2019年4月から、年10日以上の有休が付与される労働者に対して、年5日以上有給休暇を取得させることが義務化されることになりました。年間の有給休暇消化日数が5日未満の従業員については、会社が有給休暇を取得するべき日を指定する必要があります。義務化に対応できていない場合、企業として罰金の対象にもなります。必ず確認して対応する必要があります。

今回は、本格的に進む「休み方改革」についてどのように対応していけば良いかを見ていきます。

 

なぜ休み方改革が必要なのか有給取得の必要性

そもそも、なぜ休み方改革が必要とされているのでしょうか。

厚生労働省が行った労働時間や休暇に関する調査[1]によると、週の労働時間が50時間を超えると過半数の社員が不満を感じ、年次有給休暇取得率が低いほど休暇についての満足度が下がるとのことです。また、週の労働時間が50時間を超えると、自身の健康状態が「よい」と感じる割合が低下し、60時間を越えると「よくない」と感じる割合が上昇することがわかりました。

このように、長時間労働や休暇が取得できない状況は、仕事と生活に対する満足度を下げ、心身ともにリスクを増加させてしまうものです。社員ひとりひとりの生活には、仕事以外にも自由時間や家族との時間等があります。仕事以外の時間が減り、労働時間ばかりが増えると、様々な面でリスクが増えてしまいうという事です。

また、同調査によると長時間労働について「経営上、改善すべき課題」と考えている企業の割合は9割を超えています。長時間労働に伴うリスクは、多くの企業で認識されていますが、改善はあまり進んでいないようです。労働時間や休暇に関しての課題を把握し、管理を適切に行っていくことは、企業の経営に直結する重要な取組であると言えます。休み方改革が必要とされるの、こういった状況が背景にあります。

 

[1] 厚生労働省「働き方・休み方改善指標~効率的に働いてしっかり休むために~」より

 

休み方の実態把握とその方法

有給休暇の取得促進を進めるためには、まず実態を調査して把握する事が必要です。実態を把握する事で、初めて課題が見えてきます。

長時間労働の抑制や有給休暇の取得がなかなか進まないのは、大抵の場合は単一の理由ではなく、複数の理由があります。例えば、「経営者が長時間労働を当然と考えている」、「社員が時間外労働の上限を把握していない」、「取引先との関係が長時間労働を前提としている」などの原因が考えられ、これらが重なり合うことによって問題が生じている場合が多いようです。また、会社の体質的な問題以外にも、「仕事の段取りがうまくできていない」、「残業するのが当たり前と考えている」など、社員自身の働き方や仕事に対する意識も原因となっている場合があります。

これらの要素を多角的にチェックして実態を把握するために、厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」にてまずは診断を行ってみて下さい。「働き方・休み方改善指標」に沿って、どういったところに問題があるのかを調べる事ができます。

 

厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」

 

上記サイトの診断には「企業向け」と「社員向け」の診断があります。

「企業向け」の診断は、主に会社の人事労務担当者に向けられたもので、「働き方・休み方改善指標(企業向け)」を基準とした診断を行ってくれます。この改善指標は「ポジションマップ」と「レーダーチャート」の2つによって構成されています。

「ポジションマップ」では、診断内のアンケートを元に、会社の「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と「年次有給休暇取得率」をポジションマップ上に配置し、平均値や目標値との比較をする事ができます。週労働時間が目標値に比べて多すぎれば減らす方向へ、など改善の方向性を確認することができます。

「レーダーチャート」は8つの指標を体系化したものです。企業が行っている働き方、休み方に関する取組、導入している制度、人事管理の仕組みなどの実施状況や整備状況を数値化し、8角形のレーダーチャートで表示する事で「働き方や休み方の実態」を体系的に把握する事ができます。

どのような制度が導入され、取組が実施されているか、逆にどのような制度が未整備であり、取組が実施されていないかを把握することで、対策の方向性を考えるきっかけを得ることができます。さらに、対策につながる取組の例を知ることで、改善のヒントが得られます。

「社員向け」の診断では、27項目のチェックリストを通して社員自身が自分の働き方・休み方を確認し、職場のマネジメントの改善について考える事を促してくれます。

労働時間の長短や仕事への取組姿勢は、社員それぞれにとって何を良しとしているかが違います。頑張っている結果として長時間労働をしてしまったり、仕事にやりがいを強く感じているからこそ有給休暇をあまり取らない、といった社員の方々は、確かに企業にとっては有り難い人材ですが、気づかない内に疲労や心労を溜め込んでしまっていたり、周りにも同じ姿勢を求めて人間関係がギクシャクしてしまう事があります。この診断は、一歩立ち止まって「ほかの考え方、仕事の仕方も考えてみる価値があるのでは?」と考える事を目的としています。

企業レベルでも個人レベルでも、診断をすることで現状を把握する事ができ、さらに診断結果に合わせた効果的対策の提案もしてくれます。まずは診断を受け、改善の足がかりとしましょう。

 

対象となるのは? 対応とその方法

冒頭にお伝えしたとおり、2019年4月1日から、年に10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対し、毎年5日間の年次有給休暇を取得させることが義務付けられました。有給休暇は、従業員を採用して6カ月を経過した日に10日、その後1年を経過するごとに勤続年数に応じた日数が与えられますので、大まかなところでは半年以上勤務している正社員は全て今回の法改正の対象になります。

今までは有給休暇を使うかどうかは、建前上は社員の自由だったわけですが、2019年4月以降は、最低5日は社員に休暇を取らせないと労働基準法違反となり、6カ月以下の懲役(!)または30万円以下の罰金が課せられます。つまりは、国が主導して強制的に休暇を取らせるようなルールが作られた、という事になります。

前述の通り、日本の会社員は心身にリスクを負ってしまう程に働きすぎています。これを解消する為に有給取得率を高め、長時間労働やワークライフバランスの問題解消を期待する意図が、今回の法改正には込められています。

では、今回の制度に適応した組織づくりをスムーズに行っていくには、どのように進めていくのが良いでしょうか。

「休むこと=良いこと」という雰囲気づくり

強制的に休みを取るということに違和感を覚える方もいるかもしれません。しかし、その違和感こそが日本に蔓延する「休まない文化」、「休ませない組織」の源泉となっています。無理なく有給休暇を取得できる環境を作っていくためには、こういった意識も変えていく必要があります。特に上司の立場にある人に気をつけて頂きたい点として、「有給休暇を取りたい」と言われた時嫌な顔をしてはいけません。むしろ自分から率先して休むようにして、部下達が申請しやすい雰囲気作りを心がけましょう。中々休もうとしない社員には、連休の中日や子供の運動会などの家族行事の日に休むことを奨励し、休み取ることを奨励していく事が必要です。

休んだことで弊害が出ない仕組みづくり

厚生労働省が行った調査によると、有給取得に「ためらいを感じる」「ややためらいを感じる」と回答した人は6割を超えており、理由として一番多いのは「みんなに迷惑がかかると感じるから」とあります。有給休暇を取れない理由は、休むことで周りに迷惑がかかると感じられるような職場の仕組みにもあると言えますね。有給休暇を取得しても周りに迷惑がかからないような仕組み作りの為には、「休む人がいる前提」で準備をすることが大切です。そのためには、グループウェアを活用して普段からチーム内の仕事の状況を共有したり、担当者がいなくても対応できるよう業務のマニュアル化を行ったりの工夫が必要になってきます。また、基本的に単独担当者制は止めて、可能な限り二人以上の担当者を用意してお互いの休みをカバーできるようにすると、心理的負荷も軽減することでしょう。

休むことの意義と目標の共有

休み方改革を進めるには、「なぜ休むことが必要なのか」についてよく理解し、その意義を皆で論理的に考える機会を作り、納得を得ていくことも大切です。休むことを奨励したりする「休める雰囲気づくり」も大切ですが、あくまで雰囲気の部分です。急に忙しくなったりすると「今は休んでいる場合ではない」という考えによって雰囲気が塗り替えられてしまう可能性があります。雰囲気以上の事をする為には仕組みづくりが大切ですが、仕組みを変えていく事は各人にとって負担が増える部分もあり、理解を得られていないと不平不満の原因になってしまう事もあります。休むことの意義と目標の共有がしっかりされていないと、スムーズに改革を実現する事は難しいかもしれません。

生産性やワークライフバランス、組織力の向上など、自社や自部門の状況において納得できる説明を考え、論理的に説明できると、では実際にどの程度休むべきかの指針も見えてくるはずです。具体的な数値目標を作り、進捗率を共有たりしながら目標達成を目指しましょう。

 

まとめ

今回のようなインパクトのある法改正が行われている背景には、近年の過労死事件が大きな話題になっている事があります。今回の有給休暇の強制取得を始めとして、これからも様々な法改正が行われていく可能性もありますので、職場の体質見直しや仕組みの改善など、その都度柔軟に対応していきましょう。まずは、4月以降の体制について一度検討してみてはいかがでしょうか。

また、働き方改革について詳しく知りたい方は「働き方改革でどう変わる? 予想される現場の変化とその問題」『「ワークライフバランス」を見直すことで仕事が劇的に変わる理由』を、併せてをご覧になってください。

働き方改革でどう変わる? 予想される現場の変化とその問題

「ワークライフバランス」を見直すことで仕事が劇的に変わる理由

<参考URL>

厚生労働省「働き方・休み方改善指標~効率的に働いてしっかり休むために~」
厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」
Work☓IT「年5日の有給休暇義務化はいつから?罰則は?」