快適な現場というのはどういうものなのか。快適な現場にするにはどうすればいいのか。そこに「プラス」すべきことはどういったことなのか。数多くの経営者の共創場活軍師として活躍し、現場を知り抜く株式会社ここはつ代表、西村統行(にしむら・のりゆき)さんにその真髄を訊く。第2回(全3回)。

 

西村統行「快適であるということは、生産性が高いこと」【現場を知る賢者インタビュー】第1回

西村統行「快適な現場では、人と人とがつながっていく」【現場を知る賢者インタビュー】第3回

 

【Profile】

西村統行(にしむら・のりゆき)/株式会社ここはつ代表、共創場活軍師。1961年三重県生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。株式会社リクルートを経て、多くの企業の経営に関わり育ててきた。

 

快適に働ける現場をデザインする

 

――― 現場のコミュニケーションの課題というのは、経営側の立場の方々ならばもちろん意識されていることだと思いますが、実際にどのようなアプローチをされているのでしょうか。

 

私が感心させられたのは、埼玉県にある産業廃棄物・リサイクル会社での取り組みです。これはよくできていると思った。

その会社では周辺環境にとって、社会にとって、ひいては人類にとってというところもあるのですが、産業廃棄物ってものすごく粉塵がでますよね。そういった作業を国内で初めて屋内ですべての行える工場を作ったんですよ。それこそ騒音対策などもしっかりなされていて、雨水を利用して運搬車の清掃ができるようにしたりという創意工夫がなされているんです。これは、先ほども話した現場のキレイさの部分を追求していた結果だと思います。普通でしたら、産廃・リサイクルの工場が家の近くにあったら汚そうだし、うるさそうだし「嫌だな」と思うのが一般的な感覚のように思えますが、この会社の工場にはそれがないんですよ。

このような現場は、騒音やゴミ、そして人の出入りが多く、周辺環境ということでは嫌がられる要素が多いでしょう。ただ、そこでも周辺の人達、環境への配慮という形で、しっかり気を使っているんですね。これは、まさに人への配慮、気遣いといったコミュニケーションの基本が工場設計の段階から考えられているからでしょう。

だから、働く人たちにもその考えがしっかりあって、それが実際の現場のコミュニケーションにも生かされている。こうして快適な現場ができていくんだなと改めて考えさせられました。

 

――― 職場の設計段階からその考えが反映されているというのはすごいですね。ただ、ここまで綿密なコンセプトで職場をデザインするのは、時間も労力もかかります。

 

でも、そこまでコンセプチュアルにしなくてもいいんです。たとえば、快適な現場の核心がコミュニケーションにあるとするならば「雑談をすること」。もっといえば、雑談が自然に生まれるような職場環境をデザインしていくということが大事です。仕事の中で雑談が起こるような、人と人とが交わるような工夫をされている企業はあります。

 

キレイな現場は「気づく力」を高める

 

そして、その方法として一番いいのは「何か一つのことを、みんなでやる」ということです。それが何だかわかりますか?

 

――― 何でしょう。バーベキューとかですか?

 

それは、掃除なんです。

なぜかというと、それは「キレイさ」というものには個人差があるからです。このような個人の主観が違うということを改めて確認し、それをすり合わせるということがまず大事なのです。加えて、それを毎日やることでめちゃくちゃキレイになるというのもあります。さらに、みんなで同じことを同じ時間にやることで、部門や部署を越えて会話が生まれたりする。そこに思わぬ副次的効果があるんです。

この毎日の掃除を習慣づけるだけで、必ず現場は変わります。これは最強のメソッドです。掃除を毎日続けると、今度は掃除するところがなくなっていくんですね。すると、各人がそれぞれ掃除するべきところを見つけて、そこをキレイにしようと変わっていくんですね。そうすると、普段あまり行かないところに行ったり、そこで誰かと話したりと、また副次的な何かが出てくるんです。だから、バーベキューなんてやらなくていい(笑)。

 

――― (笑)。それが習慣になっていくにはどのくらいかかるのでしょう。

 

だいたい1年から1年半くらいでしょうか。掃除が習慣になれば現場は絶対によくなりますね。逆に汚い現場というのは、細かい部分に気がつかないんです。これは掃除も仕事も同じで、細かな部分に注意を払わないので間違いやミス、不具合なんかに気づけないんです。

たとえばゴミが落ちていて気づく場所というのは、その場所がキレイだから気づくわけです。その場所が汚ければ、そのゴミにも気づけないということが起こるわけです。つまり、人間はキレイだと気づく力が生まれる。反対に汚れた現場にいると気づきのレベルが下がってしまうのです。だから快適な現場というのは掃除が大事になってくるんですね。

 

挨拶プラス1が当事者意識を高める理由

 

――― 整理・整頓・清掃が3Sと言われますが、現場を良くするためにこの3Sはやはり大事ですか。

 

そう思いますね。整理整頓はやはり重要です。タイム・イズ・マネーといいますが、必要なものにすぐに取り出せる、アクセスできるということは、生産性を上げるためには欠かせません。この必要な書類を取り出せるまでに要する時間は、5秒から10秒が理想で、PC操作でいえば3クリック以内。これが整理整頓できている状態だといえます。この整った状態を、日頃からアップデートしていくということが大切ですね。

あとは挨拶も大切なことです。

ここでいう挨拶というのは、形ばかりの「おはようございます」とか「おつかれさまです」というのではありません。挨拶というのは、「私はあなたを認めていますよ」というコミュニケーションのこと、言葉でつながることなので、しっかり顔を見て挨拶をして、そのあとに「あれ髪切りました?」とか「今日の服いいですね」といった、プラス1が大切だと思います。

 

――― まさに『快適現場プラス』のプラスの部分ですね。

 

そうです、人と人とが交わる、コミュニケーションをするという意味で、このプラス1の部分はとても重要なことだと思います。掃除、整理整頓、そして挨拶。これを徹底するだけで現場は全然変わって来ますね。

 

――― 一方で、こういったことが大切だとわかっていてもできない人、よくなるのだろうけどやれない人もいるかと思います。こういった人たちはなぜできないのでしょうか。

 

基本的にやれる人とやれない人の違いというのは、気持ちが違うのです。やらない人に共通しているのは、必ず言い訳をいうということ。やらない人ほど言い訳が多いんですね。たとえば、先ほどお話した、掃除や整理整頓しましょう、挨拶しましょうということは、小学生だってできることですね。でも、この小学生だってできることを大の大人がやれないんですよ。言い訳ばかりでね。この小学生とできない大人の違いというのは、謙虚さの有無です。そして、このような謙虚さがない人というのは、総じて当事者意識に欠けています。

たとえば、こういった人に「自分の家と会社、あなたはどちらをキレイにしていますか」と尋ねれば、ほとんどの人が自分の家と答える。でも、快適な現場をつくる上ではこのようなメンタリティでは難しいのは誰でもわかります。

会社やチームのメンバーを家族のように大事にして、職場も自宅のようにキレイにする。これが快適な現場をつくる上での土台となるのだと私は思います。

 

(取材/構成 テルイコウスケ)

 

西村統行「快適な現場では、人と人とがつながっていく」【現場を知る賢者インタビュー】第3回