2018年に改正された省エネ法が12月より施行されました。改正されたことで住宅建築をはじめ物流などにどんな影響があるでしょうか。しかし省エネ法とは一体どういったものなのでしょう。罰則はあるのか、どうやって成立したのかなど、今回は改めて省エネ法について一から学んでみましょう。

 

そもそも省エネ法ってどういうもの?

省エネ法とは、正しくは「エネルギー使用の合理化等に関する法律」と言います。経済産業省の管轄で1979年に制定されました。きっかけとなったのは、1973年、1979年に起こった石油危機(オイルショック)です。原油の価格が急騰し、日本への石油供給がなくなるのではないかという恐れが広まり日本経済が混乱に陥りました。この事件から資源の少ない日本は無尽蔵にエネルギーを消費できないという教訓を得、貴重なエネルギーを効率的に使うための法律が制定されたのです。

省エネ法には大きくわけて2つがあります。

 

・建築物の省エネ

住宅や建築物のエネルギー消費性能向上を図るための措置です。一定の規模以上の建築物に対するエネルギー消費性能基準への適合などがあります。平成22年には住宅の新築や増改築時に届け出と報告の義務化されました。建物の床面積に応じ、一次エネルギー消費量を評価します。

また建築物に特化した、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)が2015年に制定されました。

・エネルギー関係の省エネ

省エネ法における「エネルギー」とは、ガソリンなどの燃料、天然ガス、それによって起こる熱や電気のこと。これらのエネルギーの管理強化が目的のひとつです。

そのためエネルギーを多く使用する機会のある事業が省エネ法の対象となっています。省エネ法が規制する業種は工場、輸送、住宅・機械器具等の3つの分野です。

 

省エネ法に適用されると事業者には3つの義務が生じます。

1)エネルギー使用届け出書を提出

現状のエネルギー使用状況を提出する義務があります。本社、工場、店舗等企業全体で使用したエネルギーの年間使用料を集計し原油量に換算して提出します。

2)特定事業者は定期報告書、中長期計画を提出

エネルギー使用量が年間1500kL以上の事業者は特定事業者となり、定期報告書と中長期計画を提出します。

3)エネルギー管理者の選任義務

特定事業者はそれぞれの規定に応じ、各事業所や店舗へエネルギー専門の人員を選任し配置する義務があります。

 

これらの書類は提出期限も決まっています。提出する際は期限がいつまでかしっかり確認するようにしましょう。

 

・評価基準

特定事業者はもちろんですが、特定事業者にはあてはまらなかったとしても省エネへの取り組みに対しての努力義務が生じます。

事業者の取り組み状況を評価する際、評価基準となるのが「エネルギー消費原単位」を年平均1%以上減らしているかどうかという点です。

エネルギー消費原単位とは国民総生産(GNP)の一単位あたりのエネルギー消費量を指し、例えば工場に省エネ性能の高い機器を導入することでエネルギー消費原単位を減らすことができます。

省エネ法ではこのような評価基準などに照らし合わせ、定期報告書の内容を評価します。改善が見られない場合などは必要に応じ立入検査や指導などが行われることもあります。

 

省エネ法の罰則について

また省エネ法は法律ですから、万一違反した場合は罰則が科せられます。ここでは、どんな罰則があるのか、確認していきます。

 

・エネルギー使用届け出書、定期報告書、中長期計画について

提出しなかった場合、また虚偽の報告をした場合、50万円以下の罰金。

・人員の設置について

選任また解任の届け出をしなかった、虚偽の報告をした場合、20万円以下の科料。また未選任の場合、100万円以下の罰金

・エネルギー使用の合理化に関する状況について

状況が不十分だと認められた場合、勧告あり合理化計画の作成指示。指示に従わない場合、企業名の公表あり、命令。命令に従わない場合、100万円以下の罰金。

 

以上が定められている罰則です。企業に科せられるものとしては緩いように思われるかも知れませんが、命令に従わなければ企業名が公表され信用問題となります。金額より多くのものを失ってしまいますので、破ることのないよう報告書はしっかりと提出しましょう。

 

新しい省エネ法の押さえるべきポイント

省エネ法は制定から約40年となり、時代により7度の改正を経て現在に至っています。2018年に改正、施行された新たな省エネ法は今までとどう違い、何に注意すべきでしょうか。

 

・改正の背景

日本では長きにわたり省エネへの取り組みが行われてきましたが、エネルギーミックス(長期エネルギー需給の見通し)では、2030年時点のエネルギー消費量を対策前と比べ5030万kL削減するということが示されました。これを実現するにはエネルギー消費効率を35%程度改善しなければなりません。

2016年度時点での削減量は876万kL、進捗率は17.4%ですからこれがどれだけ高い見通しであるか分かるかと思います。この数字を実現可能のものとするためには今後さらに省エネを進めていくことが必要であるため今回の改正が行われました。

・産業、業務部門

産業、業務部門ではLED照明などの導入が比較的早くから進んでおり、そのため最近10年間のエネルギー消費効率はほぼ変化がありません。政府はさらに省エネを加速させるため企業連携による省エネの促進をはかる改正をしました。

改正前はエネルギー使用状況などを企業単位で報告していました。そのため同一業界の事業者間で連携し設備の統合や集約を行い全体で省エネをしたとしても効果が評価に繋がりませんでした。

今回の改正により省エネ量を企業で連携、分配して報告することが可能になりました。連携した企業が省エネ基準の評価を得られることで、さらに積極的に省エネに取り組むようになることが期待されています。

また、グループ企業が一括して定期報告や統括者の選任を行えるようになりました。改正前は親会社、子会社それぞれに省エネ法の義務が課せられていましたが、改正後はグループの親会社が「認定管理統括事業者」の認定を受けた場合、子会社の分まで一体的に義務を担うことができるようになります。子会社の負担も減るだけでなくグループ企業全体の費用対効果を考えた省エネに取り組める形です。

・運輸部門

運輸部門に関しては最近のネット通販市場の著しい成長による流通、配送の増加に伴う、エネルギー消費の増加が課題です。今後も物流量の増加が予想されるなか、エネルギー消費の少ない体系を作ることが急がれます。

改正前は主に工場間の輸送を想定し荷主の定義を「貨物の所有者」としていました。しかし現在主流になっているネット通販では、売買契約が成立した段階で荷物の所有権が購入者のものとなることもあり、販売者が荷主としての省エネ法の規制を受けないことがありました。

そこで改正後は荷主の定義を「契約等で輸送の方法を決定する者」とし、貨物の所有権を問わず販売者が荷主として省エネ法の規制対象となるよう改めました。これにより規制の対象が広がり、荷主と輸送業者が連携して貨物輸送の効率化に積極的に参加することが期待されています。

さらに貨物の到着日時を指示することができる受け取り側を「準荷主」と位置付けることに。受け取り側が到着日時などをきちんと指示しないことで貨物の到着が遅れたり早まったりしたり、輸送業者の手持ちが発生しないようにする協力を求めていくためです。受けとり側からも意識を変え、省エネへ取り組んでもらえるようガイドラインも整備される予定です。

・中長期計画の提出頻度の軽減

特定事業者が毎年提出するよう義務付けていた中長期計画書。これを、一定の優良評価を得た事業は数年に1度の提出に免除されます。

事業者の負担を減らし、より省エネに取り組みやすいようにする狙いです。

・省エネ再エネ高度化投資促進税制

一定の要件を満たす特定事業者が、省エネ設備を新たに導入する場合、法人税の30%を特別償却または7%税額控除する措置を行います。

特に産業や業務部門では大規模な省エネ設備投資が遅れている現状です。この制度によってさらに多くの企業の省エネ投資を狙います。

 

まとめ

40年近くも省エネに取り組んできた日本は省エネ先進国です。しかし高い目標をクリアすることは簡単ではありません。省エネの取り組みは徐々に大きくなり、全世界的な流れとなっています。技術の進歩と法整備により、さらに省エネが進むようになるでしょう。その際に置いていかれないよう、しっかりと省エネ法を知っておくことが大切です。

 

参考文献・資料

資源エネルギー庁「省エネ法の概要について」

省エネポータルサイト「省エネ法の概要」

経済産業省「省エネ大国・ニッポン ~省エネ政策はなぜ始まった?そして、今求められている取り組みとは?~」

低炭素化支援株式会社「改正省エネ法の罰則」

エネ管.com「【省エネ法】制定された背景、義務、罰則はあるの?」

ライフルホームズ「建築物省エネ法とは? これからの日本の建築物に求められること」

経済産業省・資源エネルギー庁「時代にあわせて変わっていく『省エネ法』」