2019年2月より、新たな「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」が施行されました。これにより安全ベルトのフルハーネス義務化をはじめ、高所作業におけるさまざまな規制が強化されることになりました。ただ、ガイドラインが強化されたからといって、それが直ちに安全につながるというわけではありません。どのように準備していようと、一瞬の油断で事故は起こってしまうもの。今回は、そんな高所作業での注意点をまとめました。

 

高所作業はどのくらい危険なのか?

高所での作業はいうまでもなく危険が伴うものですが、実際にはどのくらい事故災害が起こっているのでしょうか。厚生労働省が発表した「平成29年労働災害発生状況の分析等」によると、建設業においてはやはり墜落や転落を原因とした災害が他よりも多くの被害者を出しているようです。

このように、建設業では墜落・転落を原因とした災害はダントツの1位。同資料を見ると製造業でも「はさまれ・巻き込まれ」に次ぐ、災害原因の2位となっています。現場ではもちろん安全対策をしている場合がほとんどだとは思いますが、それでもこれだけ墜落・転落を原因とした災害事故が起こっているのです。

では、次は実際にロープを使った高所作業においての災害発生状況を見ていきたいと思います。厚生労働省が2015年に発表した「ロープ高所作業における労働災害の発生状況」では、次のように報告されています。

出展:一般社団法人 日本クレーン協会 岐阜支部「『ロープ高所作業』における墜落等の危険防止のための特別教育が義務化されました。」

上記の発表を見ると、基本的な安全確認を怠ったことによる災害が多いようです。ロープを使っているから、安全帯を使っているから安全というわけではなく、メンテナンスや運用、取り扱いの点での確認が欠かせないことがわかります。確認を一人で行うのではなく、現場の管理者を含む複数人での確認の徹底が望まれるところです。

 

安全ベルトを着けているだけで満足しない! 装着していても潜んでいる危険。

高所作業での事故予防のための対策にはいろいろあるとは思いますが、その最も一般的な方法の一つが安全ベルトによる安全確保なのはいうまでもありません。ただ、その運用によってどれくらい安全を確保できるかは大きく変わってきます。

2018年6月に新たな「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」が発表され2019年2月より施行されましたが、それも安全確保をより強化するための規制だといっていいでしょう。まずは、簡単にその大きな変更点を振り返ってみましょう。

 

1)呼称と使用規制の変更

安全帯 → 墜落正式具

胴ベルト型安全帯(一本つり) → 使用できる

胴ベルト型安全帯(U字つり) → 認められない

ハーネス型(一本つり) → 使用できる

2)「フルハーネス型」着用の義務付け

6.75m以下に関しては引き続き胴ベルト型の使用も可能だが、それ以上はフルハーネス型に限る。

3)特別教育の義務付け

ロープ高所作業を除く、高さが2m以上の箇所において、業務を行う労働者は「フルハーネス型安全帯使用作業特別教育」を受ける必要がある。

 

以上で、特に注目される点はやはり胴ベルト安全帯の使用範囲がかなり狭まったことでしょう。厚生労働省「国内における安全帯に起因する死亡災害事例」によると、平成18年から平成27年までの10年間で安全帯を着用しながらも死亡災害が起きてしまったケースは6件、そのいずれも胴ベルト着用時のものでした。

胴ベルト型安全帯は墜落時にズレ上がり、胸部が圧迫される、もしくは体が抜けてしまう懸念がありました。また、墜落阻止時に身体が「くの字」となり、腹部などへの圧迫が大きくなる可能性や、つり元であるD環の位置が身体の重心位置よりも下(脚部側)になる「逆さま姿勢」となる可能性もあり墜落時の安全帯としては十分ではありませんでした。これをフルハーネス型安全帯へと移行していくことで解決していこうというのが今回のガイドライン改定の狙いだといえます。

建設業労働災害防止協会は、さらにショックアブソーバー付きのフルハーネス安全帯の仕様を推奨しています。フルハーネス安全帯を使用していても実際に足を滑らして墜落してしまった際は、地面には墜落しないものの大きな衝撃が体を襲います。その衝撃を大幅に低減してくれるのがショックアブソーバーです。また、墜落阻止時における作業床等への接触・摩擦に起因するランヤードの切断を抑制する効果もあります。

 

高所作業でもヒヤリ・ハット対策が必要不可欠な理由

このように、新たなガイドラインは確かな効果が期待できそうです。それを守っているだけで安全が充分に守られるのかといえば、そうとはいいきれません。どれだけ注意してもヒューマンエラーは起こるものだからです。

また、事故未満のヒヤリ・ハットの事例はたくさんあります。ヒヤリ・ハットが実際の事故につながる可能性は、0.3~0.4%ほどと考えられていますが、このような事故を減らすためにも、しっかり知っておかなければいけないポイントを抑えておく必要があるでしょう。

 

現場の安全「ヒヤリ・ハット」報告を習慣に! 意識づけで事故を防ぐ

 

300のヒヤリ・ハットから1つの事故災害が生まれるとするならば、その対策は欠かせません。ヒヤリ・ハットを作り出す行動・状態は一般的に「不安全行動」や「不安全状態」と呼ばれます。とても簡単にいうならば「面倒くさい」や「いつもやっているから大丈夫だろう」といった注意を怠っている行動や状態がこれにあたります。厚生労働省では、労働災害発生原因全体のうち97.6%が、労働者の不安全な行動に起因する労働災害と分析しています。

災害事故の予防と対処法はいくつかありますが、なによりも必要なのが「ヒヤリ・ハット報告」を徹底することです。上記の300件は日常的に起こる様々な事例です。それをしっかりと集め、分析することで事故や災害を食い止めることができます。また受け取ったヒヤリ・ハットを分析、そして共有することで不安全行動・状態も改善され、自浄作用による自分たちの行動や状態を客観視することで事故災害の防止に役立てることもできます。

また、個人の意識改革も大切です。以下に、簡単にまとめましたので参考にしていただければ幸いです。

 

個人でも今すぐできるヒヤリ・ハット対策

1)「〜だろうから大丈夫」を「〜かもしれないから気をつけよう」に変える。

2)ベテランこそ初心者よりも気をつける。

3)睡眠をしっかり取り、ストレスなどもなるべく解消する。

 

以上の3つは現場でもすぐ適応でき、なおかつ効果が高いのでぜひ周知して実行していきたいものです。

 

まとめ

新しい「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」が施行されるに当たり厚生労働省は定量的な目標を掲げています。

死亡災害:15%以上減少

死傷災害:5%以上減少

その目標を達成するためにも、フルハーネス型安全帯及びショックアブソーバーの装備。そして、今すぐできる3つのヒヤリ・ハット対策を導入した上、「不安全行動」と「不安全状態」での作業をなくすために「ヒヤリ・ハット報告」の徹底。これらをどのような現場でも実行していただき、悲惨な災害を減らせれば幸いです。

 

参照先

厚生労働省「平成29年労働災害発生状況の分析等」

厚生労働省「国内における安全帯に起因する死亡災害事例」

日本クレーン協会 岐阜支部「『ロープ高所作業』における墜落等の危険防止のための特別教育が義務化されました。」

あんぜんプロジェクト「見せます・出します『ヒヤリ・ハット事例』~安全衛生活動への参加の見える化~」

建設業労働災害防止協会「正しく使おう フルハーネス」