建設業では労働者の高齢化や人員不足が深刻な問題のひとつになっています。それに加え働き方改革など様々な変革が求められていますが、なにをするにも費用がかかってしまうため、悩んでいる方も少なくないのではないでしょうか。政府もそれに対応するべく様々な補助金や助成金制度を打ち出しています。今回は建設業が利用することができる助成金とその活用法を見ていきましょう。

 

助成金を受けるための条件

まず、助成金はどんなときに受けとることができるのか確認しましょう。助成金は国や地方自治体が推進する政策に合った企業等に対し一定の金額を交付する制度のことです。助成金には支給要件があり、それを満たすことで誰でも受けとることが可能になります。また助成金には返済義務がなく、様々な種類があるので、自社の方針と合うものを探して利用することができます。

 

・支給要件

では、支給要件にはどんなものがあるのでしょうか。助成金の種類によって要件は異なりますが、共通した条件もあります。いくつか見ていきましょう。

 

①労働保険の適用事業所の事業主であること。

②労働保険料(労災保険、雇用保険)を過去滞納していないこと、過去に助成金の不正受給がないこと。

③就業規則・賃金規定があり、出勤簿、賃金台帳など法律で作成が義務付けられた帳簿類を備え付けていること。

④過去1年以内に労働基準法違反(労基署の調査等是正指導)はないこと。

⑤支給申請を行った年度の直近年度及び当該会計年度から3年度前の期間、事業者都合での解雇等(退職勧奨を含む)をしていないこと。

 

受給要件のかぎは労働基準法をあるといえます。従業員の労働時間をきちんと管理し、残業代も適正に支払っていることが大事になります。また会社都合での解雇をしていないかもチェックされます。つまり勤怠管理が正確かつ適正に行われているかどうかが問われます。

 

助成金がアップする「生産性要件」ってなに?

さらに、ある一定の条件に該当すると助成金が割増になる制度があります。それが「生産性要件」です。

 

我が国は、今後労働力人口の減少が見込まれる中で経済成長を図っていくためには、労働生産性を高めていくことが不可欠です。このため、事業所における生産性向上の取組みを支援するため、生産性を向上させた事業所が労働関係助成金(一部)を利用する場合、その助成額又は助成率の割増等を行います。

労働生産性を向上させた事業所は労働関係助成金が割増されます 厚生労働省ホームページより

 

日本は先進国でありながら、決して生産性の高い国ではありません。公益財団法人日本生産性本部の統計によると日本の就業者ひとり当たりの労働生産性は、OECD加盟36ヶ国中21位。生産性の向上はひとつの企業だけではなく、国の産業そのものを支える上で必要である、と国は考えています。そのため生産性を向上させた事業所には助成金を割増してくれるのです。

たとえばキャリアアップ助成金の正社員化コースであれば、57万円の受給額が72万円にも上がります。かなり大きい増額になりますから是非とも要件を満たしたいものです。

厚生労働省が定める「生産性要件」とは、以下の定義です。

 

・助成金の支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること。

 

具体的に生産性の算出方法の計算式は以下になります。

 

・生産性=(営業利益+人件費+減価償却費+賃借料+租税公課)÷雇用保険の被保険者数

 

注意するポイントとしては、「人件費」は「従業員給与」のみで役員報酬は含まれません。

この金額が3年前に比べて、6%以上改善していると割増の対象になります。ひとり当たりの利益が上がっている場合に、対象になるということです。該当するケースは、利益が増えている場合以外にも、雇用保険の被保険者数が減っている場合や、設備投資をして減価償却費が増えた等という場合も該当する可能性があります。

上記の厚生労働省のページに「生産性要件算定シート」があるので、3年前の状態と共に計算してみるとよいでしょう。

また計算してみたら生産性向上はしているものの6%には満たないこともあるかもしれません。それでもまだ諦めずにすむ場合があります。金融機関から一定の「事業性評価」を得ていれば、1%以上6%未満の伸び率でも生産性要件を満たしていると判断されるのです。

「事業性評価」について、厚生労働省は次のように説明しています。

 

事業の見立て(市場での成長性、競争優位性、事業特性及び経営資源・強み等)を与信取引のある金融機関に照会させていただき、その回答を参考にして、割増支給の判断を行うものです。なお、『与信取引』とは、金融機関から借入を受けている場合の他に、借入残高がなくとも、借入限度額(借入の際の設定上限金額)が設定されている場合等も該当します。

 

具体的には、借入金のある金融機関(借入金がなければ口座のある金融機関)に「事業性評価」の書類に捺印してもらいましょう。相談できる金融機関があれば確認をとるようにしましょう。

 

受け取れるおすすめ助成金

それでは助成金にはどのようなものがあるのか、いくつか例をあげていきます。

 

・建設事業主等に対する助成金

建設労働者の雇用改善や職業訓練などを実施する建設事業主に対し支給される助成金。中小の建設事業主であれば、選べるコースがいくつもあります。

 

トライアル雇用助成金

若年・女性建設労働者トライアルコースは、35歳未満の若年者または女性を建設技能労働者として一定期間試行雇用すると受けられる助成金で、ひとりにつき月額4万円が支給されます。最長3ヶ月間受けとることが可能です。

 

人材確保等支援助成金

建設分野限定で使えるコースのひとつに、雇用管理制度助成コースがあります。中小の建設事業主が雇用する登録基幹技能者の賃金テーブルまたは資格手当を増額改定することで支給されます。ひとりあたり6万6,500円(生産性要件を満たす場合は84,000円)が支給され、以降も増額改定する場合には2年目、3年目とも同額を受給できます。

 

・キャリアアップ助成金

こちらはどんな業種の企業でも受給可能な助成金の中で有名なものです。正社員化コースは非正規雇用者を正規雇用へ転換した場合にもらえるもの。ひとりあたり中小企業で57万円(生産性要件を満たす場合は72万円)、大企業で42万7,500円が支給されます。

他にも賃金規定等改定コースや短時間労働者労働時間延長コースなど様々あります。

 

・両立支援等助成金

出生時両立支援コースは、男性が育休を取得しやすい職場環境を整備している企業に男性の育休取得者が出た場合に支給される助成金です。中小企業ではひとり目の育休取得で57万円が支給されます。

 

まとめ

人材確保や育成にかかせない資金となりうる助成金。自社にあったコースを見極め、受給を検討してみましょう。そのためには勤怠管理をいま一度見直し、利益が上がっているかなどの情報をまとめておくことも大切です。

 

参考

厚生労働省『雇用関係助成金検索ツール』

公益財団法人日本生産性本部『「労働生産性の国際比較 2019」を公表』

建設現場へGO!『活用してみませんか「助成金」』

コンサル社長あかざわのブログ『助成金の「生産性要件」て何?わかりやすく解説します』