危険が伴う現場仕事。自分を危険から守るのはもちろんですが、他人を事故に巻き込んでしまう可能性もあります。万一、他人を怪我させたり、物を壊してしまったりすれば取り返しがつきません。そんな事態に備える保険が請負業者賠償責任保険です。今回はその内容を詳しくみていきます。
請負業者賠償責任保険ってなに?
工事や作業を行う上で起因する対人、または対物事故による賠償責任を補償してくれる保険のことを請負業者賠償責任保険といいます。
業者は依頼を受けて現場で仕事しています。その請け負った仕事を遂行するために「所有」や「使用」、「管理」している施設が原因となって、偶然の事故により他人が死傷したり他人の物に損害を与えてしまったりすることがあります。その場合、その損害賠償責任は業者側が負うことになります。
たとえば、内装工事を請け負ってフローリングの張り替えを行っていたところ、誤って床の配管に穴を開けてしまい水が漏れて階下の部屋を水浸しにしてしまった場合。下の部屋の壁紙の張り替えや、天井の張り替え、絨毯のクリーニング、漏水によって電気製品が壊れていればその修理代などがかかります。
またビル外壁工事中に高所から鉄パイプが落下し、通行人が死傷した場合。これは大変な事故です。怪我だけであればまだしも命を奪ってしまうことがあれば、遺族への慰謝料の支払いなどのケアもしなければなりません。
事故は作業時間ばかりに起こるとも限りません。たとえば夜間、誰もいない建築現場付近の資材置き場に立て掛けてあった材木が崩れ、駐車中の自動車のガラスを割ってしまう、などということもあります。
作業が休みの日に現場に子供が入り込み、遊んでいる最中に怪我をする可能性もあります。これは工事現場の管理不備に当たります。
このように、工事中いくら慎重に作業を完璧にこなしたとしても、不確定要素により事故は発生する可能性があります。こういった偶発的な事故による損害も業者に責任が負わされます。また損害の金額も大きくなる傾向にあります。
「事故は起こさないから保険に入らなくても大丈夫」というのではリスク管理が充分とはいえません。予期せぬ事故に対する備えとして、しっかりと加入を検討する必要があります。請負業者賠償責任保険に加入していないと、問題発生時に安全管理体制や補償のなってない企業であると世間から悪い評判を受ける恐れもあります。不測の事態にも対処できるよう、加入するべき保険といえます。
対象になる工事とならない工事がある?
請負業者賠償責任保険はすべての工事が補償されるわけではありません。作業対象物以外の財物に関しては、物保険のリスクに近くその管理実態や業務内容によりリスクが大きく異なるため補償の対象外になります。またその他にも天災が原因の被害など、請負業者賠償責任保険の補償対象にならない工事があります。
ここでは、一般的に対象となるもの、対象外となるものを見ていきましょう。
【補償対象の工事・損害】
- 各種地下工事
- 道路建設工事
- 道路等の舗装工事
- 軌道建設工事
- ビル建設工事
- 橋りょう建設工事
- 各種建築物工事
- 設備工事
- 移動・解体・取り壊し工事
- プラント・機械装置の組み立て・据付工事
- 高層建築物(鉄塔等)建設工事
- 土地造成工事
- 建築物設備・機械装置等の改修または維持工事
- 荷役、清掃、造園、芝刈作業、除草作業、殺虫作業(害虫など駆除)
- 除雪、引越、運送、撮影、取材、調査、測量、放置車両確認業務、ビルメンテナンス業務など
【対象とならない工事・損害】
- 土地の掘削、地下や基礎に関する工事にともなう土地の振動、隆起、軟弱化、沈下等による土地や建物に対する損害
- 建物外部から内部への雨雪などの侵入、または吹き込みによる損害
- 自動車、原動機付自転車または航空機の所有、使用または管理に関する事故
- 販売した商品、飲食物を原因とする食中毒その他の事故
- 仕事の終了または引き渡し後、その仕事に欠陥があったために生じた事故
- チリまたはホコリ騒音による被害
- 飛散防止対策などの損害発生の予防に必要な措置を足らずに行われた作業による、塗料その他の塗料用材料、鉄粉、鉄さびまたは火の粉の飛散、拡散
【補償対象外の財物の損害】
- 被保険者が所有する財物
- 被保険者が占有、使用している財物
- 被保険者が直接作業を加えている財物
- 他人から借りている財物
- 保管するために預かっている財物
- 発注者などから支給された工事用資材や設置工事の目的物
- アスベスト、石綿の代替物質の発がん性その他の有害な特性
- 汚染物質の排出、支出、漏出
- 契約者、被保険者の故意
- 医療行為等法令により特定の有資格者以外行うことが禁じられている行為
- 戦争、変乱、暴動、騒擾、労働争議および地震、噴火、洪水、津波または高潮
- 他人との特別の約定によって加重された賠償責任
- 被保険者の同居の親族にたいする賠償責任
- 被保険者の使用人が被保険者の業務に従事中に被った身体障害
- 排水、排気
上記はあくまでも一般的な請負業者賠償責任保険の例です。保険サービスが多様化している現在では、特約や保険商品によっては上記で対象外としたような事故損害を補填できることもあります。
契約方式と主な特約について
請負業者賠償責任保険は、法律上の賠償責任による損害賠償金を保険金として支払われます。 また損害賠償金の他に解決のために必要な弁護士などの費用についても補償されます。
- 損害賠償金
- 緊急措置費用(応急手当・護送など)
- 損害防止・軽減費用
- 求償権保全・行使費用
- 協力費用
- 争訟費用(弁護士報酬など)
請負業者賠償責任保険の契約方式は、「個別スポット契約」と「年間包括契約」の2つの方式があります。
・個別スポット契約
個々の工事ごとに保険を契約する方法です。
工事期間に合わせて保険期間を設定しますが、工事の遅延などに備えて長期に設定することも可能です。
・年間包括契約
基本は1年間の間で、企業が行うすべての工事について一括で保険に加入することができます。その中で、例えば「被保険者の施工するビル建設工事」といったように保険の対象工事を限定することができます。
広く活用されているのは「年間包括契約」です。工事の都度の手間がかからず保険を付け忘れる心配も少ないため安心であり、年間の経費予算に組み込めるメリットもあるためです。「個別スポット契約」のメリットは個々の工事に保険をかけることができるので、期間に合わせて保険を活用することができ、請負計画を柔軟に決定することができます。それにより保険料の節約につながることもあります。
また、請負業者賠償責任保険には特約をつけて補償対象を手厚くすることが可能です。
・管理財物損壊補償特約
自社が管理している財産の損壊(破損、盗難など)によって損害が出た際に、損害賠償金などが補償されます。この特約をつけていないと、工事中に物を破損しても補償されないことがあります。
・借用財物損壊補償特約
工事の遂行のために、作業場内で他人から借りて使用する財物を破損などした場合に貸主に対して損害賠償金として保険金が支払われます。
・支給財物損壊補償特約
工事の遂行のために支給された財物を破損、汚損等した場合に財物の支給者に対して損害賠償金として保険金が支払われます。この特約は紛失、盗難による損害は補償対象外になるので注意が必要です。
・地盤崩壊危険補償特約
地下工事や基礎工事など掘削に伴う工事での損害に支払われる特約です。主なケースとしては2つあります。
- 不測かつ突発的に発生した地盤沈下、隆起、振動、土砂崩れや土砂の流入出などによって財物が損壊したことによる損害。
- 地下水の増減による地盤の崩壊により発生した財物の損壊したことによる損害。
まとめ
請負業者賠償責任保険に加入しておくことは事故や損害の大きさに比例して大きくなる賠償額に対するリスクヘッジになります。安定した経営を行うためにも必須の保険といえるでしょう。事故は起きないことがもちろん一番よいですが、想定外の事態が起こることもあるのです。特約や別の保険などの加入も合わせて検討し、万が一のときのために備えましょう。
<参考>
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