建築業界で深刻な問題のひとつに人手不足があります。労働力を確保することが難しいなか、昨今は働き方改革も推し進められ、残業削減も企業には重要な課題です。しかしそれにあわせて仕事量は減るわけではありません。時間も労働力も少ないなかで成果を出すには生産性向上がより求められていきます。生産性向上するためにはどうしたらいいか、方法を再確認していきましょう。

 

労働生産性とは?

まず生産性とはなにか、改めて確認していきましょう。生産性とは労働や設備、材料などの投入量とそれによって作り出される生産物の算出量の比率を数値で表したものです。建築業でいえば労働力による生産が主ですからその比率を労働生産性と呼びます。

そして労働生産性とは、労働者ひとりあたりが成果を生み出す上での効率を数値化したもののことをいいます。労働者ひとりまたは1時間で生み出す成果が、労働量や投資額にどれだけ見合っているかを数値化するものです。これをひとつの判断基準として用いることで、生産性が高いかどうかを確認することができます。この値が大きければ大きいほど生産性は高いことを示しますが、実際の労働力を数値化するため労働者のスキル、業務効率などにより変化します。

 

労働生産性の計算方法

では、生産性はどうやって求めるのでしょうか。

 

・生産性=成果/労働量(労働者数、労働者数×労働時間)

 

以上は基本の式ですが、労働生産性は「成果」を何とするかにより、二種類に分けられます。

「生産量」を成果の基準としたものは「物的労働生産性」、売上高から材料費や運送費など元値を引き、自社の加工や工夫によって「付け加えられた金額」を基準としたものを「付加価値労働生産性」といいます。付加価値とは企業独自の新しい価値、という考えです。

その成果基準により労働生産性を求める式は異なります。

物的労働生産性で算出する成果は「生産量」です。

 

・物的労働生産性=生産量/労働量

 

たとえば、5人の従業員が3ヶ月で一戸建てを建築した場合、ひとりあたりの労働生産性は1/5件、1ヶ月あたりの労働生産性は1/15件と言えます。ひとりずつの生産個数が異なっていても、ひとりあたりが生産する平均値という考えです。

付加価値労働生産性では「付加価値額」を成果とします。こちらの計算式は次のようになります。

 

・付加価値労働生産性=付加価値額(売上-諸経費[燃料費、材料費、運送費など])/労働量

 

2人の従業員が2ヶ月で200万円の売上をあげたとします。労働者ひとりあたりの付加価値労働生産性は100万円、1ヶ月あたりの労働生産性は50万円となります。

ただし、付加価値額には原材料費や運搬費などの諸経費は含まれません。この売上を得るために80万円かかっていた場合、付加価値額は120万円となり、ひとりあたりの労働生産性は40万円になります。1ヶ月あたりでみると20万円となります。

また、働き方改革のなかで「生産性向上」と同じようによく言われる言葉に「業務効率化」があります。どちらもなんとなく理解していても違いをきちんと説明するのは難しい言葉です。このふたつの言葉は現象としては似た事柄を指していますが、意味合いは異なります。

 

・業務効率化

手段・施策。コスト重視。時間短縮が目標。

 

・生産性向上

テコ入れをすることで更に成果を出す取り組み。より多くの成果を上げることが目標。

 

生産性とは、これまで見てきたとおり成果を労働力で割ったものです。その成果をより効率的に行う取り組みを「生産性向上」といいます。「業務効率化」はその生産性向上のための「手段のひとつ」です。業務効率化を行うことに成果の有無は問いません。それが大きな違いです。業務効率化はより低コストを目指すことが特徴で、できるだけ業務を早く低コストで処理することが目的です。

しかし、いくらコストを削減することができたとしても利益上昇などの成果がともなわなければ、本来の目的である「生産性向上」にはなりません。「業務効率化」を目指すのではなく、それはあくまで手段であって、生産性向上のための業務効率化、と理解しましょう。

 

労働生産性を上げるための5つのプロセス

 1.まずは計算

上記の計算式を使って、現在の労働生産性を計算してみましょう。

製造業の場合は物的労働生産性で確認するのがわかりやすいと思います。建設業は事業量が幅広いため、何を基準とするかで変わってきます。土木作業など具体的な個数が出ないものは、付加価値労働生産性で確認してみましょう。国土交通省は完成工事総利益(粗利益)や労務費を合算した「付加価値」を労働者数(労働投入量)で割った値を付加価値労働生産性と定義しました。これにより人件費の増加もプラスの評価にすることができます。

また生産性の指標の基準値は一概には言えませんが、経済産業省中小企業庁「中小企業白書」(2018)によると2016年度の中小企業では、従業員ひとりあたりの付加価値額(労働生産性)は550万円前後が平均値となっています(大企業では1,300万円超)。これをひとつの基準として生産性が高いか確認してみましょう。

 

 2.KPIの設定

KPI(Key Performance Indicator)とは重要経営評価指標、などと訳される、目標を達成するための評価の指標です。目標を達成するために、現在どのくらいの状態で、どういったことが足りないのかなどを数値化してみることができます。KPIを設定すると目標や日々の実績も把握しやすくなるので、作業員全員に共通の目標を伝えやすくなります。KPIは個人にも組織にも設定可能です。それぞれの部署や班ごとに目標を設定することで、モチベーションを高めるにも有効な手段のひとつです。

建築業で言えば、たとえば事故発生率、電力消費量、待機時間、納期の短縮などが挙げられます。現場作業で気を付けるべき項目の数値を決め、達成できるよう心がけるようにします。

 

  3.生産性を落としている部分の把握

作業を行う上で能力や要領が低い部分を探しましょう。特にそれによって全体の能力や速度に影響が出ている部分が重要です。全体の成果に影響が出る、つまりそこが生産性を落としている部分と言えます。この部分を見つけることは生産性向上をする上で非常に大事なことです。その部分でなぜ効率が悪くなるのか、人手が不足しているのか、設備が古いのか、作業が複雑なのか、など原因を洗い出すことで改善のポイントを見つけることができます。

 

 4.いまできることを探る、調べる

改善すべき部分がわかったところで、なにかできることがないか調べることも大事です。機械が老朽化していて作業効率が悪いことがわかった場合は買い換えを検討してしましょう。買い換えたいが資金がないなどといったときは補助金を受ける制度を調べることが重要です。たとえば省エネ設備を導入することで補助が受けられる制度があったりします。問題点を改善するために利用できる制度や、工夫できることを調べたり確認してみたりすることが大切です。

 

 5.実際の業務に落とし込む

目標や改善点がわかったらいよいよ実行です。目標は立てるだけ立てても実行しなくては意味がありません。大きな目標ではなく、具体的な達成可能な目標から設定していきましょう。最初はすぐに利益に繋がらないかもしれません。その場合は再度別の目標を立てたり、他に改善点がないか、生産性向上に繋がる箇所を探してみましょう。

 

労働生産性を上げるための具体的方法

・現状の見直し

まずは現状のシステムを再度見直し、スリム化できるところがないか確認していきましょう。外注先がいくつもないか、統一できる業者や工程はないか、作業員の配置バランスはいいかなどをひとつずつ見ていきます。似たような依頼を複数の外注先にしていた場合、一本化すれば連絡コストも時間も効率化できます。作業員のバランスは、事故やトラブルを起こさないためにも注意すべき点です。作業の難易度も考慮し、ベテランも新人もうまく合わせて配置することが大事です。また作業工数や労働時間の見直しをすることで、上記で触れた生産性の低い箇所の洗い出しにもつながります。処理能力の遅い箇所や効率の悪い部分、人数や時間のコストがかかっているところを作業工程別に確認、見直してみましょう。

 

・ICTの活用

国土交通省は建設現場の生産性向上に向けた取り組みとして「ICT技術の全面的な活用」という、建設現場のプロセス全体の最適化をめざす施策をすすめています。たとえば橋梁やダムなど公共工事の測量にドローンを投入し、施工から検査、管理に至るプロセス全体を3次元データで一元化するなどICT技術を活用した新たな建設手法の導入を検討しています。ここまで大がかりでなくとも、たとえばいままで紙を使っていたことをデータで処理することは導入できます。システムで情報共有できるようにすることは発生していた齟齬(そご)や二度手間を省いたり、誰でもわかりやすい計画をたてたり施工管理の効率化にもつながります。

 

まとめ

建設業は他の産業に比べ、労働生産性の向上が難しいと言われてきました。施工の際に複数の専門業者が関わるため一社の努力だけでは生産性を引き上げにくい事情もあります。また施主の意向や天候などに左右されることも多く、工程管理や資材確保などが計画通りにいかないことも挙げられます。しかし働き方改革や人手不足などの昨今の潮流を踏まえれば、生産性向上はより求められます。最新機器やシステムの導入、現状の見直しなどを行い、限られた人数で生産性を向上させる工夫が不可欠になっていくでしょう。

 

<参考>

経済産業省中小企業庁『中小企業白書(2018)』

innova『職種別・業態別にみる効果的なKPI設定例6選』

ボーグル『労働生産性とは?混同しがちな定義と計算式をわかりやすく解説』

俺の夢 for MAGAGINE『建設業の生産性向上に向けた取り組みや課題について』

日刊建設工業新聞