企業経営とは難しいものです。軌道に乗っているときはいいですが、経営状況がなかなか上向かない、取り組みがうまく成績に結び付かないなどつまずきがあると、そのまま一気に下降してしまう恐れもあります。つまずきの原因となる小石を取り除かねばなりません。しかし小石は小さく、どれが原因となるかは判断しづらいものです。そこで今回はその小石、つまり下降の兆しに気づきやすくする取り組み「企業経営の未病改善」をご紹介します。

 

企業の未病とは

「企業の未病」とはなんでしょう。「未病」なんてあまり聞き慣れない言葉です。未病とは、東洋医学において使われる言葉で「はっきりとした異常はなく病気とは診断されないけれど、健康ともいえない状態」を指します。病気に近いがまだ健康の範疇である状態、放っておくと病気になるだろうと診断される状態のこと。なんだかだるくて胃腸の調子がよくないとかよく眠れず肩凝りがひどいとか、生活することに支障はないけれどなんとなく不調である自覚症状がある状態をいいます。人間の体は「健康」と「病気」という状態に常に明確に分けられるものではなく、その間の状態がある、という考えです。

企業の未病とは、企業を人体に見立てて経営状況を分かりやすくしようとした取り組みです。経営が軌道に乗っている健全な状態を「健康」、経営不振に陥っている状態を「病気」とし、その間にある状態を「未病」としています。病気、つまり経営不振を起こさないために「未病」である状態を正確に把握し、そのタイミングで適切な対策を講じることで健全な経営状況を取り戻そう、という取り組みです。

この取り組みを推進しているのが神奈川県です。神奈川県は県内の中小企業が経営状況が下降する前に兆しに気付けるよう、「企業経営の未病CHECKシート」を作成、配布しています。このチェックシートは約250社へのアンケートと試行を経て作成されました。また「企業経営の未病相談ダイヤル」の専門相談窓口も開設。商工会・商工会議所が対応してくれます。課題解決のために専門家との相談や派遣、専門機関への橋渡しを行ってくれるのです。ひとりでは相談や解決の難しい問題も、専門家へ繋げてもらえることで大きく改善に向かうことは想像に難くありません。そして多くの企業に経営の未病改善を促すことで持続的に企業は発展し、ひいては地域発展に繋がる取り組みと言えるでしょう。

 

未病を「見える化」する3つのメリット

では未病を「見える化」することによりどんなメリットがあるでしょう。

メリット1 

企業の現状を客観的に見ることができます。現状の経営状況が上昇しているのか下降気味なのか、中で働いているとなかなか判断しづらいですが、客観的に判断することができるようになります。

メリット2

原因と結果の流れを把握することで、問題となりそうな部分、その因果関係などの把握にもつながっていきます。業務の流れの全体像を意識できるようになり、あらかじめの対策とその準備を行いやすくなります。

メリット3

外的要因からのリスクも予測することができるようになる可能性が高まります。リスクを予測することができれば、回避することで経営状況を上向かせることが可能になります。未病状態に明確な気付きを得ることで、自身で改善を行えるようになるのです。

未病とは健康でも病気に近付いている状態です。曖昧なままにしておくとより経営状況は悪化していきます。なぜ悪化しているのか客観的に原因を突き止め、リスクを回避し改善していくことで企業はまた発展していくのです。

 

企業経営の未病CHECKシート【特徴と使い方】

それでは神奈川県が作成した「企業経営の未病CHECKシート」を実際に使ってみましょう。神奈川県ではチェックシートを無料で配布しており、県のホームページからもダウンロードすることができます。スマートフォンでもダウンロード可能なので気軽に取り組めます。

 

企業経営の未病改善に向けた取組

この診断には時間もかからず一人で気軽に取り組むことができます。他人にも知られずにチェックできるので、いまの自身の企業はどうか自己診断で確認することができます。また質問内容には財務の具体的な数字を必要としないため、気軽に答えることができます。自身の感覚や企業の現状から診断することができるのも特徴です。

チェックシートは企業の業種別に「製造業・卸売業編」、「小売業・飲食業編」、「サービス業・その他編」の3種類があります。自身の企業にあてはまるチェックシートを使いましょう。

項目は5つ。「先行き」「従業員」「組織」などの項目ごとそれぞれに質問が5つあります。「思い通りの価格で取引ができない」「特定の従業員に頼りきっている」などのなかで、自身の企業にあてはまるものを選択し1つチェックするごとに1点加算していきます。最後に「外的要因」項目の点数をそれぞれ掛け合わせて数値化。20点満点で点数が高い項目ほど「未病」状態となります。

それぞれの項目の「将来リスク」と「改善のヒント」も載っているので、未病の度合いが高かった項目の問題と対処がすぐに分かるようになっています。例えば「先行き」の項目の将来リスクは「売り上げの減少」「集客力の低下」など。それに対しての改善のヒントは「サービスの充実・工法の見直し」「販促力の強化」などがあり自ら改善に取り組むこともできます。自身で改善に取り組むことが難しくとも、どういった支援や取り組みが必要か、合計点を出すことで見える化し客観的に判断することができるようになるのです。

 

まとめ

日々の経営のなかで経営状況を客観的に把握するのはなかなか難しいことです。また経営状況が悪くなっている気がしていても、なにが原因かわからず改善に取り組むことができないこともあります。企業の未病状態を把握し将来リスクに備えることができれば、企業は持ち直しさらに発展していくことでしょう。まずは気軽にチェックシートを利用し、自身の企業の状態を客観的に把握してみてください。

また企業経営に向けた、さまざまな取り組みについて知りたい方は『人手不足が深刻な今こそ必要な「健康経営」とは』もあわせて御覧ください。

人手不足が深刻な今こそ必要な「健康経営」とは

 

参考URL

日刊工業新聞「企業経営傾く「未病」把握 神奈川県が点検シート作成」2018.11.29

神奈川県「企業経営の未病改善の取組を開始します!」

神奈川県「企業経営の未病CHECKシート」

神奈川県「企業経営の未病の見える化について」