世界規模の問題として地球温暖化は大きな課題です。スウェーデンの高校生、グレタ・トゥンベリさんは地球温暖化問題が遅々として進まないことに業を煮やしてデモを行い、一躍有名になりました。彼女は問題を先送りにせず未来のためにいま立ち向かうことを訴えています。日本も国として『2050年に向けてCO2の80%削減』を掲げており、企業にとっても省エネ対策は喫緊の課題となっています。具体的に現場はどうするべきか見ていきましょう。
省エネが求められるようになった背景
日本における省エネの歴史は、1979年から始まります。1973年と1979年に起こったオイルショックがきっかけとなり、いまあるエネルギーの効率的な利用が見直されるようになりました。その教訓から「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」、いわゆる「省エネ法」が制定されました。省エネ法はその後、その時々の状況に応じ改正が重ねられ、現在に続いています。
また1998年からは新たに「地球温暖化対策の推進に関する法律」いわゆる「温対法」も制定されました。こちらは京都議定書で策定された地球温暖化対策の推進が目的です。
対象となる企業はエネルギー使用量が1500キロリットルの特定事業者です。分野は「産業(工場)」「運輸」「事業所」など分かれますが、もちろん「建築」も大きな部門のひとつです。
建築物の省エネ法は2015年に制定された「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」、建築物省エネ法があり、特に省エネを推進されている部門といえるでしょう。
省エネを実現することで、企業にも多くのメリットが得られます。
第一にコストの削減。省エネ性能に優れた最新設備を導入することでエネルギー消費量は抑えられ、ランニングコストの低下につながるのです。また、最新の設備に入れ替えることで設備の長寿命化や、より効率のよい作業が実現します。稼働時間の短縮や作業工程が楽になる、より多くの生産が可能になるなど生産性向上につながります。
また省エネを実施すれば様々な補助金や助成金を受けとることも可能です。経済産業省や地方自治体のやっているものなど、支援制度は複数あるため自分たちにあった条件の補助を受け、省エネを進めることが可能です。さらに省エネは国が奨励していることですから、積極的に参加することは企業のイメージアップにもつながります。
しかし、省エネを実現することはそう簡単なことではありません。現在、国が掲げる目標はかなり高いものです。2030年時点のエネルギー消費量を対策前と比べ5030万キロリットル削減するというもので、これを実現するにはエネルギー消費効率を35%程度改善しなければなりません。2016年度時点での削減量は876万キロリットル、進捗率は17.4%であることを考えると、実現への道はなかなか困難といわざるを得ません。
また補助金などの制度があるとはいえ、やはり省エネ設備には初期投資費用がかなりかかることがネックであり、特に日本の大半を占める中小企業が導入することは難しいのが現状です。さらに日本の企業の経営者は頻繁に役職が変わるため、ロングスパンでコストの回収などを考えることが難しい傾向にあります。
省エネについては他にも詳しい記事がありますのでこちらも参照下さい。
まずはエネルギー使用量の把握を
省エネを進めることは世界の流れにも沿っており、国内でもニーズが高まっています。しかし省エネをするには具体的にどうしたらいいのか、難しい問題です。
省エネを効率よく進めるためには、エネルギー使用量の実態を把握することが大切です。どのようなエネルギーがいつどれだけ使用されているかを知り、使いすぎている箇所など改善の余地がどこにあるかを探すことができます。つまり「エネルギーを見える化」することで省エネ対策の狙い目がどこかがわかるようになるのです。
・「見える化」の方法
電気の使用量を把握する上で必要なのはデータです。収集したデータからエネルギーの使用状態を確認し、どのエネルギーをどのような方法で抑えるか検討するのです。そのために有効な3つのグラフがあります。
- 電気使用量の月次推移グラフ
月々の電気使用量の推移を確認し、いつどれだけのエネルギーを使っているか特徴がわかります。
- 電力年負荷曲線
月毎の最大需要電力、平均需要電力を見て負荷率を表します。負荷率とは電力使用の平準化の程度を表します。季節や地域などによって変わる電力の使われ方の推移を見るのです。
- 電力日負荷曲線
これは1日の電気使用量の推移を示したグラフで、時間帯別にいつどれだけ電気を使用しているかがわかります。
また「エネルギーマップ」を作成することも大事です。エネルギーマップとは、エネルギー使用実態用の設備リストのことです。通常の設備リストとは別に、機器ごとの消費電力や平均的な負荷率、稼働時間を明らかにし、どの設備にどれだけのエネルギーを使用しているかを分かりやすくします。
これらのデータを確認することで、最適な省エネ対策を検討することが可能になります。
どう改善していけばいいのか
エネルギーを見える化しても、具体的にどう改善するべきかはなかなかに悩ましいところです。いままでの仕組みや工程を変えるのは難しく、また実際に作業している従業員全員の協力も必要です。ここでは省エネ改善でもトップランナーであるトヨタ自動車を例に挙げ、その方法を見ていきます。
トヨタではエネルギー使用量の見える化を目的に、「TEM」(トヨタ エネルギー マネジメント)を1995年から全工場に導入しました。約3万点ものデータを計測し、各工程や日々のエネルギー使用状況を見える化し、使用者誰もがアクセスできるようにしています。これによってエネルギーのムダ・ムラ・ムリを自覚し、日々の自主的な改善を推進しています。また全工場に独自のエネルギー管理システム「TTDM」(トヨタトータルデマンドマネジメント)を導入し、活用することにより、全工場の電力使用量、供給量の一元管理を行うことを可能にしました。これによりピーク時の使用量抑制や節電目標を確実に達成できるようになりました。
また省エネ対策の「6つの心得」を掲げ、生産過程における電力使用量の低減、ジャスト・イン・タイムのエネルギー供給に取り組んでいます。
- 「ヤメル」:「からくり」等を活用して動力をなるべく使わない生産設備へ転換
- 「トメル」:生産のために有効活用されていないエネルギー供給や設備を停止
- 「ナオス」:ムダなエネルギー使用の原因となる設備不具合を見つけて直ちに修繕
- 「サゲル」:供給エネルギーの質・量を工程で実際に必要とする質・量に調整
- 「ヒロウ」:「熱」を中心に従来は捨てているエネルギーを回収し効率利用
- 「カエル」:低コストでムダの少ないエネルギー源へ転換
これら6つの心得は難しいことではなく、身の回りの作業や行動でできることも含まれます。ひとりひとりが当事者として省エネ対策を考え地道な努力を求めています。この「6つの心得」は、誰でも使えるわかりやすい目安となるのではないでしょうか。
まとめ
日本では40年以上省エネへの取り組みが行われています。それでも世界基準を達成するにはまだまだ努力が必要です。企業全体としても個人の行動も、ムダなエネルギーの使い方をしていないか、いま一度考え対策をしていきましょう。
<参考>
東洋経済online『日本の再生可能エネルギーへの姿勢が酷すぎる』
産創館『エネルギー使用の「見える化」の方法について教えて下さい』
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