生産性をあげることはいまや企業経営の要といえます。様々な無駄を省く努力が行われていますが、コミュニケーションにも「無駄」があることをご存じですか。日本マイクロソフトは2019年8月に1ヶ月限定で週休3日制などの働き方改革を実施し、その結果会議の効率化に大きな成果を得ました。コミュニケーションをとることは大事ですがやり方が悪ければむしろ無駄に時間を浪費しているだけかもしれません。改めてコミュニケーションに対する「コスト」を考え直していきましょう。

 

よくいわれる「無駄なコミュニケーション」とは?

・コミュニケーションの重要性

「仕事は人間関係」とは使い古されたフレーズかもしれませんが真理でしょう。それは客商売だけではなく、どんな仕事にもいえることです。どれだけ優秀なひとであってもひとりですべてできる仕事には限度があり、規模が大きくなればなるほどチームや会社そのものの人数も増えていきます。複数の人間がひとつの目標(会社の利益向上であったり、プロジェクトの達成であったり)に向かっていくには、全員の意識を統一しなくてはいけません。それにはコミュニケーションを円滑に進めることが重要となります。社内でコミュニケーションがうまくとれていないと目的や目標にずれが生じ、一体感が失われてしまいます。また、誰がなにをしているのかなどの情報共有ができていない場合、小さな見落としがいつのまにか大きな問題になりかねません。特に、仕事には上司や部下、先輩後輩といった上下関係が存在します。タテのコミュニケーションが円滑にいかないと、生産性の低下や離職につながることも少なくないのです。

 

・コミュニケーションの目的

ビジネスにおいてコミュニケーションをとることが重要なのは、相手の考えと自分の考えを擦り合わせ、同じ目的に向かっていくために信頼関係を築くことができるからです。仕事をひとりで完結することはできません。しかし人間には様々なタイプがおり、同じ仕事をしているからといって同じ考えを持っているとは限りません。コミュニケーションをとることで齟齬をなくし、仕事を円滑に進めることができます。また活発にコミュニケーションを取れれば職場の雰囲気もよくなり、助け合いながら仕事をすることができるようになります。それにより生産性の向上にも繋がります。

 

・だからこそ生まれる過剰なコミュニケーション

では、コミュニケーションをとるためになにをすればいいか。最初はもちろん対話からです。相手の考えを理解し自分の考えも伝えるにはしっかりと会話することが重要です。

しかし、単純に話す機会を増やすことがよいとは限りません。コミュニケーションとは「人間が互いに意思・感情・思考を伝達し合うこと」です。この「互いに」ということが重要で、つまり「相手を理解すること」と「相手に自分を理解してもらうこと」の二つが行われてはじめてコミュニケーションが成り立つのです。どちらか一方だけではコミュニケーションがとれているとはいえません。このことを理解せずにただ会話を増やそうとしても、コミュニケーションは成立しないのです。相手からは自分の考えを一方的に押しつけているように思われてしまうこともあります。

 

【無駄なコミュニケーションの例】

・会議が長い

プロジェクトをうまく行うとして何度も何度も細かいことまで会議で決定することがあります。もちろん小さなことまで議論するのは大切ですが、そんな会議が何度も続けばそれだけ参加者の時間を奪っていることにもなってしまいます。

 

・飲み会や食事会が多い

チームのコミュニケーションをとるのに、飲み会を利用するのはよい方法のひとつです。普段は話さない上司や先輩でも仕事を離れて話すことで急速に仲良くなることもあります。しかしこれも毎回行っていては、会社や上司からの押しつけのように感じられてしまうことがあります。断れず、つき合わされる部下の立場では逆効果です。

 

・資料が増える

プロジェクトや引き継ぎの資料など、職場では資料がつきものです。大量に渡される中でどれが本当に重要かわかりにくくなり最も重要なものを見落としてしまうことがあります。多すぎる資料は考えものです。

 

・書類やメールの作成が多い

仕事において「報告・連絡・相談」は重要です。自分がいまどんな仕事をしているか知らせる情報共有のために、メールを送ることがあります。しかしその報告のために毎回メールを作成するのも、手間になることがあります。報告書類を多く提出する必要があるときは、それだけ時間もかかります。

 

コミュニケーションコストを考える

先の日本マイクロソフトの例では、試験期間の1ヶ月で労働生産性が向上し、会議の時間が大幅に削減されました。具体的には、“30分以内で終わる会議”が、去年の同じ時期に比べて46%増え、遠隔で会議をする割合も21%増加しました。さらに印刷枚数は58.7%減り、電力消費量も23.1%削減したとしています。コミュニケーションをうまくとることは、時間の節約だけでなく資源や具体的なコスト削減に繋がるのです。

 

・コミュニケーションコストとは

コミュニケーションコストをひとことでいえば「意思疏通にかかる時間」のことです。

職場内において、コミュニケーションをとることの重要さはみてきた通りです。何がゴールでどういった手段を使ってどれだけの成果をあげるためになにをすべきか、全員が同じ認識でいられるようにするためにしっかりとコミュニケーションをとる必要があります。しかし、それらのコミュニケーションをとることもすべて職場にいる間に行われます。その間できる業務はいったん止まってしまうわけですから、時間はできるだけ節約したいものなのです。

けれどもコミュニケーションとは曖昧な部分も多く、それにかかるコストというのもなかなかコントロールが難しいのです。効率よくしようとただルールを作っても、うまく機能するほど人間同士のやりとりは単純ではありません。またコミュニケーションには相互理解が必要ですが、「すぐに理解できた」から「なかなか理解できなかった」までグラデーションがあり、この高低さがコミュニケーションコストの高低になります。説明に必要な資料を作ったり会議の時間も増えたり、と実際のお金もどんどんかかっていってしまうのです。

 

・コミュニケーションコストを下げるためのポイント3つ

1、基準の向上

まずは相手の話をきちんと聞くことが第一条件です。その際に押さえておきたい基準を明確化し全員で共有します。これから話す目的、内容、それはなぜか、これからどうなるのかの結果、どうすればいいかの対策。伝えるべきポイントを明確にし、聞いている方がわかりやすくすることがコミュニケーションコストを押さえます。

 

2、質の向上

同じ情報を見せられて、すぐに理解ができるひととできないひとはいます。これは解釈力の差です。この情報が自分たち組織にとって有益か、もしくはまずい情報なのか、その解釈力をそろえることが大事になってきます。

 

3、量の向上

情報量はトップと末端では格差があります。これは組織においてある意味当然の仕組みですが、この情報量に差がありすぎるとコミュニケーションコストを増やすことに繋がることがあります。経営者と現場で働く作業員では仕事の内容も全く異なりますから、経営方針に転換があったときも経営者側では当然のことでも作業員にとっては寝耳に水、ということが起こります。

 

コミュニケーションコストを下げるためにできる3つのこと

・社内報やチャットグループを活用する

解釈力の足並みを揃えるには全員が同様の基礎知識がある必要があります。そのために情報の偏りをなくし、すぐに確認できる状況をつくることが大事です。社内報などで、経営者も含めどの部署がどういった仕事をしてどういった役割があるのかを知らせたり、チャットグループなどでそれぞれがどこまで作業が進んでいるかを確認できたりするようにしておくことは有用です。

 

・3What、4W、1Hを意識する

3Whatは定義(どういう意味か)、現象(なにが起きているのか)、結果(どうなるのか)。4WはWhy(なぜ)、When(いつ)、Who(誰が)、Where(どこで)、そして1HはHow(どうすればいいか)。なにかを説明し、理解を得たいときはこれらに気をつけて話すことで格段に相手にわかりやすくなります。また会話だけでなく、メールなどの文章上でもとても有効でわかりやすく相手に伝えることができます。

 

・気分で言動を変えず話しかけやすい雰囲気をつくる

仕事とはチームプレーです。協調性が求められるので、気分屋のひとは相談されなくなり頼られることも少なくなります。もちろん人間いつも機嫌がいいとは限りませんが、それでも感情を表に出しすぎることは相手に気を使わせ、結果的にコミュニケーションコストがかかってしまいます。感情に振り回されずに、気軽に話しかけやすい雰囲気づくりをすることでコミュニケーションがとりやすくなるのです。

 

まとめ

コミュニケーションはタダと思っているひとは、時間というコストがかかっているということを再度考え直してみましょう。コミュニケーションとは相手がいないと成立しません。相手がわかりやすいように動いたり、話し方を工夫したりすることがコミュニケーションコストを下げることにつながります。

コミュニケーションはなにより相手を思いやる気持ちが大事です。コミュニケーションはあくまで人間同士のやりとりですから、お互いが気持ちよくスムーズに仕事ができることが第一で、それがコストを下げることに繋がると考えて行動してみましょう。

 

<参考>

日本経済新聞「日本マイクロソフト、週休3日制で会議時間が大幅減」

GLOBIS知見録「コミュニケーション・コストを生み出す3つの格差」

マイベストプロ「あなたはコミュニケーションコストの高い人間になっていませんか?」