「ひとりKY活動」という言葉を聞いたことがありますか。危険予知のためのKY活動、だけであれば建設の現場でよく使われる言葉かもしれません。それをひとりで行うとはどういうことでしょうか。ひとりKY行動を作業員一人ひとりが行うことで安全性はぐっと上がります。今回はその方法を具体的にみていきたいと思います。

 

KY(危険予知)活動とその効果

KY活動とは、危険予知(KikenYochi)の頭文字を取ったもののことで、現場の危険を察知して労働災害を未然に防ぐ活動のことをいいます。KY活動の目的は、現場で起こりうる災害を未然に防ぐこと。現場の作業方法や機械などの設備、環境をみながら作業の中に潜む危険を見つけ、その対策について話し合い、全員で共有することで安全意識を高めます。

 

・KY活動の方法

KY活動のやり方は様々ありますが、代表的なものに「4ラウンド法」があります。

 

1ラウンド:現状把握…どんな危険が潜んでいるか

作業現場にどんな危険が潜んでいるか、従業員で話し合い、共有します。全員が意見を出すことで危険をより意識するようにします。

 

2ラウンド:本質追求…危険のポイントを探す

1ラウンドのときに出てきた危険の要因から重要だと思われるものを選び、原因について話し合います。このとき、紙やボードなどに書き出しながら行うと共有しやすくなります。

 

3ラウンド:対策樹立…あなたならどうする

危険なポイントについて対策を全員で考えます。

 

4ラウンド:目標設定…わたしならどうする

3ラウンドで出た解決案の中で、実現可能なものを具体的な目標に落とし込み、現場で実際に行う安全ルールに組み込みます。目標を達成できるよう毎日全員で復唱し、安全への意識を高めましょう。

 

・KY活動の効果

KY活動を継続的に実施することには様々な安全への効果があります。

 

① 危険への感受性が鋭くなる

毎日、危険な場所で復唱などを繰り返し行うことにより、なにが危険かを理解し「危ない」と感じる感覚が鋭くなります。

 

② 安全への集中力を高める

危険が潜む場所で指差確認を毎回行うことで、集中力を高め安全を意識した行動をとるようになります。

 

③ 作業者自身の安全意識が高まる

どんな危険が潜んでいるか、作業員自身が直接意見を出し合って考えるため、危険を察知し安全への問題解決能力、実践への意欲が高まります。

 

ひとりKY活動の進め方

KY活動は作業員全員で確認しあいながら進めるだけの活動ではありません。ひとりで行う方法もあります。それが「ひとりKY活動」です。作業員一人ひとりがそれぞれの作業内容の中で、個人で行う危険予知行動です。ここからはその方法をみていきます。

 

・ひとりKY活動のやり方

  • 作業の前にこれから自分が行おうとする作業内の危険を考える

始業前に点検したり、作業に入る前に持ち場の設備や現場の状況を観察、確認します。

 

  • 危険と考えられるところをピックアップ

特に危険、注意が必要だと思われるところを絞ります。

 

  • 危険回避の目標を決めて指差し呼称をする

「通路確保ヨシ!」「安全帯ヨシ!」など、声に出しながら危険が潜んでいる可能性のあるところを指差し確認します。きちんと声に出し、指指し確認することが重要です。声を出すことにより危険のポイントを自分で再確認することができます。また実際に体を動かして指を差して確認することで意識が集中し、うっかりやぼんやりミスを防げます。注意していれば大丈夫、と思われるかもしれませんが、うっかり足元をみていないこともあるのです。

 

ひとりKY活動が定着しない理由とその改善方法

このようなKY活動を積極的に推奨している現場も少なくないと思います。その一方で、「少しでも早く仕事を終わらせたい」とか「誰もいないから今日はいいか」、「前の現場ではやってなかったし、やらなくても平気だろ」、「うっかり忘れていた」など、行われないことも多いようです。これはひとりKY活動がまだまだ、当たり前の習慣として根づいていないことを意味しています。

では、なぜ根づいていないのか。その要因をチェックしながら、どうすれば習慣づけできるのか考えていきたいと思います。

 

【問】なぜ定着しない?

ひとりKY活動は誰でもいつでもどこでもすぐにできる活動です。これが各現場で行われるようになれば、不安全行動の防止効果も高くなります。しかしKY活動自体は認知されていても、ひとりKY活動が浸透していないのはなぜでしょう。理由を探っていきましょう。

 

・恥ずかしい、照れくさい

みんなやっていないから、自分だけがやるのは恥ずかしく抵抗があるという意見。

・いつ、どのようにやればいいのかわからない

どういった場面でやればいいのか、タイミングが難しいという意見。

・面倒くさい、時間がもったいない

誰も見ていないのに行う意味があるのか。そんなことをしている暇があれば作業を進めたいという意見。

・事故事例がわからないので、KY活動の意義が理解できない

作業する現場で危険を感じたことがなかったり、どういった事故が起きるのか想像がつかないという意見。

 

【答】スタンダードになっていないから

指差し呼称することで安全効果が高い反面、気恥ずかしさや面倒臭さからなかなか毎回行わなくなります。そのために毎回やらなくてもいい、スタンダードではなくできたらやるもの、といった認識になってしまっているのです。現場で作業員全員が毎回行うことがスタンダードになれば、その各現場に広がり定着していくでしょう。

 

・スタンダードにしていくための具体的方法

1 理解の拡大

上でも示した通り、KY活動は不安全行動防止に大変高い効果があります。頭の中ではわかっている危険も、実際の作業ではどうしてもおろそかになりがちだからです。そして、実際に労働災害が起きた際に事故に巻き込まれたり怪我をするのはその作業員自身です。作業員一人ひとりが自分の問題として考え、危険を自覚していくことが大切です。

 

2 ムード作り

実際にどういった事故が起きているかのデータや資料を見せ、作業員に周知し、教育を行いましょう。そして実際の作業現場で似たような危険がないか考える機会を与えるとよいでしょう。また現場全体でも、指差呼称は大切なことという認識を広め、それを行うことは当たり前というムードを作りましょう。リーフレットやひとりKY活動の際に利用できる自問自答カードなどを作成するのもよいでしょう。

 

3 やってみせる、訓練する(OJT)

回りの作業員に定着するまではリーダーが率先して指差し呼称などひとりKY活動を行うようにしましょう。また一緒に声を出して行ったり、ひとりKY活動を見かけたら褒めたりしましょう。さらに形式的にならないように気をつけることが大切です。マンネリ化して省略してしまったり、形だけ指差し呼称するだけでは本末転倒です。目的は大きな声を出すことではなく、危険を考え予知することです。言われてやるのではなく実際に作業員が考えて行うようになるまでは、注意して指導しましょう。

 

4 指導者に育て、次世代に引き継いでいく

ひとりKY活動はひとつの現場が終わったらそれで終わりではありません。次の現場、次の世代にきちんと伝えていける活動にしていくことが大切です。「焦らず、一息置いて」とか「少しゆとりを持って」「ひとつひとつ切り替えて」などキーワードを教え、リーダーを育成しましょう。作業開始前、変更時や年度始めや安全週間など、折に触れ伝えていきましょう。

まとめ

目指すのは労働災害ゼロです。現場で働く全員が安全への意識を高めることが大事になります。そのためにも、一人ひとりが現場に危険が潜んでいることを自分の問題として考え「自分は怪我をしない」「仲間から怪我人を出さない」という意識を持つことが大切です。そのためには繰り返し根気よく指導、教育をしてひとりKY活動を定着させましょう。

 

<参考>

(財)中小建設業特別教育協会『6-5 危険予知活動(現地KY)』

(財)中小建設業特別教育協会『1人KY』

レベック労働安全コンサルタント事務所『「1人KY」の実施について』