女性の活躍を推進する政府の方針が示されて久しいですが、力仕事が多い印象の建設現場ではやはり女性雇用は少ないのが現状です。けれども女性を雇用したことのメリットは多く、支援金制度も充実しています。現場に女性が必要な理由をみていきましょう。

 

女性雇用の現状

女性の雇用状況を表す言葉として「M字カーブ」というのがあります。女性の労働力率を年齢別にグラフ化した際に描かれるアルファベットの”M”に似た曲線をこう呼びます。M字カーブは、20代で就職し、30代で結婚し出産や育児に専念するため仕事を離れ、子供が大きくなった40代で再び働き始める、という日本の女性に多く見られる働き方の特徴をそのまま描いています。今も昔も女性は出産や育児により一度仕事から離れざるを得ないことがわかります。しかし時系列で見ると最近30年の間にM字カーブの窪みが浅くなっており、全体的にも上昇し勾配も緩やかになっています。これは全年齢の働く女性の割合が増えてきていることを表し、30代で仕事から離れる女性が減少していることを意味します。その背景として、女性が仕事を持つことに対する意識が女性自身だけでなく、男性含め社会全体として変化してきたことがあげられます。育児休業など企業側の制度の充実や保育所などの育児基盤の整備につながり、結果女性雇用も増えてきているのです。


内閣府調査(2018年)

 

しかし総数が増えたことを喜んでばかりではいけません。女性労働者の過半数は非正規雇用で働いており、その割合は年々増加しています。総理府の調査では第一子出産後に約7割の女性が離職を余儀なくされています。育児休暇制度があっても企業によっては申請を行い辛かったり取得できなかったりなど、男女雇用機会均等法に違反する事例も数多くあります。出産や育児でいったん仕事を離れると再就職が難しく、非正規雇用の仕事しかない、という現実があるのです。

さらに正規雇用であれば安泰というわけでもありません。正規雇用である男女のフルタイム社員の中位所得の差を比較したデータでは、男性の賃金を100%とした場合の男女の賃金格差は25.9%でした。これは韓国、エストニアに次いで3番目に大きな差になっています。また、役員や管理職に占める女性割合も国際的に見劣りしています。日本の管理職従事者に占める女性の割合は2016年では13.0%であり、諸外国と比べ低い水準にとどまっています。政府は管理職の女性の割合を2020年までに30%とすることを目標に掲げており、これは非正規雇用改善、賃金格差改善と合わせ急務と言えるでしょう。

 

現場に女性がいることのメリット

女性雇用の波は建設業界へも届いています。しかし現場の力仕事などは男性の仕事というイメージも強く、なかなか女性も希望しなかったり、男性も現場に女性がいることへの戸惑いがあるのが現状です。女性がいることにはどんなメリットがあるでしょうか。

 

・現場の整理整頓、身だしなみがよくなる

男性主体ではどうしても散らかりがちな現場に女性が入ることで、物の管理にも目が行き届き、整理整頓がきちんと行われるようになります。女性は収納などの工夫も得意なことが多いので、狭い場所でもスペースを有効的に物を整理します。男性も女性に気を使い、使用した物を同じ場所へ返却するようになるなど整頓がスムーズに行われるようになります。また、女性の目を気にして男性の身だしなみも自然と整い、清潔感がある現場にもなります。

 

・現場の雰囲気がよくなる

女性の笑顔はそれだけで華やかです。女性特有の明るさにより、現場の雰囲気が驚くほどなごやかになった、という現場が実際にあるのです。コミュニケーションを取るのも女性は優れており、段取りや調整能力にたけていますから、作業もスムーズに進むようになります。

体力面では女性より男性の方が優れていますから、女性ではどうしても物の持ち運びなどが難しい場面でも、男性が声をかけ手伝うなどのコミュニケーションが生まれます。無理をせず安全に気を配って作業することにも繋がります。

 

・女性特有の視点が新しい気づきにつながる

例えばキッチンのリフォームなど、よく料理をする女性の方が顧客のニーズに応えやすい、ということがあります。いままで見逃されていた細かいことに女性が気付くことで、より顧客の満足度を高めることができます。

 

・長時間労働を見直すきっかけになる

現場では工期に間に合わせるため長時間労働を強いることがままありますが、家庭を持っていたり、体力的に難しかったりと、女性には長時間労働は厳しいことから、早めに作業を終わらせようとする意識が生まれます。それにより、どうすれば時間内に作業が終わるかの工夫を考えたり、男性たちにも早めに帰ることが悪いことではないという意識変化を与え、ワークライフバランスの向上に繋がります。

 

・近隣住民からの理解を得られやすい

建築現場は囲いで覆っているため、中で何をしているのか近隣の住民からは分かりにくいことが多いです。けれど女性が現場に出入りしていれば物珍しさも手伝って、主婦などから声をかけられることが多くなります。何を造っているのかなどコミュニケーションを取る機会が自然と増え、女性がいることにより安心してもらえるという効果もあります。

 

女性雇用で受け取れる助成金・支援金制度とは?

女性を雇用することによってのメリットはまだあります。女性が働きやすい環境を整えるための資金として助成金制度を利用できることです。

 

・女性活躍加速化助成金

有名なもので「女性活躍加速化助成金」があり、ワークライフバランスの向上を目指すために定められた「両立支援等助成金」制度のひとつです。この助成金の重要な点は”企業内の女性活躍を数値化し公表しなければならない”という点です。その数値目標をクリアするための取組内容と目標を定め、実際にその目標を達成できた場合に助成金を受けとることができる、というシステムです。

公表先:「女性の活躍推進企業データベース」

「加速化Aコース」「加速化Nコース」の2コースがあり、Aコースが取組目標、Nコースが数値目標をそれぞれ達成すると助成金を受け取れます。ちなみにAコースの対象は労働者が300人以下の中小企業(非正規雇用含む)なので注意しましょう。各コースの支給額は30万円で、両コースとも数値を達成すれば、合計60万円受けとることも可能です。

 

・女性の活躍推進に向けた環境整備事業

この助成事業は東京都が公団と連携してできたものです。女性の就職拡大を目的としていて、女性の割合が4割を下回っている職種が対象で、女性の採用を検討している都内の中小企業等が職場環境の整備にかかる費用の一部を負担してもらえます。助成限度額は500万円で、トイレや更衣室、シャワー室や仮眠室などの設備整備費用に当てることができます。

 

・女性活躍推進責任者設置奨励金

こちらも東京都の事業で、中小企業における女性活躍を支援する目的でできたものです。職場の女性活躍を推進するため、管理職を希望する女性の研修や取組を実施した企業に対して30万円支給される奨励金制度です。自社内で責任者になることを希望する女性がいる場合はぜひ活用していきたいですね。

 

おわりに

建設業界における女性の割合はおよそ15%。同じ二次産業の製造業でも31%というのに比べると女性の雇用拡大にはまだまだ壁が多いのが現状ですが、それでも少しずつ増えてきているのも事実です。女性も働きやすい環境を整え、やる気のある女性を積極的に採用していけるよう目指しましょう。

 

 

<参考>

内閣府男女共同参画局『第1節 働く女性の活躍の現状と課題』

株式会社プライムコンサルタント『第5回「日本の女性雇用の現状と課題」』

全労連『女性 女性労働者をめぐる現状』

東洋経済オンライン『鹿島建設が女性を現場配属する理由』

女の転職@Type『土木系女子“ドボジョ”でも「長く働く」は実現できる

資金調達ノート『女性の活躍を推進する助成金「女性活躍加速化コース」とは?』

補助金ポータル『働く女性を応援!女性が活躍することでもらえる助成金4選!』