現場の生産性を上げることは、全ての企業にとっての課題です。最大の成果を上げる仕事こそが常に求められていますが、労働者の努力に比例して生産性が上昇するのかといえば必ずしもそうではない、という事を感じている方も多いと思います。ビジネスが複雑になった現代において、生産性を上げるためには一体何をするべきなのでしょうか。

 

生産性が上がらないのはどこに問題があるのか

日本の労働者達は一生懸命真面目に働くイメージが強く、働き者である事を美徳としている考えが根強く残っています。このような考えは、労働者から大きな労働力を引き出すことに一役買っていますが、それが生産性の向上に繋がらないのは、現場のマネジメントの部分に問題があるという指摘があります。

2017年に東洋経済新報社が開催した「超・生産性会議」において、人材コンサルタントの伊賀泰代氏は、工場以外の生産性という前提で、日本企業の生産性の問題は現場よりもマネジメント側にあると指摘しています。

 

生産性はある意味、現場の人がきびきび働いているかどうかとは関係のないところで決まる。たとえば、無駄な作業を一所懸命きびきびやっても、あるいは対価が取れないサービスを一所懸命に提供しても、生産性は上がらない。生産性の良しあしは、現場ではなくマネジメントの問題に帰着する。東洋経済『「日本の生産性」は、どうして低すぎるのか』

 

大切な事は、より価値を生み出せる作業に労力を注ぎ、それ以外は労力を節約する、という観点です。こういった観点がマネジメント側に不足していると、成果を上げられない作業に多くの労力を割く事になってしまいます。「何事も細部まで完璧に」という考えは、こと生産業においては日本を世界最高の高品質生産国にしており称賛もされていますが、その一方でビジネスのシーンでもこの考え方で仕事をしていると、「作業ごとの重要度が考慮されていない」「メリハリが効いていない」という風に捉える事もできます。売上や利益に結び付きにくい仕事に、多くの労働力の投入を行う事は効果的ではありません。費用対効果が適正であるかを見極める視点が、マネジメントには必要です。

日本の多くの職場において、労働と成果の相関を適切に評価する仕組みが備わっていない事も生産性の向上を阻害しています。例えば、評価の仕組みが整っていないと、単に会社にいる時間が長いだけでも「頑張って長時間働いている」という評価に繋がってしまう事があります。成果を出すことよりも「残業も厭わず頑張る姿勢」を評価していては、生産性は向上しません。より少ない労力で大きな成果を上げることにこそ力を注ぐべきでしょう。

「労働とその成果を適切に評価する」という事と、「最小の労力で最大の成果を上げる」という事を意識したマネジメントが、生産性の向上には必要であり、マネジメントを担当する人間には必須の観点であると言えます。

 

「効率主義」の概念は生産性を低下させる?

仕事の効率を良くしようとすると、仕事の効率化において必要不可欠である「明確」「責任」「評価」の3つの概念を使うことになり、この3つの概念こそが企業の生産力を下げる原因である、と500以上の会社をコンサルティングしてきたボストンコンサルティンググループのイヴ・モリュー氏は話しています。(ログミー『組織の生産性低下の原因は、明確・責任・評価である 』より)

 

生産性を向上させる上で大切な要素は「協力する事」です。モリュー氏は、陸上のリレー走者を例として挙げ、ひとりひとりの100mベストタイムで下回るフランス代表がアメリカ代表に勝った事を例として、「協力すれば、部分を足し合わせたものよりも全体の価値が上がる」と話しています。そして、この「協力」を阻むものとして、「明確」「責任」「評価」の3つの概念があるという指摘をしています。

 

  • 明確の概念による阻害

ビジネスにおいては、ありとあらゆる報告書が作成されますが「報告書は明確でなければならない」という考えから、明確でない記述については排除することが求められています。しかし実際は、報告書が明確であればあるほどに生産性が向上するかと言えば、決してそうではありません。逆に情報を伝える側が明確に記述したつもりでも、相手には伝わっていない、ということも現実には起こります。大切なことは、「バトンリレー同様、伝えるべき事が伝わっているか?」です。すべての報告書が明確であるかの前に、相手のどのようにどれくらい伝わっているかを確認する確かめるコミュニケーションの方が何倍も大切と言えるでしょう。生産性を阻害する主な要因は、このコミュニケーションの行き違いに起因することが多いのです。

  • 責任の概念による阻害

責任の概念が強くなりすぎると、失敗した時に「誰のせいで失敗したか」という責任追及の力が大きくなりがちです。この概念が強くなり過ぎる背景には、そもそも仕事で失敗してはいけない、という考えが前提にあります。「失敗した時にはっきりと責任を取れる人を用意し、失敗が許される組織を私たちは作りすことが必要」とモリュー氏は指摘しています。失敗を分析することは改善の為に必要なことですが、失敗した者を糾弾することは、結局、チャレンジや進んで新たな改善することを避け、結果的に生産性の向上にあまり寄与しません。

  • 評価の概念による阻害

私たちの仕事の多くは、仕事は常に評価の対象となります。評価は適切な観点から行われる必要があります。しかし、適切な観点からの評価とは、何でしょうか?

適切な評価の視点の一つに、生産性が高い作業に高い価値を与えて評価することがあります。誤った観点からの評価は、生産性を阻害する結果になります。

しかし一方で、適切な評価というのはとても難しいミッションでもあります。例えば、生産性の改善の多くは、組織や個人を超えた協力から生まれますが、協力は定量的に測ることが難しく、評価しにくい難しい部分だからです。往々にして、定量化できない協力の部分を評価する事よりも「数字」といった認識しやすい部分を使って評価を下しているのが実情でしょう。

評価の概念による生産性の阻害とは、結果や定量化できことのみで評価判断することの危うさを指摘しています。協力や働く人の気持ち、など、定量化できにくいことが生産性に影響している事も多いということのようです。

 

前述のフランス代表リレー団の話で言うと「協力する事」とは、リレーで言えばバトンを渡すという部分になります。バトンを渡す時は、渡す相手に対して適切な距離を測り、適切な角度でバトンを渡す事に注力する必要があります。その時、速度はある程度犠牲にしなくてはなりません。同様にバトンを受け取る側も、受け取る事に神経を集中し、自分が走り出す際の速度と折り合いをつける必要があります。

協力する事は、リレー選手にとっての「速度」のように評価可能な部分の犠牲を伴うことがあります。労働者は高い評価を受けたいものであり、その為に評価可能な部分に注力しますが、それによって協力の質は落ち、結果として生産性は低下しています。

上記のような事は細かい事のように見えて、とても大きく生産性を損なわせています。「明確」「責任」「評価」は余計な仕事を増やし、組織を余計に複雑化させ、協力を阻害しているという事です。明確性ではなく柔軟性を備えて、責任は共有し、数字で仕事の出来を評価するのは止めて、協力に目を向ける必要があります。

 

「結果」ではなく「過程」を重視することで生産性は上がる?

結果を重視する職場は多いもので、結果が出なければ努力が評価されることは少ないものです。常に結果にだけフォーカスし、結果を残す事が最善の方法なのでしょうか?結論を先に言うと、結果ばかりを気にしていては生産性を向上させることはできません。

結果重視の職場では、結果が大きく早いほど評価を得る事ができます。1億円の投資に対して5億円稼ぐのと10億円稼ぐのでは、もちろん10億円の方が評価され、30年間で100億円稼ぐのと、3年で100億円稼ぐのとでは、3年の方が評価されます。これだけを見れば正しい事のように見えます。

しかし結果重視の弊害として、目先の利益を追い求めるあまり近視眼的になってしまい、長期的視野を持てない事があります。結果を重視するあまりに「早く」「大きく」成果を出す事だけが優先されると、その過程に存在する様々な問題は無視されてしまいます。往々にして、見なかったことにしてきた問題はいつか顕在化し、大きなマイナスとなってしまうものです。横浜で起きたマンションの欠陥工事問題などが良い例です。「納期までにマンションを建てる」という結果を優先したため、「安全性」や「データ」についての問題を放置し、問題が顕在化した時には業界を揺るがすような大問題となってしまいました。こういった事を避けるためにも、極端な結果重視を止め、結果に至るまでの過程が重視する事も必要です。

短期的ではなく長期的視野を持って近視眼的にならず多角的に考える事、サービスや商品の改善出来る部分を探して常に改善しようとする事。成果を出すまでの過程を重視する事は、数字としての結果には直接結びつき難いかもしれませんし、時間はかかるかもしれませんが、着実に生産性を上げてくれます。結果重視も悪いことばかりではありませんし、短期的に結果が必要な場面というのは存在するものです。ですが、そういった言い訳の元にあらゆる事が短期的・近視眼的に行われていれば、それは未来の生産性を犠牲にしているだけに過ぎません。結果を求めるところと、過程を重視して手堅く進めるところを上手く使い分けられるのがベストであると言えるでしょう。

 

まとめ

生産性を高めるための様々なポイントについて考えてきましたが、いかがだったでしょうか。マネジメントに必要な労力分配や評価の観点、労働者の協力を阻むものを排除する事の大事さ。更には、目先の結果だけではなく長期的な視野を持って過程を重視する事など、筆者も学ぶ点が多い記事となりました。読者の皆様にとって、少しでも有益な内容となっていましたら幸いです。

 

<参考URL>

東洋経済『「日本の生産性」は、どうして低すぎるのか』

ログミー『組織の生産性低下の原因は、明確・責任・評価である 』

NOC『日本の生産性が低い原因は経営層にあり|【シリーズ】日本の生産性はなぜ低いのか1』

studyhacker『「仕事は結果が全て」は大嘘! プロセス重視で売上を2倍にしたゴディバのプロセス主義』

斜め45度からの理説『結果重視VSプロセス重視。そろそろ結論を出すか』

Mahalo.okinawa『プロセスを重視しすぎると長時間労働の原因に!プロセス重視の本質を理解しよう』