近年、政府の進める働き方改革の影響もあり、「ワークライフバランス」という言葉が急速に浸透してきました。しかし言葉だけが一人歩きし、意味が正しく理解されていなかったり、取り組みそのものはなかなか進んでいないのが現状です。ワークライフバランスをとることが正しく行われれば、社員はよりモチベーションを高くもって働くことができ、企業も生産性が向上するでしょう。それはなぜか? 今回は、ワークライフバランスの重要性や導入する際のポイントなどについて、詳しく紹介していきたいと思います。

 

ワークライフバランスとは

そもそもワークライフバランスの定義とはなんでしょう。具体的な内容が曖昧で、実際ひとによって解釈が違います。多くのひとは、仕事はほどほどにしてプライベートを楽しむことや、仕事と生活のバランスを5:5にすること、といったふたつを天秤にかけて均等をとることと捉えがちです。けれどもワークライフバランスとは、仕事と生活の最適な比率を表すものではありません。どちらかのためにどちらかを犠牲にする、というのはワークライフバランスの定義とは外れています。

内閣府推進サイトでは「仕事と生活の調和」と表現されています。

 

誰もがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たす一方で、子育て・介護の時間や、家庭、地域、自己啓発等にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができるよう、今こそ、社会全体で仕事と生活の双方の調和の実現を希求していかなければならない。

引用:内閣府:「仕事と生活の調和」推進サイト

 

調和とはふたつの釣り合いが取れ、それが合わさっていること。つまりワークライフバランスとは「仕事と生活を共存させること」「仕事の責任を果たすと同時にプライベートも充実させること」と定義することができます。そして「生活が充実することで健康的になり仕事もはかどる」といったような、仕事と生活の相乗効果が本質と捉えることが大事です。

 

背景にある少子高齢化と女性の社会進出・働き方の多様化

ではなぜいまワークライフバランスが注目されているのでしょうか。それは「少子高齢化」という日本の人口の変化に理由があります。

 

出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)《報告書》(2012年3月30日公表)」

 

高度成長期の時代は、労働力年齢の比率が高く労働力が余っていたため人件費も安く、早く、たくさんの商品を生産することが可能でした。長時間残業していち早く大量に納品することで、世界でも戦える強さを持っていたため、多くの社員が仕事を人生の中心に据えて働く、いわゆる「モーレツ社員」でした。しかし働き手である労働力人口は減少し、さらに晩婚化、高齢化が進んでいきます。また、女性の社会進出や働き方の多様化によって育児や介護の担い手も多様化しており、かつてのように仕事、家事、介護などの役割を特定の世代や性別中心に据えることが難しい状況となっています。親の介護のために安心して休みが取れること、妊娠・出産などの休職後に復職できることなど、それぞれの生活事情によってバランスをとれることが職場環境に求められるようになってきたのです。

 

なぜワークライフバランス改善が生産性を高めるのか

上記のとおり、ワークライフバランスの普及には社会的な背景があります。企業としても、労働力人口の減少により人材確保がより困難になっていきます。長時間働くやり方では生き残れず、仕事の質も変化するなかで優秀な人材を獲得し、定着させるにはどのような人材でも活躍できる職場環境を作ることが求められているのです。

それではワークライフバランス改善すると具体的にどう影響してくるのか。メリットを考えてみましょう。

 

優秀な人材の確保・定着

現在の日本は、新卒採用・中途採用ともに売り手市場と言われ、求職者や学生に対するアピール競争が激化しています。有効求人倍率(求職者1人あたり何件の求人があるかを示すもの)も、この10年間増加し続け、昨年度は1.63倍までに至っています。このような背景もあるため、ワークライフバランスを活用することで、「社員を大切にする」「働き方が柔軟」という企業イメージを作ることができ、大きなアピールポイントとなります。

さらにワークライフバランスをとれることによって、獲得した人材が企業に長く定着するようになります。

 

モチベーション向上

ワークライフバランスが実現することで社員、ひいては職場全体のモチベーション向上につながります。下記の図はワークライフバランス実現度が高いほど仕事の意欲も高いことを表しています。

内閣府・男女共同参画推進局・少子化と男女共同参画に関する専門調査会「両立支援・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)推進が企業等に与える影響に関する報告書」(2006年12月)グラフ

出典:内閣府・男女共同参画推進局・少子化と男女共同参画に関する専門調査会「両立支援・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)推進が企業等に与える影響に関する報告書」(2006年12月)

 

特に女性は、出産や育児に対しての適切な支援や短時間勤務などの柔軟な働き方を実践している企業では、定着率やモチベーション向上に繋がっています。女性が活躍できる職場を目指すというのは、ただ女性の管理職の比率を上げるということではありません。子どもが熱を出して急に抜けてしまうときでも補い合える職場環境を作る、ということです。それには職場全体の意識改革が必要となりますが、実現できている職場には「仕事を抱えている仲間の手助けをする」「全員で目標を達成しようとする雰囲気がある」「お互いに競争意識を持っている」という特徴があると言われています。まさにモチベーションが高い状態です。

また男性は、プライベートが充実していると、仕事のモチベーション向上に繋がる傾向にあります。社会の変化に伴い価値観やライフスタイルも大きく変わったことにより、社員を評価し給与を上げ昇進させるだけではモチベーション向上に繋がらなくなってきているのです。社員の時間を有限だと考え、仕事以外のやりたいことに取り組める現場の実現が求められています。

 

リスク対応力

介護や育児などで社員の誰が休んでも支障がでないように、情報共有や全員がスキルの幅をひろげることが必要になり、誰もがある程度対応ができるようになります。これは突然の災害やインフルエンザの流行など、急に別の社員が抜けたときもフォローが可能となり大きな力になります。

 

 

ワークライフバランスをとりやすくするためのポイントと要因

ワークライフバランスを実現するための制度といえば、育児休暇や短時間勤務ということを思い付く方が多いでしょう。しかし、せっかくの制度があっても、企業としての仕事のやり方が変わっていなければうまく利用することは難しく、形骸化してしまいます。ただ「早く帰る」「残業ゼロ」を奨励するだけでは、やるべきことを最後までやらなかったり、プライベートを優先し業務をおざなりにしたりするようなことになりかねません。ワークライフバランスとは制度を作ればいいというものではないのです。ではどういったことに気を付ければワークライフバランスをとりやすくすることができるのでしょうか。

 

ワークライフバランスは、社員ひとりひとりの仕事や時間の管理の問題と言えます。社員の活用したい制度はひとりずつ違います。

例えば、育児休暇ひとつとっても、いまの時代男性が育児休暇を取得したいこともあります。女性は取得しやすい環境だとしても男性社員が取りにくい環境では、彼のワークライフバランスはとれません。また短時間勤務社員の業務割り当ては単純な作業や雑務にしてしまいがちです。しかし単純な業務の繰り返しではその社員のモチベーションは低下してしまいます。

そういった齟齬を出ないようにするには、まずは職場環境や現状の働き方や仕事の仕方を振り返り、改めて見直す機会を設けてはいかがでしょうか? 例えば実際は不要でも惰性でやっている業務に気付いたり、会議がやみくもに延長するのは無駄な時間だと判断できたり、定時で帰りづらい雰囲気があるなどと気付くきっかけになります。

また短時間勤務など限られた時間のなかでいままで以上の成果を出すためには、効率的に業務をおこなうことが求められます。一つの業務を複数人で担当できないか、現場の情報共有はできているか、ひとりひとり責任ある業務を持つことができるか、なども検討しましょう。

これらは長時間労働の是正やコスト削減にも繋がり、企業としても効率があがります。

 

もちろんすべての業務が見直しに当てはまるとは限りません。しかしいくつかでも改善できる、また短時間でも担当可能だと判断できる業務があった場合、ワークライフバランスをとるきっかけになると覚えておきましょう。ワークライフバランスとは、自分たちが当たり前に行っている業務の見直しと改善から始めるものでもあります。そして社員と組織双方がよりやりやすい形で業務を見直していけば、ワークライフバランスにつながり、確実に生産性は上がるはずです。

 

おわりに

ワークライフバランスと聞いても何から取り組めばよいのかわからない、システムを導入する費用もないと思って手を付けられなかったならば、まずは費用をかけずに今ある仕事のやり方や環境を見直してみましょう。無駄な時間やコストを削減できることで、短時間でこれまで以上の成果を出せる働き方が見つかるはずです。すると仕事に使っていた時間が減り、生活への余裕が生まれます。体調も管理でき健康な体で業務が行え、仕事へのモチベーションも上がる。このような相互作用こそがワークライフバランスの本質です。成績重視では生産性は上がらない時代です。生産性向上のために、業務や職場環境を見直しからはじめてみてはいかがでしょうか。

また、働き方改革について詳しく知りたい方は「働き方改革でどう変わる? 予想される現場の変化とその問題」『有給休暇100%義務化に向けて 現場のための「休み方改革」』を、併せてご覧になってください。

働き方改革でどう変わる? 予想される現場の変化とその問題

有給休暇100%義務化に向けて 現場のための「休み方改革」

<参考URL>

内閣府「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」

国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)《報告書》(2012年3月30日公表)」

男女共同参画会議・少子化と男女共同参画に関する専門調査会「両立支援・仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)推進が企業等に与える影響に関する報告書」(2006年12月)

BOWGL「ワークライフバランスとは? 誤解されがちな定義と取り組み事例を解説」

デロイトトーマツ「ワーク・ライフ・バランスと生産性向上の関係とは」

神奈川県 かながわ働き方改革「ワーク・ライフ社員の意欲と生産性の向上につながる「働き方改革」を」

Work×IT「ワークライフバランスが生産性アップの鍵!?専門家 永田瑠奈氏に聞く、働き方改革の推進を妨げる要因と対処法」