現場仕事にとって工期の遅れというのは、できるだけ避けたい事態です。しかし、どうしても遅れてしまうことはあるでしょう。ただ、その理由には避けられない不測の事態だったケース、そして準備次第で避けられた事態だったケースがあります。どんな理由があって工期が遅れてしまうのか、それは防げたのか。また工期が遅れるとどんなリスクや皺寄せがあるのか、詳しくみていきます。

 

工期遅れで発生する負担とリスクとは

工期の遅れは、いうまでもなく現場に様々な悪い影響をもたらします。まずは、どのような悪い影響があって、その影響がどのような事態を引き起こすことになるのかを整理、確認していきます。

 

・従業員の負担

工期が遅れてしまうと、その後を工期通りに納めるために、遅れを取り戻そうとスケジュールに余裕がなくなります。当然、従業員は時間に追われ、ひとつひとつの作業を丁寧に行う余裕がなくなります。残業や休日出勤が増え、ストレスや疲労も蓄積されてしまいます。

また複数の工程を同時進行して職人が同時に現場に入り、現場が煩雑になります。様々な工事の資材が大量に入ったり、職人が入り乱れてスペースがせまくなったり移動に時間がかかったりと環境が悪化してしまうこともあるでしょう。現場環境が悪くなることで、作業も雑になったり、工事時間が長くなってしまうという悪循環も起こります。さらに焦って作業することで、怪我や事故が起きる可能性も高くなってしまいます。

 

・管理者の負担

工期が遅れることで一番大変なのは現場監督などの管理者かもしれません。その後のスケジュール調整や、増員などの手配など様々なところで皺寄せがあります。複数の作業が同時進行で行われる場合、それだけ監督するべき現場や人数も増えますから、労災などの事故が起きないよう神経質になる場面も増えます。必然的に長時間労働が増え、体力的にも精神的にもストレスが大きくなってしまいます。

 

・経営者の負担

建築、土木に関わらず現場仕事のプロとして決められた工期を守れないことはあってはなりません。施工会社にはペナルティが課せられ、信用も下がってしまいます。工事の完成が遅れると、それだけその建物や施設の利用開始が遅れ、依頼主である顧客にも影響が出てしまうからです。工事完成日が契約書の日付より遅れてしまった場合、違約金を払わなければならないケースもあります。また工期が延びることで職人を増員したり、作業時間や残業が増えたりと人件費がかかってしまいます。工期の遅れを取り戻すために費用が予算より大幅にかさんでしまうのです。

 

・最悪な事態になる可能性も

大幅な工期遅れが発生し、遅れをどうしても取り戻せない場合、未着工部分があるまま工事が終了してしまう可能性もあります。もちろんそれは契約違反ですし、安全上にも問題があり絶対に起こってはいけないことです。しかしデータや書類を改ざんし工期内に終わらせたように見せかけてしまう、いわゆる手抜き工事が発生してしまう可能性があります。

 

どうして工期が遅れてしまうのか

工期が遅れてしまうということには必ず原因があります。ここからは、その原因、理由を確認していきます。

 

・着工が遅れる

予定していた開始日に着工できないことがあります。スタートが遅れればもちろんそれだけ完成も遅れてしまいます。着工が遅れる理由として多いのは、設計内容が決まらないといった施主と業者で意見がまとまらないことです。方針が違ったりで施工図が着工日までに完成せず、その結果、着工が遅れてしまうのです。

 

・人員不足、資材不足

現在は建築バブルと言われ、建築ラッシュです。そのため職人は常に次の予定が決まっており、なかなか確保が難しい状況です。さらに昨今の潜在的な人手不足もあり、必要な人数を集めるのもなかなか難しいため大規模工事などがうまく進められないこともあります。資材不足も深刻な問題です。天災や建築ラッシュ時は特に起こりやすく、この問題は簡単には解消されないので注意が必要です。

 

・もともと無理な工期

もともと組まれた工期が余裕のない、無茶な工期が設定されていることもまれにあります。これは業者側でより多くの依頼を受けたいためにひとつひとつの工期を最低限の日程しか取っていないことが原因です。社内でそのような状況が常態化していては、せっかくたくさん受注してもどの工事も適切に行われません。

 

・作業員の質

なんとか人数を集めたとしても、経験の少ない作業員ばかりになってしまうと作業の手際が悪かったり、指示を受けないと動けなかったりと作業もうまく進みません。また不安全行動を役所から指摘されるとペナルティで業務停止の可能性もあります。

 

・急な計画変更

ようやく工事を着工しても、施主が「予定が違う」など意見を出し作業が中断してしまうことも意外とあることです。特に建築の内装工事中に、壁紙の色や設備の品質など、イメージしていたものと異なるといった意見が出やすいです。材料や設備を発注し直しになってしまうと、届くまで作業は中断、やり直しとなってしまいます。

 

・設計ミス

ないことが一番ですが、設計時のミスが作業してはじめてわかることあります。多いのが設計通りに建造物を設置したら境界からはみだしてしまうパターン。早めに気づけばすぐに修正できますが、工事がほとんど進んでしまった状態で発覚した場合はやり直さねばならないこともあります。設計時からミスのないよう、何度も確認してから着工しましょう。

 

・近隣トラブル

工事の騒音や振動による苦情や、現場周辺の破損トラブルなど場所により様々なトラブルが発生することがあります。作業中に注意することで改善されることであればいいですが、やむを得ず作業をストップさせられてしまうこともあります。大きな工事前には近隣住民には説明会を開くなど、理解を得られるように努力しましょう。

 

・悪天候

悪天候による作業中止はよくある事例です。台風や大雪など、作業に危険がともなう視界不良などで作業中止になってしまうことがあります。天気を操ることはできませんので、こればかりは諦めるしかありませんが、こういった事態に備え、工期には余裕を持たせて進めるようにするのがよいでしょう。

 

・事故

現場での事故は最も避けたいことですが、発生してしまうことはあります。作業中の怪我、機械の誤作動や破損なども事故に含まれます。現場の安全が確認できるまでは作業は中断しますし、機械が壊れてしまえば新しいものが届くまでも作業は行えません。火災や資材の落下といった大きな事故は、警察などの現場検証があったりとさらに日数がかかってしまうこともあります。

 

工期遅れに対処するために事前に確認すべき4つのポイント

工期が遅れてしまうのにはこのように理由があります。工期が遅れてしまったらその原因はなんだったのか確認しましょう。原因によってはその後の対応方法が変わることがあります。

たとえば天候が原因であれば、今後の工程に天候の影響が考慮されているか再度確認が必要です。また風などにより現在までの工事状況が破損していないかも確認しなければなりません。

資材製造の遅れや発注ミスなどの場合は、次に資材がいつ届くかを確認し、それまでに他の作業を先に進めることができないかも考慮してみましょう。さらに今後の資材が正しく発注されているか、納期に問題ないかも確認しましょう。

作業自体に遅れが出ている場合は、作業員の人数が足りているか、作業が効率よく進んでいるか、間違った作業をしていないかなどの確認が必要です。

事故が原因であれば、危険箇所の洗いだしを行い、安全対策をとった上で朝礼や文書で現場作業員たちに周知徹底しましょう。

どうしても引き渡し期限内に工事が完成しないことがわかった場合は、施主に対しての配慮も必要になります。報告は早めに、適切な時期までには行いましょう。契約による違約金が発生することもありますし、新居などの場合には、引っ越しや仮住まいなど追加で費用がかかる可能性もあります。施主の都合を踏まえ、しっかりとコミュニケーションをとっていくことが大切です。また工期が延びる場合は工事保険の期間延長も忘れずに行いましょう。

 

では、工期を遅らせないために事前にどのような準備を行っていけばいいのでしょうか。まずは、事前に工程管理をきちんと組み、工程表を作成することが第一段階。その工程の中で、工期が遅れる要素がないか注意していくのが基本です。ここでは、確認すべきポイントを大まかに4つに整理しましたのでみていきましょう。

 

1. 時期、天候の確認

梅雨や台風シーズンの屋外作業や、冬の北国など大雪が降りやすい時期の作業日程を確認しましょう。天候により工事が中断することがあるので、日数に余裕を持たせたり工程をずらしたり対策を考えましょう。

 

2. 大型連休を挟む場合の日程調整

年末年始やGW、お盆の時期などは一斉に休みになります。そのためそれだけ工事日数も少なくなりますし資材などもすぐには届かなくなります。予定通りに資材搬入できるように時期を確認しましょう。

 

3. 予備日の確認

工事では地盤の強度により、使用できる重機が変わることがあります。鉄板を敷くだけでは地盤沈下の恐れがある場合には、事前に地盤改良なども行う必要があります。本格的な着工の前に予備工事が必要と認められる場合に備えたスケジューリングが重要になります。

 

4. 工程に余裕を確認

台風などでやむを得ず作業が中断してしまった場合、キツキツな工程組みでは工期は遅れていく一方です。不測の事態を想定し、余裕をもった日程を組んだり、急な作業中止に対応した工事予備日を設定するなどしておきましょう。

 

まとめ

工期が遅れることはできる限り避けなければいけません。しかし不可抗力のものや想定外の事態によりどうしても遅れてしまうことがあります。その際に慌てず、工程管理を見直して対処しましょう。工期が遅れてしまう原因を前もって想定し取り除くことで、工期が遅れることのない現場を目指すことができます。

 

 

<参考>

マネー研究所『注文住宅で工事の遅れ 業者の変更や賠償請求は可能?』

日経TECH『東亜問題、現場は嘘をつくしかなかったのか?』

鉄骨建設ナビ『工期が遅れる7つの理由を考える』

俺の夢forMAGAZINE『工期が遅れてしまった。よくある原因と対処方法』