現在の日本は大きな節目を迎えています。もっとも大きいのは「少子高齢社会」の到来です。労働人口は1995年から下がり続けています。労働人口の減少は国力や生産力の低下に直結することから、さまざまな人がさまざまな形で社会に関わり、生産力を維持できるよう、国は労働環境を変えようとしています。その最大の政策が「働き方改革」と言えるでしょう。ここで「働き方改革」の現状とこれからの課題について考えてみましょう。

 

働き方改革とは

「働き方改革」関連法が、2019年4月1日に施行されます。これは雇用対策法、労働基準法、労働時間等設定改善法、労働安全衛生法、じん肺法、パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の改正を行う法律の通称です。この法律改正の元になる考え方として2017年3月28日に「働き方改革実現会議」が決定した「働き方改革実行計画」があります。この概要から、「働き方改革」の基本的な考え方を大きくまとめると、大きくは以下の3点です。

  • 働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持ちうるようにする
  • 労働生産性を改善する
  • 消費を押し上げ、より多くの方が心豊かな家庭を持てるようにする

 

また実行計画を見ると、具体的な方策としては以下の見出しがあります。

  • 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
  • 賃金引上げと労働生産性向上
  • 罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正
  • 柔軟な働き方がしやすい環境整備
  • 女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備
  • 病気の治療と仕事の両立
  • 子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労
  • 雇用吸収力、付加価値の高い産業への転職・再就職支援
  • 誰にでもチャンスのある教育環境の整備
  • 高齢者の就業促進
  • 外国人材の受け入れ

 

どれも早急な対策が必要とされるものかと思われます。またこの資料のはじめに「日本の労働制度と働き方にある課題」として「正規、非正規の不合理な処遇の差」「長時間労働」「単線型の日本のキャリアパス」の3つが挙げられています。大きくはこれらの問題の解決をもとめて有識者が議論をしています。

 

具体的にどう変わっていくのか

上記3つの大きなポイントについて、今後どのように改正されようとしているのか、少し詳しく見てみましょう。

 

1.正規、非正規の不合理な処遇の差

「基本給は正社員と同一の経験や能力を持つ非正規社員にも経験や能力に応じて同一の支給をしなければならない」と明記されました。企業は勤務時間だけでなく、能力や仕事ぶりといったことも評価するよう求められます。これまでであれば、同じ能力であったり、技術やノウハウを持っていたりしても非正規雇用であるというだけで所得が大きく減っていました。しかし、改正により、たとえば育児や介護などで短時間労働を希望する場合でも、本人の能力やノウハウに応じて、これまでの非正規よりよい収入を得ながら働くことができるようになります。

2.長時間労働

長時間労働に対しては、「時間外労働の上限規制」「勤務間インターバル制度導入」「労働者の健康管理の強化」という3つのポイントから意識改革が迫られます。また、月45時間以上の時間外労働は年6回までといった制限が法的に定められます。こういった取組から生産性の向上を目指し、いままで育児や介護に取り組むことの難しかった人たちが、積極的に自身の健康や家庭の健康に関わることのできる環境が実現します。

3.単線型の日本のキャリアパス

単線型のキャリアパスとは、一度離職したあとの再就職が困難な現状を指します。しかしこれは、労働力が不足する現在では不合理です。このことから、すべての働く意欲のある人が柔軟に働けるような環境整備が行われます。定年延長への働きかけだけでなく、高齢者の再就職支援も行われ、在宅勤務(テレワーク)やこういった業務形態に必須のリアルタイムの情報共有ツールの普及を進みます。このことによりさまざまな条件により出社できない人が、自宅で仕事をできるような支援が行われます。

 

同時に、こういった大きな道筋に沿って、副業・兼業の普及促進が図られています。ここで労働者のメリットとして挙げられているのが、離職せずとも別の仕事に就くことができ、スキルや経験を得てキャリアを主体的に形成できるということが主なものです。こういった改革はこれまでのさまざまな慣習を変化させて行くと思われます。たとえば、年功序列の給与制度は「同一労働同一賃金」が実現すれば一変するでしょう。また、副業が解禁されれば、個人が一つの企業と一体化して生きていくといった終身雇用制度も大きく揺らぐでしょう。つまり、雇用の流動化が促進されることが考えられます。

働き方改革がもたらす新たな問題

「働き方改革」は個人の自由な働き方や仕事のやりがい、ひいては個人が生きがいを発見する方法になる可能性は十分にあります。また、今回の改革では「より良い将来」や「働きがい」という言葉が随所に出てきます。これはもちろん、理念としてたいへん望ましいものだと思われます。しかし、現実的な問題として、この改革には不透明な部分もつきまといます。例えば、以下3つの点を挙げてみました。

 

  • 「同一労働同一賃金」の問題

「同一労働同一賃金」が実現するとしても、労働者全員が正社員並みの待遇を受けられるかといえば、なかなか難しいのではないでしょうか。非正規の待遇がよくなるということは、その分、正社員の賃金水準の引き下げが起こる可能性はあります。ここで求められるのは、明確な職務の分離かと思われます。賃金を高くする仕事内容があるとすれば、その賃金が高い理由をより明確にすることが求められます。

  • 副業・兼業の解禁の問題

副業・兼業の解禁によって、労働者は企業の管理の行き届かない仕事を背負い、結果的に長時間労働になるのではないか、という可能性もあります。この点に関しては「働き方改革実行計画」の中でも、ガイドラインの制定など実効性のある制作手段を講じると明言されています。この先のガイドラインがどのように制定されるか待つ必要がありそうです。

  • 高度プロフェッショナル制度、裁量労働制に関する問題

いわゆる高プロ、裁量労働といった労働形態も提案されていますが、これは、年収や仕事の内容によっては、企業が残業代を払わなくていい場合の基準と考えていいかもしれません。つまり、高プロや裁量労働とされた労働者には1日8時間、1週40時間という労働時間規制の適用外ということになり、労働法の大原則から外れます。これが果たして許されるか、認められるかというところは、よく状況を見る必要があるでしょう。

 

まとめ

「働き方改革」の中心は、多様な人材が多様な働き方をすることで、労働生産性を向上させ、消費を押し上げるというものかと思われます。このことが国民の安心を呼び、心理的により豊かな生活を営むことができるというものです。労働者がより安全に、より豊かに生きるために重要な改革かと思われます。

一方で問題も残っています。この改革は個人の自由をある程度大きく取り入れている点を評価できますが、どのようにそれを保証するのかというところがはっきり見えてきません。高プロや裁量労働の労働者をこの法律で本当に守れるのかは不透明な部分です。

改革の理想は、必ずしも現実に即した形で実現できるとは限りません。より働きやすい環境をつくっていくためには、現場の状況を注視しながら折り合いをつけていく必要がありそうです。

また、働き方改革について詳しく知りたい方は『「ワークライフバランス」を見直すことで仕事が劇的に変わる理由』『有給休暇100%義務化に向けて 現場のための「休み方改革」』を、併せてをご覧になってください。

「ワークライフバランス」を見直すことで仕事が劇的に変わる理由

有給休暇100%義務化に向けて 現場のための「休み方改革」

 

<参考URL>

マイナビニュース 働き方改革関連法が2019年4月に施行、対応すべき7つのポイントとは?

WORKSHIFT DESIGN 働き方改革で環境はどう変わる?改善できるポイントに注目しよう

首相官邸 働き方改革実行計画(概要)

厚生労働省 副業・兼業

東洋経済ONLINE 「高度プロフェッショナル制度」に隠された罠 年収400万円も狙う「残業代ゼロ法案」の含み