成を行う時間がない」「鍛えがいのある人材が集まらない」といった声も上がっています。

小さい規模の会社ではOJTに割く時間や人材が不足している状況があることも考えられます。悩ましい問題です。しかしOJTは新しい人材を低コストで即戦力として育てる手段と言えます。人材が不足しているからこそ、なんとか時間と気力を割いて行うべき方法であるとも言えるのではないでしょうか。

 

コーチングを活用した、さらなる主体性の引出し

OJTと並んで「コーチング」も人材育成の場ではよく使われる方法です。コーチングは、OJTが指導員の作業を真似てマスターすることに重きを置くのに対し、そこからさらに主体性をもって仕事を行わせるためのコミュニケーションの方法、と考えていいかもしれません。

「コーチング」は主に対話で行われます。対話といっても、指導者が「質問」をなげかけ、それに対して相手が答えを考えることで気づきを促す方法です。相手の中にある言葉を引き出して整理させ、気づきを誘発することで主体的な行動をさせることが狙いです。そのためコーチは基本的にアドバイスをしません。

アドバイスをせずに、質問によって相手に気づきを促すというのは、なかなか大変な作業です。少しコーチングの研修を受けただけでは、適切な部分で「質問」を投げることはできません。よくあるのが、相談を受けたコーチ役が簡単に「答えはあなたの中にある」と返してしまうことです。もちろん、答えを与えず、考えさせるのがコーチングの方法ですが、ただ「答えはあなたの中にある」というだけでは、質問された側は困るだけです。そんな時は、質問だけでなく「こうしたらどうだろうか?」「これは、こういう風にやったほうがいいと思うけど、どうだろうか?」のように、コーチング(質問)だけでなく、ティーチング(教え)を交えながら対話してみてもよいかもしれません。

コーチングには大変な時間がかかります。相手の状況をよく確認し、相手が物事をどう捉えているかを知らなければ、有効な質問を投げることができないからです。OJTは一通り終えて、さらに部下に足りないものがあると感じていれば、しっかりと時間をかけて部下の話を訊き、部下と自分の意識にずれがあるとすればどこか、検証する必要があります。その認識がずれているところで、自分の考えはとりあえず保留して、「どうしてそう考えるのか」と率直に相手の意見を訊いてみることが大事です。相手の話をじっくり聴く姿勢を意識すると、もしかしたら、指導役にも新しい発見があるかもしれません。

 

まとめ

ここまで部下にどう成長してもらうかということを考えてきました。まずはOJTの方法を社内でしっかり共有し、根気強くなんども繰り返して真似させ、一定の仕事ができるようにすること。ある程度のことができるようになったら、部下の状況をよく観察し、よく話をして、相手がどこで困っているか、何をどう考えているのかを理解しようと努めた上で、適切な質問を投げる「コーチング」の方法を試してみることです。「忙しいから」「時間がないから」ではなく、まずはともに働く相手のために少しでも時間を割くことを意識してみるくらいでもいいかもしれません。未来の「ヒト」への投資が、職場の明るい将来を切り開くのです。

 

参照元

まちみらい千代田「人を育て、人を活かして競争力を高めよう!」

起業.TV「 OJTとは?4つの手順と3つの原則を学んで、改善点を探してみよう」

独立行政法人労働政策研究・研修機構「10 人未満の企業では4社に 1 社が人材育成方針を定めず、OJT 経験の自覚がない従業員が 3 割超」(PDFファイル)