セクハラ、パワハラに関わる問題は枚挙に暇がありません。職場に限らず、スポーツから教育の現場まで、このハラスメントをどうなくしていくかということが今かなり大きな課題となっています。「ハラスメント」の元である英語 Harassment の意味は「なにかしらの脅かすような行為をすること」です。脅かす、というとかなり暴力的に感じますが、実はそうでもありません。力を持つ人間の行為にはすべて拘束力があります。もちろん、うまく振る舞えば職場の統制がとれ、仕事は円滑に進むでしょう。しかし、職場での権力は、振る舞い方を間違えればすぐに相手を脅かす力に変わります。また、職場でのハラスメントは、上司と部下という関係にとどまらず、先輩後輩、同僚、取引先、現場の労働者間といったすべての状況で起こり得ることは意識しておく必要があります。

 

ハラスメントに関する規定

(1)セクシャルハラスメント

もっともわかりやすいハラスメントは、妊娠・出産等に関するハラスメント、およびセクシャルハラスメントかと思われます。具体的には、妊娠・出産・育児休業等のために不当な扱いをしてはならないというものです。ここでの不当な扱いとは、「解雇」「契約を更新しない」「降格」「減給」「人事考課での不利益な評価」「(派遣労働者に対する)派遣の提供拒否」などです。

 

厚生労働省の対策マニュアルによると、セクシャルハラスメントは1999年(平成11年)の男女雇用機会均等法によって事業主に防止義務が課されていますが、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法が改正され、2017年1月から新たに「妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント」について防止措置をとることも事業主に義務付けられています。

 

つまり、これらのハラスメントには明確に防止義務があります。またセクシャルハラスメントは、異性間に限りません。同性間であっても、宴席で衣服を脱ぐことを強要する行為や、独身であることをからかう行為もセクシャルハラスメントとなることがあります。

 

(2)パワーハラスメント

厚生労働書によると、パワーハラスメントは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる行為をいう」と定義されています。

 

「業務の適正な範囲を越えて」という部分が解釈のむずかしいところではあります。どうしても厳しい言葉で指導しなければならない場面も考えられます。しかし、厳しい言葉や指導が、相手の尊厳を傷つけたり、不可能な要求であったりする場合はパワハラです。

 

例えば、「明らかに達成不可能な業務を与える」「仕事を与えない、もしくは程度の低い仕事を命じる」「生い立ちを非難する」「飲酒を強要する」など、といった行動が考えられます。つまり、ポイントは指示や指導をする人間の言動が「業務上必要とされる範囲を逸脱していないかどうか」という点です。

 

パワーハラスメントの類型

パワハラについてもう少し細かく見てみましょう。厚生労働省が開設している「あかるい職場応援団」によるとパワハラ行為は大きく下記の6つに分類されます。

 

  1. 身体的な攻撃

叩く、殴る、蹴るなどの身体的暴行、丸めたポスターで頭を叩く、ネクタイを引っ張るなど。怪我をさせれば傷害罪ですが、軽い書類でも投げつける行為は威嚇であり、パワハラです。

  1. 精神的な攻撃

同僚や客の前での叱責、複数の職員あてメールでの叱責など。「やめてしまえ」「小学生並だ」「無能」「アホ」「バカ」などといった侮辱や名誉毀損、尊厳を傷つける暴言。

  1. 人間関係からの切り離し

一人だけ別室に席を移す。強制的に自宅待機させるなど。また職場の全員が呼ばれている忘年会や送別会にわざと呼ばない。コミュニケーションを遮断する(無視する)といった行為。

  1. 過大な要求

仕事のやり方を教えることなく他の人の仕事まで押し付ける。見せしめ的・懲罰的に就業規則の書き写しや始末書の提出を求める。

  1. 過小な要求

事務職なのに倉庫業務だけを命じる。営業職なのに草むしりだけを命じる。仕事を与えずに放置するなど。

  1. 個の侵害

交際相手や私生活について執拗に問われる。有給の理由を詳しく問う。ロッカーや私物をのぞき見するなど。

 

「過大な要求」「過小な要求」に関しては、労働者の能力によってはすれ違いが起こることも考えられます。また「個の侵害」についても、職場での人間関係の距離によって変化します。またパワハラに当たるかどうかは、継続的であるかどうか、ということも関係します。よって、ここに挙げたすべてが即パワハラというわけではないかもしれません。大事なことは日頃から職場でパワハラに関する認識を共有しておくことです。

 

「指導」や「教育」がなぜパワハラになるのか

日本では「先輩後輩」という関係性を大事にしていたり、職人的な仕事に「入門」するという考え方があったり、「滅私奉公」が美徳であるという価値観があります。目上に従うことで社会を形作っているとも言えるでしょう。しかし、時代は変化します。より西洋的、国際的に共有されている価値観は「人は平等な権利を主張すべきである」というものです。こういった合理的でフラットな価値観を受けて育った若者と古くからの日本の価値観で接すれば、問題が起きることは十分に想定できます。

 

もちろん「合理性に基づく働き方が正しい」ということではないでしょう。しかし、自分はコミュニケーションのつもりが誤解を生んでいた、ということも起こり得ます。管理的立場にいる人間は、どのような状況でも、相手を左右する力を持っていることを忘れてはなりません。

 

まとめ

さまざまなハラスメントがありますが、職場においては、セクシャルハラスメント(セクハラ)とパワーハラスメント(パワハラ)がまず注意すべきハラスメントです。仕事における男女格差の解消、および介護問題といったところから、セクシャルハラスメントは現状においてたいへん大きな問題として認識されています。また労働環境の改善に向けた意識からパワーハラスメントに対しても厳しい目が向けられています。

 

<参考サイトURL>

厚生労働省 都道府県労働局雇用環境:均等部(室)「職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策やセクシュアルハラスメント対策は事業主の義務です!!」

厚生労働省 職場におけるハラスメント対策マニュアル

厚生労働省 あかるい職場応援団

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