日本の四季においては、四季折々の健康問題があります。冬はインフルエンザ、春は花粉症、夏は熱中症や夏バテ、秋は自律神経の乱れや行楽シーズンの食中毒が多いそうです。公私ともに、人間の生活は健康が第一ですが、それは企業にとっても同じことです。従業員の健康面について意識的して対応していかなければ、会社という組織自体も体調不良や深刻な疾患に陥ることになります。今回は従業員の健康を安定化させ、組織力を向上させるための「健康経営」について、どのように考えていけばいいのか見ていきましょう。

 

健康経営とは?

そもそも「健康経営」とは一体どのようなことを指す言葉なのでしょうか?

健康経営とは、従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。企業が従業員へ健康投資を行うことは、従業員の活力向上を促し、生産性の向上をもたらし、最終的には業績や株価に大きなプラスをもたらします。ひとりひとりの従業員のパフォーマンスを最大限発揮させるために、健康経営というテーマはとても大切なものです。(米)ジョンソン・エンド・ジョンソンの試算によれば、健康経営に対する投資は、1ドルの投資に対して3ドルの投資リターンがあるとされています。[1]

健康経営は、国家規模で推奨されています。経済産業省では、平成26年度から「健康経営銘柄」の選定を行っており、平成28年度には「健康経営優良法人認定制度」を創設しました。認定された企業は、「優良な健康経営に取り組んでいる」という社会的評価を受けることができ、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから一定の評価を得ることができます。メンタルヘルスやブラック企業が社会問題として取り上げられる昨今において、これらに認定される事は企業にとって大きなメリットとなっています。

[1] 経済産業省「健康経営銘柄2018の選定について」より

 

健康経営のメリット

健康経営がもたらすメリットをまとめると、下記を挙げることができます。

 

1.医療費の削減

企業で従業員の健康づくりを促進することにより、医療経費の削減が見込めます。また身体を壊した従業員の離職リスクも軽減できます。

健康に問題がある状態で勤務を続けていると、最悪の場合、心筋梗塞やくも膜下出血などの人命に関わるような病気を起こす可能性も高くなります。従業員が突然入院などした場合、企業は代わりの人材を確保しなくてはなりません。新しい人材を探すにも、仕事を引き継ぐにも大きなコストがかかってしまいます。

健康保険は企業が負担するものです。医療費の増加を防ぐためにも、個人に健康管理を任せるのではなく、企業が積極的に健康維持に関わっていく事が大切です。

 

2.生産性の向上

長時間労働を防止し、従業員にしっかりと休息を取ってもらうことで、定時内で集中して仕事をこなせるようになり、結果的に生産性が向上します。

体や心が何か不調を抱えている場合、集中力は落ちてしまい、ミスや事故も発生しやすくなります。作業スピードも著しく低下する事でしょう。これらを健康経営によって把握し、管理し、向上させる事で高いパフォーマンスを維持することが可能になります。

また、メンタル面の不調や慢性的な肉体の不調は、本人は辛い思いをしている一方で、周囲は気づきにくい側面があります。これらを素早く把握できる体制を作る事で、生産性低下の芽を摘むことも期待できます。

 

3.企業イメージの向上

従業員を大切にしている会社である、過酷な労働を強いられる「ブラック企業」ではない、というアピールができます。企業イメージの向上につながり、結果的に優秀な人材も集まりやすくなります。「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人認定制度」に認定される事ができれば、大きなメリットを得られる事でしょう。

健康経営によるイメージアップは、株価にも反映されます。健康経営を公表している企業は株価が上がりやすくなり、投資家達にとって有力な情報となっているようです。

 

健康経営を可能にする組織づくり

実際に健康経営に取り組むには、どういった事をしていけばいいでしょうか。経済産業省『企業の「健康経営」ガイドブック』では、「健康経営を実践するには、健康経営の取組が“経営基盤から現場の施策まで”の様々なレベルで連動・連携していることが重要」とし、下記の4つに大別できるとしています。

 

1.経営理念・方針への位置づけ

まずは従業員の健康を経営課題として捉え、実行力を伴って健康経営に取り組むためには、経営トップがその意義や重要性をしっかり認識するとともに、その考え(理念)を社内外にしっかり示すことが肝要です。そのためには健康経営を行うことを社内外に告知することが重要になります。具体的には、理念を明文化して社内広報やプレスリリースでこのメッセージを発信していきましょう。

 

2.組織体制づくり

発信した計画の具現化していくことになります。組織の構築にあたっては、方針に応じて、専門部署の設置や人事部など既存の部署に専任職員、兼任職員、を置くなどの対応が考えられます。また、健康アドバイザーなど外部の協力を仰ぐのもよいでしょう。

また、従業員の参画、行動変容を促すような全社的取組を実効的なものとするためには、社内が一丸となり取り組むよう経営トップがその必要性を認識、共有してなければなりません。そのため、企画立案の段階から「役員会での討議事項とする」などの体制を整備していくことが重要です。

 

3.制度・施策の実行

健康経営を実践する上では、社内全体がお互いに連携し、相互補完的、あるいは相乗的な効果のある効率的な制度・施策がなされることが望ましいでしょう。

企業では、正規雇用、非正規雇用をはじめとして、就労環境や福利厚生、医療保険などの様々な労働条件の元で従業員が働いています。これらの背景を理解、考慮した上で従業員の健康保持・増進を総合的に推進することが重要になります。

施策の実行は、以下の4つのフェイズに大別できます。

  • 1)従業員の健康状態と労働環境を総合的に把握する
  • 2)解決するべき課題(成果目標)を見つける
  • 3)施策を実行する
  • 4)医療機関・健康保険組合との連携

 

4.取組を評価する

取組の効果を検証するには、現状の取組の評価を次に生かせるよう、PDCAがしっかりと機能するような体制を構築することが重要になります。取組の評価にあたっては、ストラクチャー(構造)・プロセス(過程)・アウトカム(成果 )の3視点にて健康経営を評価することが大切です。「取り組みがどれくらい実行されたのか」「結果・目標達成率はどうだったのか」を検証し、検証結果を元に次の新しい計画を立てていきましょう。

 

上記のようなステップに沿って実行していくことで健康経営は実現できると思います。ですが、誤った進め方をすると期待したほど効果は得られないかもしれません。以下に健康経営を進めていく上で注意したいポイントをご紹介致しますので、参考にして頂ければと思います。

 

1.経営トップが主導する

企業が健康経営に取り組んでいく際に、従業員に任せるだけでは上手くいかない事が多いです。健康経営は、企業経営のトップ層にいるメンバーが中心となって推進する必要があります。なぜなら、健康経営とは単なるプロジェクトではなく、企業の方針そのものを改良するという話だからです。企業におけるリーダーが、強いリーダーシップの元で主導する必要があります。

 

2.従業員の能力を最大化する環境作り

健康的に働くためには、仕事とプライベートのバランスが重要です。健康経営の効果を最大化するために、従業員が高いモチベーションを保ちながら仕事に取り組める環境が作れているかを考えていきましょう。やらされている、あるいは押し付けの健康対策では効果はあがりません。現場の求めているものを汲み上げながら、最適化するよう努力していく必要があります。

 

3.長期的な視点を持ち継続して取り組む

健康管理は即座に効果が現れるものではありません。大切なのは継続的に改善していくことです。すぐに結果が出ないからといって諦めず、長期的視野を持って行うことが必要不可欠です。年度単位での病欠率などを計測していくことで、効果を実感する事ができる事でしょう。

 

まとめ

健康経営は、経営のトップ層が強い意志の元で進める事で初めて実現できるものです。健康経営がもたらす企業価値への貢献はとても大きく、企業の健康度をあげる事に加えて働き方改革においても重要な施策となることでしょう。「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人認定制度」に認定される事を目指し、是非とも取り組んでみてはいかがでしょうか。

また企業経営に向けた、さまざまな取り組みについて知りたい方は『中小企業支援で注目「企業経営の未病改善」ってなに?』もあわせて御覧ください。

中小企業支援で注目「企業経営の未病改善」ってなに?

 

<参考URL>

経済産業省「健康経営銘柄2018の選定について」

内閣府 経済・財政一体改革推進委員会 資料「健康投資による効果検証について」

経済産業省『企業の「健康経営」ガイドブック』

ボクシルマガジン「健康経営とは|企業にもたらすメリット・評価方法・ポイントを徹底解説」

BOWGL「5分でわかる健康経営!取り組みのステップと企業事例を完全解説」