快適な現場というのはどういうものなのか。快適な現場にするにはどうすればいいのか。そこに「プラス」すべきことはどういったことなのか。数多くの経営者の共創場活軍師として活躍し、現場を知り抜く株式会社ここはつ代表、西村統行(にしむら・のりゆき)さんにその真髄を訊く。最終回(全3回)。

 

西村統行「快適であるということは、生産性が高いこと」【現場を知る賢者インタビュー】第1回

西村統行「整理、整頓、清掃に『挨拶』をプラスすると現場は変わる」【現場を知る賢者インタビュー】第2回

 

【Profile】

西村統行(にしむら・のりゆき)/株式会社ここはつ代表、共創場活軍師。1961年三重県生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。株式会社リクルートを経て、多くの企業の経営に関わり育ててきた。

 

命令されても当事者意識は芽生えない

 

――― 自分が働く現場に当事者意識を持てない人たちというのは少なからずいると思いますし、そういった部下を抱える方も多いと思います。こういった人に、当事者意識を持たせること、教え込むことというのはできないのでしょうか?

 

結論からいうと教え込むのは無理です。先ほど紹介した、社員が一緒に掃除をするという試みも、習慣になるには一年半かかるといいましたが、それは強制的にやっているわけでなく掃除が必要だと思う人がやるという方針だったからです。ですから、最初は社員の1割とか2割しか参加していませんでした。その時間になると、あからさまに席を立ってどこかに行ってしまう人がいました。ただ、そんな彼らも「仕事ならやります」というのです。でも、掃除は仕事に必要なことだけど、仕事じゃないわけです。それを説明して、粘りよく継続していくうちに、1年半して8割くらいの人がやっている。ようやく会社の習慣になったわけです。

もちろん「やれ」と命令すればやってくれるんですよ。でも、それじゃ意味がない。なんで掃除が大事なのか、その目的を理解できているかが大事ですよね。この「キレイにするのは誰かのためじゃない、自分たちのためなのだ」という、目的意識に自分で気づける人はグッと伸びます。そして、それに気づいた人たちは自然と掃除や整理整頓、挨拶プラスワンをするようになるんです。逆にいうと、掃除をするかしないかは当事者意識を持っているかどうかのリトマス試験紙にもなります。

いくら素晴らしいメソッドがあっても、それを「やらせても」うまくいかないことがほとんどです。世間では、それこそ成功した現場改善のメソッドが知られていますが、実際に成功させるのは難しい。それは「やらされ感」があるからですし、なぜそうしなければならないのかという意識共有がうまく行っていない場合がほとんどです。

 

――― 今盛んに騒がれている働き方改革ももしかしたら……。

 

目的がわからず、やらされている感が当事者にあるならば同じようなことになりそうですね。そういう意味では快適な現場を作ることにはならないかもしれません。

快適な現場というのは、なんのためにこの現場があって、その意味や意義を現場にいる人達が理解していることで成り立っているのでしょう。それってとても素晴らしいことだと思いますし、仕事というのはそうあるべきだと思いますね。

 

「いい仕事ってなんだろう?」が快適な現場を生み出す種

 

快適な現場というのは、ある状態というかプロセスに過ぎないと思っています。現場というものが、お金をもらって働く場所という意味しかなければ、そこに快適さは生まれません。より生産性を向上させようとか、気持ちよく働こう、お客さんに満足してもらおう、ではそのために何をすればいいのだろうという意識を、現場で働く人たちが共有し、努力していく。つまりとても単純化していうと「いい仕事をしていこう」という意識が、快適な現場を生み出していくのだと思います。

じゃあ、「いい仕事ってなんだろう」ってなんだろうって考えたとき、私は人に喜んでもらう仕事だと思うんですね。もちろん仕事はお金をもらえることも大切ですが、誰だってできるならばプラスアルファで、お客さんに楽しんでもらったり、驚いてもらったり、感動させるような仕事をしたいと思いますよね。

 

――― そして、そうしたいという意識があれば、快適な現場にならざるを得ない?

 

そのとおりだと思います。そして、そういった現場がもし少ないのだとすれば、仕事ではお金をもらえればいいやという人があまりに多すぎるのかもしれません。ただ、そういう人も「本当にお金のためだけに働いているの」と考えてみれば、実はそうでもないと思うんです。

たとえば、マズローの欲求段階説が本当であるとするならば、人の欲求は生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求と欲求が段階的に積み重なっている。そして、人はどこかの欲求段階で働いていると思うんです。でも、それが一番高次とされる自己実現のための欲求かといえばそうである人とない人がいて、それが意識の差として現れているのが現状ではないでしょうか。

もちろん、そこに至るまでの過程としては、「本当に働きたい場所で働けていない」とか「もっとやりたいことがあったのに」ということはあるかもしれません。でも、そこで実際に働く以上、なんのためにそれをやるのか、どういう仕事なのかといったことと向き合って考えながら仕事をしていかなければ当事者意識は生まれないですし、成長できないのはもったいない。現場管理という意味では、働く人たちにそう考えてもらえるようにしていけるのが、現場のまとめ役には一番求められることになるのかもしれません。

 

――― そして、それにはコミュニケーションが不可欠ということですね。

 

そういうことです。

 

人同士の関わりについて、もう一度考え直そう

 

特に上司と部下の1対1の面談みたいなものはとても大切だと考えていて、月に2回くらいはやったほうがいいと思います。お互いの考えや気持ちをすり合わせというのは同じチームで働く以上、必ず必要になることです。なんだったら半年に1度くらいは、チームメンバー全員で「なんのためにこの仕事をやっているんだろうか」みたいな、ちょっと青臭いような内容を話し合うミーティングがあってもいいと思います。今、こういったことは忙しいからからといって、やらなくなっている会社が多くなっていますがとても大切なことだと思います。

 

――― そんなにやらないものなのですか?

 

やってないところは多いですね。とにかく対話が足りていないです。そして、そこからたくさんの問題が生まれている。「やった、やらない」といった話や、「そんなつもりじゃなかった」という誤解、パワハラやセクハラがこんなに騒がれているのも、一部は対話が不足していることによる誤解などがあるのではないでしょうか。

こういった対話不足から生まれる問題に対応するために、また新たなコストがかかる。急がば廻れじゃないですけど、コミュニケーションにかかるコストとメリットと、コミュニケーション不足から生じる問題に対処するコストとで、どちらが大きいのか。それはもう一度考えたほうがいいと思います。

コミュニケーションは人と人とをつなげます。そして、つながった人というのはそれだけで大きなパワーを得られます。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」じゃないですけど、人はつながると一人では越えられなかったラインを越えることができます。これはチャレンジできるということでもあります。

現代の社会ではネット上でのコミュニケーションが盛んですし、そこである種のつながりがあるように感じられますし、それも関わり合いの一つの形であると思います。ただ、人同士の交わりや関わりの本質というのは、ネットだろうがどこであろうが「みんなで一緒に何かやろうぜ」ということにあります。「あいつがやってるなら仕方ないから力を貸す」とかあるじゃないですか。「あいつに誘われたら断れない」とか、そういった部分が人との関わりの濃さであって、その部分が希薄になってきているように思いますね。

本当は、このつながりがセーフティネットになって、このつながりが世の中を変えていく仕事を生み出す力になるんです。

だから、快適な現場というのは、社内外かかわらず人と人とがつながっていく現場ということなのかもしれませんね。

 

(取材/構成 テルイコウスケ)