暑くなる季節、気を付けたいのが熱中症。しかし暑さを防ぐだけでは不十分なのです。熱中症の原因は湿度や輻射熱など様々。そんなときに目安となるのが暑さ指数(WBGT)。WBGTをうまく活用して不快指数を把握し熱中症を防ぎましょう。

 

部屋の温度は均一ではない?

同じ室内にいても暑いと感じるひともいれば寒いと感じるひともいます。その感じ方の違いは単にそのひとが暑がり、寒がりということですまされることがありますが、実はそういった個人の問題ばかりではありません。この課題を把握し改善することは、我慢を強いることのない快適な職場環境作りに繋がります。では具体的にどのようなことが原因なのでしょうか。

実は室温そのものにムラがあるのです。特にオフィスにはOA機器は必須ですが、機器類は発熱しています。特にプリンター複合機は消費電力が1000~2000Wと高く発熱量が大きく、プリンター周辺は室温が高くなりやすい傾向があります。また扉付近などは誰かの出入りの外の暑い空気が入ってきやすく、なかなか冷えることがありません。さらに、窓際の日当たりのよい席や壁沿いは直射日光をあびるため暑く感じます。かといってエアコンを強めると今度はなぜか足元が冷えてしまい、特にデスクワークの女性が膝掛けなどを使わなくてはいけなかったり、辛い思いをします。

これらは空気の性質によるところが大きいでしょう。暖かい空気は上に、冷たい空気は下にたまります。エアコンから吹き出された暖気は天井にいき、寒気は床面にたまるため、室温にムラが出ます。

温度のムラをなくせば室温が均一になり、冷えや暑さも解消されますが、実際に空気を混ぜ合わせて同じ温度に保つには常に空気を循環させていなければならず、非常に難しいのです。サーキュレーターなどを使うことは多少の効果はありますが、冷気や暖気は塊で移動するため混ぜられる空気は一部のみでなかなか全体を均一にするまでにはいきません。

このように室温にはムラがあり、それを把握することが重要になります。エアコンの温度設定=室温ではないのです。対策としては複数の温度計を室内に設置しその測定結果を分析することで温度を”見える化”することですが、正確な温度をはかることも難しいので把握するにも時間がかかります。

 

温度&湿度管理が重要!

・不快指数

また、温度を把握するだけでは職場環境の改善ができているとは言えないでしょう。次に重要なのは湿度です。熱中症には湿度管理が重要です。湿度が高いと、汗が蒸発せずからだが冷えないので熱中症になりやすくなるからです。また気温が低くても湿度が高いとじめじめしてひとは不快に感じます。その蒸し暑さがどの程度かを、気温と湿度から計算できる基準数値として「不快指数」があります。

職場の基準の温度は法律で定められています。労働安全衛生法の事務所衛生基準規則5条3項で「事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室内の気温が17度以上28度以下及び相対湿度が40%以上、70%以下になるように努めなければならない」となっています。 これは不快指数表でみるとおおよそ65~70の「快い」と感じる数値です。しかし不快指数は風速などは考慮されておらず、ひとにより体感に差がでることがあります。

 

・暑さ指数(WBGT)

熱中症対策としていま使われている指標に「暑さ指数」があります。1954年にアメリカで熱中症のリスクを事前に判断するために開発された指標で、正式には「Wet-Bulb Globe Temperature(WBGT)=湿球黒球温度」といいます。WBGTは人間の熱バランスに影響の大きい、気温、湿度、日光の照り返しなどの輻射熱、風などの気流を取り入れた温度の指標で、世界中で広く活用されています。

自然湿球温度と黒球温度、さらに屋外で太陽照射のある場合は、乾球温度を測定し、それぞれの測定値を基に計算を行います。WBGTの計算方法は気温:湿度:輻射熱が1:7:2で湿度が重要な指数をしめています。熱中症になるリスクとして湿度が重要視されているからです。

WBGTは温度(℃)で算出されます。WBGTが28℃を越えると熱中症にかかる可能性が急激に高まります。また作業状態によりWBGT基準値は異なってきますので、激しい作業をしている際は26℃程度でも熱中症リスクが高まります。厚生労働省の「熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について」に基準が記載されているので確認しておきましょう。

参考:熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について(平成17年7月29日付け基安発第0729001号)

 

おすすめ計器とその設置方法

・計算式

特に夏場は、温度や湿度だけでなく、WBGTをはかって熱中症の危険度を把握する必要があります。計算式は次の通りです。

 

・屋内及び屋外で太陽照射のない場合

 WBGT=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度

・屋外で太陽照射のある場合

 WBGT=0.7×自然湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度

 

それぞれの温度をはかる計測器は以下の条件があります。

 

自然湿球温度:強制通風することなく、輻射放射熱を防ぐための球部の囲いをしない環境に置かれた濡れガーゼで覆った温度計が示す値

黒球温度:次の特性を持つ中空黒球の中心に位置する温度計の示す温度

(1)直径が150mmであること

(2)平均放射率が0.95(つや消し黒色球)であること

(3)厚さが出来るだけ薄いこと

乾球温度:周囲の通風を妨げない状態で、輻射熱による影響を受けないように球部を囲って測定された乾球温度計が示す値

 

・設置方法

正確に測定するには設置場所や方法にも注意が必要です。厚生労働省では以下の基準に注意するように促しています。

(1)屋内では熱源ごとに熱源に最も近い位置で測定すること。また、測定位置は、床上0.5m~1.5mとすること。

(2)屋外では、乾球に直接日光が当たらないように温度計を日陰に置き測定すること。

(3)自然湿球温度計は強制通風することなく、自然気流中での温度を測定すること。

(4)黒球温度は安定するまでに時間がかかるので、15分以上は放置した後に温度を測定すること。

(5)少なくとも事前にWBGTの値がWBGT基準値を超えることが予想されるときはWBGTの値を作業中に測定すること。

 

しかしこれだけのものを用意し、毎度計算するのはなかなか難しいのが現状です。現在はWBGTを測定し自動で計算する携帯用の簡易機器も市販されています。

WBGT測定器を選ぶポイントは、屋外での使用には、黒球付きのものをえらんだほうがよいということです。黒球が日射や輻射を測定するので、ついていないものでは正確な計測ができません。室内用であれば黒球のないものでも使用可能です。

 

・おすすめの計器

タニタ 黒球式熱中症指数計 熱中アラーム TT-562GD

熱中症予防運動指針をアラーム音と数値で知らせます。0.1単位まで表示され、現在のWBGT指数がしっかり分かります。直射日光の下でも使用可能。携帯や設置に便利なアタッチメントがついており、バックライト機能もあり、安定しない作業場でも利用することができます。

 

デザインファクトリー 計測機器 黒球付熱中症計

日本気象協会監修商品。室内、屋外の切り替えスイッチがあり、どちらにも対応しています。また見守り機能付きで10分ごとに自動で計測してくれるので、気づいたら危険域だったということを防いでくれます。熱中症の危険度は5段階式でライトが知らせてくれ、分かりやすく便利です。

 

佐藤計量器(SATO) 熱中症暑さ指数計

正確な測定には三脚の利用が必要で、少々値段も張りますが計器の専門メーカーが出しているので、性能はお墨付きです。

 

A&D みはりん坊ダブル AD-5687

こちらは室内用におすすめです。熱中症指数だけでなく、乾燥指数も出してくれる機能つきのため夏場だけでなく、冬場のインフルエンザ対策にも活用できます。どちらの機能もついているため一年中利用可能なかなり優れものです。

 

おわりに

WBGTを測ることで作業環境の快適さを確認し、熱中症予防に活用することができます。値が基準値より高い場合は休憩を取ったり、作業計画を工夫するなど無理なく作業をしましょう。しかしWBGTはあくまで「指数」です。まだ値が高くないからといって無理して作業するのではなく、水分をこまめに摂取し体を冷やすなど、体調管理には常に気を付けるようにしましょう。

 

<参考>

COOLBIZ「オフィスの暑さを“見える化”して、温度のムラを少なくしよう! 」

エコシルフィ「エアコンの暖房・冷房を効率よく空気循環させるサーキュレーター」

空デポ「不快指数を計算して快適な空調を」

職場のあんぜんサイト「暑さ指数(WBGT値)[安全衛生キーワード]」

ミドリ安全「WBGT測定器 | 熱中症対策・予防グッズ特集」

ビブリアン「これで万全!【WBGT】熱中症指数計おすすめ8選!」

環境省熱中症予防情報サイト「暑さ指数(WBGT)の測定方法など詳しい情報」