まだまだ残暑が厳しい毎日。熱中症対策はかかせません。従業員ひとりひとりに注意を促すことが大事なのはもちろんですが、建築など現場の仕事は環境が熱中症になりやすい状態に陥りがちです。管理者として、どのようなことに気をつけて熱中症対策を行うべきでしょうか。職場全体の安全のために取り組むべきことを見ていきましょう。

 

熱中症になりやすい職場とは

厚生労働省によると、平成30年における職場での熱中症による死傷者数(死亡者数と休業4日以上を加えた数)は、1,178人と前年の2倍を超えました。中でも死亡者は28人で、前年の2倍となっています。死亡者を業務別に見ると建築業が10人ともっとも多く、製造業5人、運送業4人と続き特に屋内作業中の発生が目立っています。

死亡した方々の状況を見ると、暑さ指数WBGT値が基準値を越える中での作業が多く、中でも作業環境の正確な把握や作業計画の変更を行わなかったと考えられる事例や、重篤な熱中症の兆候が見られた労働者の救急搬送が遅れた事例、日ごろから健康診断や体調把握などの事業場における健康管理を適切に実施していない事例などが見られます。

参照:「平成30年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」

熱中症になりやすい環境とは改めてどのような状況か、改めて整理しましょう。

 

・気温と湿度がどちらも高い

熱中症になる典型的な例がこの状況です。特に熱中症には気温より湿度が高いことが重要視されます。湿度が高い場所では汗が蒸発しにくくなるため身体から放熱することができなくなり、体内に熱がこもり熱中症を引き起こしてしまいます。

 

・日差しや照り返しが強い

炎天下での長時間の作業は、当然体内の水分量と体力の低下により熱中症におちいりやすい状況です。日差しを遮るもののない環境での作業は、こまめな休憩と水分補給がかかせません。

 

・風が通らない

また、屋内といっても油断は禁物です。気温が低くとも、湿度が高く風の通らない環境であれば熱中症になる可能性は上がります。倉庫や工場での作業などに特に気を付けたい環境です。

 

熱中症になりやすい環境については、以下の記事も併せて参考にしてください。

WBGT(暑さ指数)の把握と評価で熱中症対策を万全に!

熱中症対策はWBGTを使って現場の「不快度」を正確に把握することにアリ!

 

 

熱中症対策のために管理者がやるべきこと

湿度、気温がともに高く、無風状態であることが熱中症になりやすい環境といえるでしょう。では、職場を「熱中症になりにくい」環境に変えるにはどうしたらよいでしょうか。

 

・WBGT値の活用

温度、湿度、風の状態の3点を計算し熱中症になりやすさを示した数値が、暑さ指数WBGT値です。WBGT値の測定器も市販されているので、活用することがのぞましいでしょう。

現在の作業環境が熱中症になりやすいかどうかを随時確認し、作業内容や休憩時間の見直しをすることが大切です。連続作業時間を短くしたり、個人の健康状態を見て作業内容を調節しましょう。

 

・休憩所の整備

作業場の近くに冷房を備えた涼しい休憩所を設けましょう。休憩所には水分と塩分の補給ができる飲料や、梅干しやレモンといった食べ物を置いておくなど、定期的にいつでも補給できるようにしましょう。おしぼりやタオルなどで身体を冷やせるようにすることも大切です。服の着替えができるスペースやシャワーなども設営できるとさらによいでしょう。

 

・健康管理

作業員個人の顔色や体調をチェックし、無理に作業をさせないように気を配りましょう。睡眠不足や、二日酔いなども熱中症になりやすいリスクを高めます。作業員の普段の体調との変化に気づくことが熱中症予防に繋がるので、作業開始前や巡回時に声を掛け合って確認することが大事です。

 

・救急措置

それでも作業員が熱中症で倒れてしまった場合の対策もきちんと行いましょう。熱中症は最悪命を落とすこともある症状です。関係者間で、緊急時のマニュアルや、最寄りの病院などの連絡先や住所を確認、把握し周知しておきましょう。

また熱中症の症状が出た者への応急処置も大事となります。涼しい場所に移動させ身体を冷やし、水分をとらせ、医療機関に連絡をとりましょう。

 

 

熱中症になる前に! 安全衛生教育の実施を

熱中症は誰もが発症する可能性があるのと同時に、正しい知識があれば防ぐことが可能な症状です。予防するためには管理者をはじめ作業員も、正しい知識を身に付けることが不可欠です。しかしなかなか自分だけでは正しい知識や応急処置の方法を身に付けることは難しいでしょう。それを従業員に教えるのが「安全衛生教育」です。

 

事業者は、労働者(常時、臨時、日雇等雇用形態を問いません))を雇い入れたとき、又は労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対し、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行う必要があります。(労働安全衛生法第59条1項、2項)。

 

(1)機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること。

(2)安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること。

(3)作業手順に関すること。

(4)作業開始時の点検に関すること。

(5)当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること。

(6)整理、整頓及び清潔の保持に関すること。

(7)事故時等における応急措置及び退避に関すること。

(8)前各号に掲げるものの他、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項。

 

教育の具体的な内容は以上の通りで、熱中症対策はこの(5)にあたります。熱中症は高温多湿の場所で作業する労働者にとっては大きな問題で、予防のためには労働災害としての「熱中症」をおこさないための教育が必要です。

 

  1. 熱中症の症状
  2. 熱中症の予防方法
  3. 緊急時の救急処置
  4. 熱中症の事例

 

上記について具体的な事例やデータをふまえ、熱中症について周知することが大切です。

この講習を受講しないと作業できないなどの法的規制はありませんが、先にお伝えした通り熱中症は適切な処置を怠ると手遅れになる場合のある症状です。正しい知識と対策により予防することが重要だと言えるでしょう。さらに熱中症についての知識は応用が聞くため、職場だけでなく家族やプライベートな場でも大切な人の身を守ることができます。

 

まとめ

熱中症の怖さや予防の大切さは日頃からニュースなどでも聞くようになった昨今、個人のできる範囲では熱中症予防の意識は高まっています。しかし職場や管理する側では万一のことを考えて対策をしなくてはなりません。しっかりと正しい知識を身に付け、熱中症をおこさない職場環境を整えましょう。

 

 

<参考>

厚生労働省『平成30年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)』

大塚製薬『職場で起こる熱中症 対策と対処法』

厚生労働省『職場のあんぜんサイト:安全衛生教育』