身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながる仕組み、IoT(Internet of Things)の現場への普及が進んでいます。これによってこれまでインターネットとは無縁だった機器が相互通信し、遠隔からも認識や計測、制御などが可能となりました。人が操作してインターネットにつなぐだけではなく、機器が自らインターネットにアクセスすることがIoTの特徴です。このIoTを現場に導入する事によって「見える化」を促進する事は、今や効率化に不可欠となっています。

再注目される「見える化」は可視化とはどう違う?

現在では頻繁に聞くようになった「見える化」という言葉ですが、実際にはどういったものが「見える化」の仕組みと言えるのでしょうか?

 

「見える化」という言葉自体は、トヨタ自動車の社内改善活動の中で生まれた言葉です。「見える化」とは、問題の早期発見・解決・予防のために情報の表示・共有・蓄積を行い、問題を解決をする為の仕組み、といった意味の言葉です。

 

「見える化」の最初の例として、トヨタ生産方式の「アンドン方式」が有名です。アンドン方式では、生産ラインのベルトコンベアーに「どの作業工程にあるのか」の表示と「状態」の表示(工程の異常・品質チェックが必要・処置中など)をするためのパネル=「アンドン」を設置して「見える化」を行っています。作業者が紐やボタンを使って赤ランプを点灯させると、異常発生が即座にアンドンに表示され、ラインが止まり、管理者や関係者はパネルから瞬時に問題を認識し、しかるべき要員がすぐに対応できるような仕組みとなっています。

 

さて、「見える化」は「可視化」と混同されがちですが、言葉の意味としては違いがあるでしょうか? 「可視化」とは人が情報を見えるようにすることです。それに対して、「見える化」とは情報が人を動かすことです。情報が見える状態を作る「可視化」に対して、「見える化」は問題が発生した際に情報を見る事を人に強制し、その情報に従って行動をさせるという点が強調されています。可視化するだけでは行動に直結しない事も多々ある中で、「見える化」では表示される情報と行動が直結していることが大きな違いです。

 

そして、「見える化」は何のために行うかと言えば問題を見つけて問題を解決するためです。本当の意味で「見える化」を実現するには「問題を解決したい」という強い意欲が必要です。情報を表示するだけにとどまり、問題解決に対する取り組みを真摯に行えないのであれば、それは「可視化」どまりであり「見える化」ではない、とも言えます。

 IoTは現場を「見える化」する

IoTの普及によって、情報の「見える化」はさらに広い範囲に及んでおり、現場の生産性・品質向上、エネルギー利用効率化のためにIoTの活用は不可欠となっている現状があります。具体的にはどのようにIoTが「見える化」に寄与しているのでしょうか。

 

  • 機械の稼働情報の把握

センサー技術の発達により情報収集可能な範囲が広がり、回転数、温度、振動や音などを測定したセンサー達がそのデータをサーバへ蓄積する形で、IoTが役立っています。蓄積されたデータは、効率化や異常を検知して対応を促すような仕組みに役立っています。データ分析に基づいた最適な設定や稼働方法をIoTが導き出す事によって、無駄な部分を削ぎ落とし、慣習や経験に頼らない運用が可能になります。

 

  • 建設現場におけるIoT

建設現場においては、作業者がGPSやセンサーが埋め込まれた専用端末を身につけることで、作業者や建設機材の位置・動態情報や稼働状況などをリアルタイムに「見える化」し、建設現場の生産性の向上に貢献しています。3軸加速度センサーや気圧センサーなどが備わっている端末もあり、作業員の転倒・危険環境への進入などを迅速に察知することで安全性の向上にも寄与しています。

 

  • 画像認識技術

カメラなどを使った画像認識技術も、インターネット回線の容量・速度の向上やサーバマシンの進化の恩恵を受け、大量の画像データを瞬時に転送・解析できるようになったことで監視スタッフの代わりができるようになりました。例えば、ある場所の来場者をその姿から性別や年齢層を把握し、季節や時間帯別に分類する事も可能になっています。

 

  • オフィスにおけるIoTと「見える化」

オフィスにおける機器もIoTによって「見える化」が進んでいます。コピーと印刷に使われる複合機もIoTによるリモート監視が可能になり、故障やインクの減少を把握する事によって、部品交換などによる停止期間の低減とメンテナンスの効率化が可能になりました。また、利用者のデータを集めることでコピーやプリントアウトのしすぎをチェックでき、用紙の節約・削減にもつながります。

 

  • IT設備へのアクセス情報収集

重要な情報を扱うIT設備についてもアクセス情報を常時収集してデータを蓄積する事で、平均的な利用と異なる使われ方を検出できるようにすれば不正利用を発見できます。これも、大量データの随時収集と高速分析によって実現できることの一つです。

 IoT導入で見えるようになる7つのこと

IoTを導入することによって「見える」ようになる物事には、様々な種類があります。ここでは大きく7つの部分に分けて、その特徴を見ていきます。

 

  • IoL (Location):位置分析

動き回る人やモノを常時追跡する事で、いつ・何が・どこにいたかの情報を収集し、情報から最適な動線・人数・台数を割り出して効率化を図ることができます。また、モノの所在がひと目で分かるため、モノを探し回る事がなくなるのも効率的です。

 

  • IoO(Operation):作業分析

「人の働き方」に着目し、従事作業や非効率動作を識別します。具体的には、スマートウォッチなどの端末を作業者に身につけさせる事で、体調や動作、作業内容を計測する事ができます。無駄な行動が多ければ集中を促す事ができますし、作業の中で時間がかかってしまう苦手な部分を見つけて重点的に改善を図る、といった事が可能です。

 

  • IoS(Situation):場面分析

画像による記録を常時行う事で、機械のチョコ停(短時間停止)の瞬間、不良発生状況などを現場・現物・現実で記録します。正常な状態をAIに記録させる事で、正常ではない状態の判別が可能となり、人間の目の代わりにランプやメーターを見張らせる事が可能です。他にも「画像内のラベルの数」から物品の数え上げを行う、といった事も可能です。

 

  • IoC(Count):数量分析

センサーを通過した物品の数をカウントする等の設定によって、ライン上の仕掛かり数、不良数、完成数などを自動でカウントして生産状況の正確な把握を行い、生産性の向上を図ります。

 

  • IoH(Hazard):危険分析

ヒヤリとした状況を端末で写真撮影し、「ヒヤリ・ハット報告」に役立てる事ができます。危険事象の確実な記録と「ナレッジ化」で、安全活動サイクルを定着させる事に寄与します。

 

  • IoA(Availability):稼動分析

設備・機器の稼動/非稼動状況に特化したIoT機器を設置する事によって、膨大なデータを簡単かつ効率的に分析する事が可能になります。既存の機器にプラスアルファで装着するだけで設定可能な、手軽な機器も多く存在しています。

 

  • IoQ(Quality):品質分析

点検記録のデジタル化や報告書作成の簡素化などによって、点検作業を効率化します。過去の点検情報の検索や、担当者変更に伴う引き継ぎも効率化され容易になります。

 

まとめ

既に様々な分野でIoTが「見える化」に役立っていますが、目的である問題解決を行うには改善への意欲が必要であるという事に変わりはありません。データとデータを組み合わせ、新たな効率化の方法を見つけ出すには、人間の手が必要になります。まずはIoTの導入による「見える化」を行い、情報の収集から初めてみましょう。

 

<参考URL>

ビジネス+IT『「見える化」が「見せる化」になっていないか?トヨタ式が理解できる5つの活用例』

日本プロジェクトマネジメント協会『「見える化」と「可視化」について』小原由紀夫

富士通マーケティング『いま再び「見える化」が注目、IoTによる情報収集でより高度な可視化を実現』

沖電気工業『「見える化」からはじめよう!工場のIoT化 導入事例3選』

建設通信新聞 20180727『大成建設/生産施設作業を可視化/統合データで即時把握』

日本能率協会コンサルティング『現場IoT 7つ道具』