女性の社会進出促進の必要性が叫ばれていますが、そんな運動は建築業界でも実施されています。2月8日に国土交通省主催で浜離宮建設プラザにて開催された「建設産業女性活躍推進セミナー全国大会」には、全国から200名を越える人が集まりました。「100年後に現場の女性比率を50%にすることが夢」と語る、建設産業女性活躍推進ネットワークの須田久美子幹事長の挨拶から始まった当セミナーでは、女性活躍推進の現状報告、現場における女性進出事例の紹介などをふまえ、さまざまな意見交換が行われました。

 

建設現場での女性活躍推進は進んでいるのか?

国が建築業界での女性活躍推進に本腰を入れたのは2014年8月のこと。国土交通省と建設業5団体は共同で「もっと女性が活躍できる建設業行動計画」を策定し、官民一体で女性活躍を推進してきました。まず国土交通省をはじめとする行政では以下の10つポイントを実施するなどして、その支援を行ってきました。

 

1.建設業界を挙げて女性の更なる活躍を歓迎

2.業界団体や企業による数値目標の設定や、自主的な行動指針等の策定

3.教育現場(小・中・高・大学等)と連携した建設業の魅力ややりがいの発信

4.トイレや更衣室の設置など、女性も働きやすい現場をハード面で整備

5.長時間労働の縮減や計画的な休暇取得など、女性も働きやすい現場をソフト面で整備

6.仕事と家庭の両立のための制度を積極的に導入・活用

7.女性を登用するモデル工事の実施や、女性を主体とするチームによる施工の好事例の創出や情報発信

8.女性も活用しやすい教育訓練の充実や、活躍する女性の表彰

9.総合的なポータルサイトにより情報を一元的に発信

10女性の活躍を支える地域ネットワークの活動を支援

 

平成24年(2012年)総務省統計局の調査によると、女性技術者・技能者数は約10万人(技術者約1万人・技能者約9万人)であり、全体に占める割合は約3%の水準になっています。これは平成9年度(女性技術者・技能者数約26万人、全体に占める割合6%)と比較すると、大幅に下がっていることがわかります。同計画は総数の倍増及び、割合を以前の6%水準にまで戻すことを目標として5年度計画として実施され、本セミナーではその計画の現状報告とその見通しがなされました。

出典:セミナー資料1「最近の建設産業行政について」国土交通省より

報告では、現状でわかっている平成29年度(2017)までで全体で11.3万人(約13%増)にまで伸びていますが、割合は3%から大きく伸びず全体数の推移を見るとこのまま伸びても平成31年度中に倍増まではいかない見通しとなったようです。

報告を行った国交省土地・建設産業局建設市場整備課長の小笠原憲一氏は、このような現状を踏まえて今後の課題として「これまでの取り組みを踏まえ次なるステップへ進むために、建設業界が自律的・継続的に女性活躍に取り組める環境の整備を行政として準備していきたい」と述べています。

こちらの報告で具体的に面白い提案だと思ったのは、本年度より実施予定の「建設キャリアアップシステム」という制度。技能者の資格や社会保険加入状況、これまでの就業履歴などを横断的に登録・蓄積する仕組みで、現場や職場の移り変わりがあっても経験や技能に応じた待遇の実現が期待できるシステムです。女性に限らずですが仕事と家庭の両立などを考えると、より働きやすい環境を実現できるのではないかと期待される取り組みです。

 

現場は「女性だから」と意識しすぎているのか?

続いての報告は、中小建設業における事例紹介。「平成28年度 東京都人材育成大賞知事賞優秀賞」を受賞したほか、「文京区ワーク・ライフ・バランス推進認定企業」に2年連続認定されるなど、女性の活躍が認められていることで知られる株式会社松下産業の代表取締役社長・松下和正氏により、現場の実態が報告されました。

講演する株式会社松下産業代表取締役社長・松下和正氏

松下氏によると、やはり女性を現場に入れることに初めは社内にも抵抗はあったといいます。「ただ、入社後の仕事への姿勢や資格取得などに意欲的なこと、現場環境への適応力の高さから成果も上がり、すぐに現場に認められるようになった」と述べています。現状では女性が少ない建設現場ですが、それでも働きたいという女性は「意気込みが違う」とのこと。ただし指導者の人選は、女性に偏見のない人を選ぶなど慎重な判断が必要だといいます。

報告の中で特に興味深かったのが、女性が働くことになり行われた社内アンケートの内容の紹介です。男性の意見としては、「女性の受け入れに際し、更衣室、トイレなどの環境面に気を遣ったが、本人は気にしていなかった」、「職場環境の整備、セクハラなどの特別な知識が必要かと思っていたが、常識的な上司と部下の信頼関係を築くことで問題なかった」など、女性だからと身構えていたが、実際働いてみると男性と大して変わらないことが意外だったという声が多かったということ。その能力の違いも体力面ではさすがに違うが、一方でコミュニケーション能力や安定感には優れているとの印象があるようで、基本的には「性差はない」との回答が複数でした。

また、実際に働く女性の意見としては「女性の得意分野を活かせる場面は意外に多い」、「女性だからと意識しすぎている」との意見もありました。松下氏は、更衣室や仮設トイレ、作業着サイズなど女性ならではの問題がないわけではないですが、「更衣室はカーテンで仕切る簡易的なもので充分」との女性職員の声も紹介した上で、現場の人間が社会人としての当たり前の気遣いができれば、大掛かりな施設を準備しなくても問題なく、それよりも「受け入れる側が気負いすぎていることが、女性活躍の場を損なう原因にもなっているのではないか」と指摘しています。

実際に働いてみなければわからないことはたくさんあることがよくわかり、行き届いた気配りや現場環境での配慮など、女性だからこそ活躍できる部分も多くあると実感させられる報告でした。

 

女性活躍の加速化に向けたポイントは?

建設産業女性活躍推進セミナー

「建設産業女性活躍推進ネットワーク」は、建設業で働く女性が地域や職種ごとなどにグループとなり、そのネットワークの拡大によって、さらなる女性の入職、定着の促進を目的として作られた団体です。2018年2月現在、そのネットワークは職種別全国規模の団体が9、地域ごとでは19の、計28団体にまで拡大して女性の活躍、活動支援を行っています。今回のセミナーには、冒頭で挨拶を行った須田幹事長のほかに、全国の団体から7名が出席し、活動報告やパネルディスカッションによる意見交換を行いました。

建設業界における女性活躍推進の課題を整理すると、大きく次のようにわけられます。

  • 入職の促進
  • 就業の継続
  • 活躍の推進
  • 広報活動の強化
  • その他建設産業女性活躍推進に向けた官民連携

その中で今回の活動報告、意見交換では特に「就業の継続」の重要さが指摘されました。

女性が建設産業で働きにくいのは、とにかく「ロールモデルがないことが原因」であって、入る側及び、受け入れる側に「本当に働いていけるのか」という不安が生じるのは、実績が少なすぎるからではないかという問題提起です。これを解消するためには、安心して仕事を継続できる職場環境を整える必要があり、そのためには「働き方の柔軟性の確保」や「上司や同僚、家族など周囲の協力」が欠かせない部分であるとの指摘。継続が実績を作っていけば、ロールモデルとなる事例も増えて、より推進が加速されるとの意見はそのとおりだと思えます。

もう一つ重要な話題となったのは、「資格取得の大切さ」です。にいがた土木女子会議代表の瀬戸民枝氏は、現状の女性活躍推進のための活動は「女性をいかにケア」することに議論が偏りすぎていることを指摘した上で、これを「フェア」にしていく必要性を述べています。

「技術者の世界ではその能力評価の基準は曖昧になりがちですが、資格は明確な評価基準になります」とその重要性を述べた上で、フェアな判断材料となる資格の取得に向けた支援が現場で働く女性を作り上げ、ひいてはそこから「憧れられるような現場の女性が生まれ、さらなる女性の参入を呼び込むのではないか」といいます。

 

まとめ

現状、建設業界が男社会であることは紛れもない事実でしょう。ただ、今回のセミナーを通じて実際に現場で働く女性の活動を聞くと、その活躍は男性に劣るものではないことを実感させられました。

また、逆に女性だからこそできる仕事という部分には、これまでのやり方とは違う現場を作り出す可能性を感じさせられました。今後、さらに女性の活躍の場を増やしていくには、実際に活躍していることを継続的にアピールしていく必要があるとは思いますが、建設現場における女性の進出は確実にデメリットよりもメリットが多いと納得できるセミナーでした。

 

取材・文 テルイコウスケ