住宅における省エネ適合基準は、2020年めどに義務化が予定されていましたが2018年末に見送りになることが決定されました。先行きは未だ不透明ですが、今回見送りとなったことで住宅建築にどのような影響がでてくるでしょうか。省エネ基準義務化の問題と、今後の見通しを考えていきたいと思います。

 

なぜ「見送り」に? その問題の背景とは

2018年12月3日に国土交通省にて開催された有識者会議において、小規模建築物について適合義務化の対象から外され見送りとなりました。無期限の延期、事実上の白紙撤回です。「建築物のエネルギー消費性能の工場に関する法律案」いわゆる「建築物省エネ法」は2017年に施工されました。

現代社会においてエアコンや照明、給湯器などの家電製品は生活必需品です。しかしこれら家電製品はエネルギーを大量に消費しています。資源エネルギー庁の調査によると、住宅・建築物部門のエネルギー消費は全消費量の3割以上を占めています。省エネ住宅の必要性は世界的に高まっており、2015年に採択された、2020年以降の世界の気候変動抑制に関する国際的な枠組み「パリ協定」の温室効果ガス削減目標も踏まえ施行された法案です。

大規模な建築物から省エネを進め、2020年以降に新築される建築は住宅も含め省エネ性能を備えているもののみ建築される予定でした。それがなぜ見送られたのでしょうか。見送られた理由は以下で提示されています。

「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方について(第二次報告案)の概要」

上記の内容から主な趣旨を抜き出すと、理由は以下の通りです。

 

  • 小規模住宅の省エネ基準への適合率が約6割と低い水準に留まっているため
  • 省エネ基準などに習熟していない事業者(中小工務店や設計事務所等)が相当数存在するため
  • 新築は件数が多く事業者、審査双方に事務負担があり必要な体制が整わない恐れがあるため
  • 省エネ住宅への追加コストが比較的長期間(14~35年)と試算され、建築主に効率性の低い投資を強いることになるため
  • 省エネ住宅となることで、建築主個人の価値観を踏まえたデザインに制限がかかり設計自由度が狭まる恐れがあるため
  • 住まい方や使い方によりエネルギー消費量は変わるため
  • 2019年10月の消費増税と重なり、住宅投資が冷え込む懸念があるため

 

一方で中規模建築物や大型住宅に関しては、省エネ適合率が91%(2017年度)のため、事業所も省エネ基準に習熟しており行政の対応の能力もあるなどとして義務化に問題なしと判断されています。

つまり主に住宅などの小規模建築でも省エネ基準を義務化すると、市場に混乱が起きる恐れがあるので義務化は現実的でない、と結論付けたということです。しかし今後も状況に応じ制度改革は行われるという確認もあるので引き続き注目が必要です。

 

見送りとなったことでどう変わる? 

この省エネ基準適合義務化見送りに対し、事業者へ行ったアンケートがあります(※1)。賛成が20.4%、反対は47.9%、どちらともいえないが31.7%という結果でした。「世界の流れに逆行する」「肩透かしをくらった」など残念がる声が多い一方で、「コスト削減が進まないと難しい」「現状では義務化は難しいと思う」という意見もありました。

確かに、中小工務店の省エネ施行技術習得支援も実施されてきて、多くの事業者は省エネ基準義務化を前提に動いていたにも関わらず、対応できない工務店などが多数あるために法案の見送りとなるのは残念と言わざるを得ません。

けれども2017年度の新築戸建て住宅のうち、ZEHは15%を占めました。ZEHとは断熱性能を向上させた省エネと、効率的な設備で再生可能エネルギーを導入することにより年間のエネルギー収支をゼロにする住宅のことです。また大手のハウスメーカーであれば、ほとんど改正省エネ基準(H25基準)を満たす住宅を建てています。基準適合はもちろん、より高性能な省エネ住宅を建てることができる工務店や設計事務所は少なからず存在するのです。

義務化が見送りとなったことで、省エネに積極的に取り組んでいる事業者とそうでない事業者の差が一段と広がることになるでしょう。

※1 建設情報誌新建ハウジングVol817 全国の住宅関連会社を対象としたアンケート(2018年12月実施)

 

今後どうなっていく? 考えられる良い影響・悪い影響

見送りとなったことで省エネ住宅の普及はいったんストップしてしまったようにも思えます。国土交通省は代替案として「設計時に建築士が省エネルギー基準への適合可否を説明すること」を義務付ける方針を示しました。建築士が設計時に省エネ適否を記載した書面を交付したり、顧客への説明時に省エネ性能を向上させるための提案をしたりすることを進めるということです。顧客に対し説明をすることで省エネ住宅への関心を高め、顧客側から事業者への依頼を促すことが狙いです。

とはいえ、省エネ性能とは目に見えず実感しづらいためメリットが伝わりづらいものでもあります。省エネ性能の高い提案にはどうしてもコストも伴うため、理解してもらえなければ、よく分からないまま高い家を売りつけようとしていると思われかねません。けれども約3割の顧客は、丁寧な説明を受け建築士などから具体的な提案があれば検討したいというアンケート結果も出ています(※2)。現在の国の基準だけでは、クリアしたからと言って快適な家は望めません。しかし家という大きな買い物をする際、少しでも良いものをと考える顧客は少なくないでしょう。

省エネ義務化は、断熱の「外皮性能」とエネルギー使用量を減らす「一次エネルギー消費量」の能力について基準に適合することを求めるものでした。断熱性が上がれば、光熱費の削減や建物の長寿命化、また気密性が高まることで健康的な空間にも繋がります。そのメリットをうまく顧客に伝えられるかが今後の課題となるでしょう。

一方で省エネ住宅に積極的に取り組む事業者はコスト増となり、価格競争に残れず淘汰される懸念も指摘されています。義務化されていないことで省エネ性能は落ちても安く建てることにより顧客を獲得している事業者もいます。

しかし事業者の多くが省エネ住宅に乗り出せば、住宅市場全体に対する影響は大きいものになるでしょう。断熱材やサッシ、エアコンなど建材や家電の性能が高いものが選ばれるようになり、それによる競争から高性能なものが低価格になることが期待できます。

 

※2 住宅の新築・購入時の省エネ性能の検討の意向  国土交通省【出展】住宅性能評価・表示協会が実施(インターネット調査(新築・購入検討者3,194件))(2018年6月実施)

 

まとめ

延期になった大きな理由は、省エネ基準の適合率が低いからということでした。つまり将来的に適合率が上がり対応可能な事業者数も増えれば、再び省エネ基準義務化に向かう可能性は高いのです。省エネ住宅の世間のニーズは高まっています。まだ先のことと義務化を待つのではなく、将来に備え省エネ化に取り組むことが大切です。

 

 

参考文献・資料

ウェルネスト「2020年の省エネ義務化問題!【住宅の資産価値が激減!?】」

ウェルネスト「2020年省エネ基準(断熱基準)義務化が見送り!?」

ミトミ「省エネ住宅の義務化が見送り?!今後、新築戸建てを買う場合の注意点とは?」

タイナビ「2020年の省エネ義務化は見送りに!今建てるべき住宅は?」

日経BBコンサルティング「『適合義務化せず』、どうなる省エネ住宅」