パチッと発生する静電気は、時として現場では大きな事故につながることがあります。最近ではセルフのガソリンスタンドでも静電気除去を怠り火災になったなんていう事件もありました。また衣服に溜まった静電気は、さまざまな物質を付着させ屋内に持ち込むことも知られています。これは油断していると予測もできない事態を引き起こす原因になるかもしれません。静電気の起こるメカニズムをしっかり把握し、いますぐ静電気の除去対策を検討しましょう。静電気を発生させないことが、現場の事故を防ぐ第一歩です。

 

静電気の起こるメカニズム

  • 物質があれば静電気は発生する

物質が2つ以上あれば、静電気は発生します。それは液体、気体などの形状には関係ありません。同じ物質や、異なった物質同士が接触しただけで、静電気は起こるのです。たとえば雷も、雲のなかにある氷結した水蒸気の粒子が摩擦で発生する静電気といえます。

  • 静電気はどうして起きるのでしょうか?

物質は原子の組み合わせでできています。その原子にはプラス電子とマイナス電子が同じ数だけ通常は存在し、いつもは安定した状態で並んでいます。しかし2つ以上の物質が接触することにより、電子があっちこっちに移動するため、帯電が起こり、静電気が発生するのです。そして帯電には色々な種類がありますが、ここでは主な3つの帯電を表にまとめてみました。

帯電の種類 説明
接触帯電 物質と物質が接触することにより起こる帯電です。
摩擦帯電などに比べると、発生する電気は微量ですが、静電気は発生します。
摩擦帯電 接触面がすり合わさることにより起こる帯電です。
よく衣類を脱ぐときにビリビリと走る電気は、摩擦帯電から引き起こされた静電気です。
はく離帯電 接触している物質を離すときに起こる帯電です。
粘着テープをはがすとき、シールを台紙からはがすときに起きる静電気がはく離帯電から起きたものです。
  • どんなシチュエーションで静電気は起こるのか?

<タンク洗浄>

タンクを洗浄するとき、ホースの中に液体や気体を勢いよく流れる瞬間があります。このときに、流れている物質とホースがこすれ合い帯電が起こり、静電気が発生します。特に勢いがいいと静電気の力も大きくなり、現場ではこれが原因で、爆発事故につながることもよくあります。

<プラスティックの成型>

プラスティックを金型に流すと、型と密着したプラスティックの間で帯電が起こります。そしてその状態のまま、型からプラスティックを出そうとした瞬間に、静電気が発生します。その結果、プラスティックにはホコリなどが付着し、欠陥商品となってしまうリスクもあります。

<保護フィルムをはがす時>

液晶ガラス基板から保護フィルムをはがすときなどは、強いはく離帯電が起き、そこから静電気が発生します。これははがれようとする力と、くっつこうとする力が反発することにより、そこから静電気が生じるのです。

 

それぞれの現場で静電気の発生しやすい場面

  • 半導体の内部は静電気によって破壊されやすい

半導体を扱う現場では、静電気は大敵です。特に半導体の内部にある薄い絶縁膜は、静電気に弱く、高い電圧がかかるとすぐ壊れてしまいます。しかし絶縁膜は、破壊されるとき、火を噴いたり、音が生じたりする現象はあまり見られません。どちらかというと見た目は何もかわらず、ただ内部が壊れているため、そのことに気が付かず不良品を出荷してしまうこともあります。

  • 医療現場は着衣などによって静電気が引きおこる

医療現場もまた静電気によって事故がおきやすいところです。たとえば着衣が触れて、酸素タンク内の着火や爆破が起こることもあります。ほかにも病院に置いてある麻酔ガスは、静電気が原因で着火する事象もあるようです。病院は静電気によって一度、事故が起こると、そこから派生して大災害へとつながる可能性がある現場なので、特に注意が必要です。

また服にホコリがつくように、さまざまな病原となる菌や物質を静電気は引きつけるおそれがあります。この時期ならば花粉などもその一つですので、ケアしたいところです。

  • 化学業界は静電気が起こりやすい現場のひとつ

化学業界は静電気から事故につながった事例が比較的多い現場のひとつです。繊維の原糸が絡み合い、そこから静電気が起きたり、糸を切断するときに静電気が起きたりします。静電気によってフィルムにほこりが付着し、不良品となってしまうこともあります。それに気が付かず出荷してしまうと信用問題にもなりかねないため、静電気を除去する対策は必要不可欠な現場です。

ほかにも粉体を扱う現場では、静電気が発生して粉塵爆発、感電につながる恐れがあります。また送流パイプでは、静電気が着火源になったり、それが原因で感電事故を誘発したりします。火の気がない現場だからといって安心はできません。静電気による爆発事故は、現場の至るところに潜んでいます。

 

静電気を除去する対策方法

  • 『エアガン』で静電気とほこりを除去

静電気が起きると製品にほこりが付着し、それが原因で事故につながったり、製品が不良品になったりすることがあります。それを防止するための効果的なグッズが、『エアガン』です。先端に除電器をつけて、エアを強く吹きつけるだけで、静電気を除去するだけでなくホコリも吹き飛ばしてくれます。

  • 手軽に静電気を除去できる『帯電防止スプレー』

簡易的に静電気を除去したいときは、『帯電防止スプレー』がオススメです。スプレーを吹きかけると、表面に界面活性剤の皮膜をつくり、電気が帯電せず流れるようにする仕組みを作ってくれます。このスプレーを使えば、簡単に静電気を防止することができますが、一度スプレーを吹きかけても効果が長続きしないため何度も吹きかける必要があります。

  • 作業する人から発生する静電気を除去する『リストラップ』

金属を扱う場合は、作業する人から発生する静電気を除去する必要が出来てきます。工員は『リストラップ』をつけて作業すると、静電気を体から逃してくれるので安全です。また『リストラップ』は種類も豊富で、手首に巻くタイプ、手首をすべて覆うものなどがあるので、作業工程に応じて選ぶことができます。

  • 床の帯電を軽減するような工夫も対策としては有効的

工場などの場合、人間や機械が移動する床は一番、帯電しやすいところです。そのため床にカーペットやフロアマットを敷くなどの対策は、静電気を除去には有効的です。もっと広い範囲の静電気をしっかり除去したい場合は、『静電気防止塗布床』や、『静電気防止張床』などの設備投資をするのがいいでしょう。設備費用がかかりますが、より安全な現場環境を整備することで、作業の効率化にもつながります。

  • 服や靴を静電気防止の機能がついたものにする

大がかりな設備投資が難しい場合は、工員たちの制服を『静電気防止服』や、『静電気防止靴』などにするのもいいでしょう。人体の帯電から発生する静電気を除去する対策のひとつとしてオススメです。

 

まとめ

安全な現場には、静電気の除去対策はかかせません。人が動いたり、物質と物質がぶつかったりするだけで静電気はすぐに発生します。とくに現場では、いつもは危険でないものが、静電気によって大きな事故へとつながることがあります。常に現場は危険だ! という認識を持ち、静電気の除去対策を遂行することが、安全な職場への第一歩です。

 

参考文献・サイト

KEYENCE「静電気ドクター」

労働安全衛生総合研究所 山隈瑞樹「静電気による爆発・火災の防止」

KEYENCE「静電気のハンドブック」