2019年2月から、高所作業の際に従来の安全帯ではなくフルハーネス型の墜落制止用器具の着用が義務化されました。また、これまでの胴ベルト型の安全帯とは違い、からだ全体に着用するフルハーネスを正しく使用するため、特別教育を受講することも義務化されました。今回は「特別教育がなぜ必要なのか」、また「免除」や「罰則」などはどうなっているのか。フルハーネス特別教育について知っておきたいことをみていきます。

 

なぜフルハーネス特別教育が必要なのか

2018年6月に高所作業における安全帯のルール「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」が発表され、2019年2月から施行されました。今回の変更の大きな点のひとつに、6.75m以上(建設業では5m以上)地点での作業時にはフルハーネス着用を義務づける、というものがあります。

従来から高所作業を行う場合は、墜落事故を防ぐために安全帯の着用が義務づけられていました。安全帯には胴ベルト型のものとハーネス型の2種類があります。ハーネス型は上半身全体を覆う形のため装着に時間がかかりますが、胴ベルト型は1本吊りまたはU字吊りで装着が比較的簡単なため多くの現場作業で用いられてきました。しかし、厚生労働省発表の「国内における安全帯に起因する死亡災害事例」によると、平成27年までの10年間で安全帯を着用しつつも死亡してしまった事故は6件あり、そのいずれも胴ベルト着用時でした。胴ベルト型では、墜落時の衝撃で腰を骨折したり、内蔵破裂することがありました。また墜落時にずり上がって胸部が圧迫されてしまったり、からだが抜けてそのまま墜落してしまったりする懸念もあります。

このような過去の事故報告を受けて、高所作業では国際企画のフルハーネス型を採用すると決定され、新たに変更となったのです。そしてフルハーネスの使用方法やルールの周知のため、特別教育も実施されることになりました。

 

・特別教育の受講が義務化される条件とは

高所作業を行う作業員で、条件にあてはまる場合は特別教育の受講が義務化されています。条件とは「高さが2m以上の箇所において、作業床を設けることが困難な場合で、フルハーネス型を使用して行う作業などの業務を行う労働者」です。実際に働いている現場に高所があり、少しでも条件に該当する場所で作業する場合は特別教育を修了していなければなりません。事故を防ぐために正しい身に付け方、ガイドラインを学び、安全に作業に迎えるように特別教育は必要なのです。

 

フルハーネスの必要性についてはこちらの記事も参照してみてください。

安全ベルトだけでは不十分? 高所作業の際の守るべき3つのポイント

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受講内容とその方法

では特別教育とはどんなことを学び、どれくらいの時間がかかるのでしょうか。この特別教育で受講する内容は、4時間半の座学と1時間半の実技になります。

 

・学科科目

1.作業に関する知識(1時間)

  1. 作業に用いる設備の種類、構造および取り扱い方法
  2. 作業に用いる設備の点検および整備方法
  3. 作業の方法

 

2.墜落制止用器具に関する知識(2時間)

  1. 墜落制止用器具のフルハーネスおよびランヤードの種類と構造
  2. 墜落制止用器具のフルハーネスの装着方法
  3. 墜落制止用器具のランヤードの取りつけ設備等への取りつけ方法および選定方法
  4. 墜落制止用器具の点検および整備方法
  5. 墜落制止用器具の慣例器具の使用方法

 

3.労働災害の防止に関する知識(1時間)

  1. 墜落による労働災害の防止のための措置
  2. 落下物による危険防止のための措置
  3. 感電防止のための措置
  4. 保護棒の使用方法および保守点検の方法
  5. 事故発生時の措置
  6. その他作業にともなう災害およびその防止方法

 

4.関係法令(30分)

  1. 労働安全衛生法、労働安全衛生法施行令および労働安全衛生規則中の関係条項

 

・実技科目(1時間半)

墜落制止用器具の使用方法

  1. 墜落制止用器具のフルハーネスの装着方法
  2. 墜落制止用器具のランヤードの取り付け設備への取り付け方法
  3. 墜落による労働災害防止のための措置
  4. 墜落制止用器具の点検および整備の方法

 

座学でフルハーネスの種類や構造を理解し、労働災害や危険防止のための措置を学びます。関連法令も学び理解を深めます。実技ではフルハーネスの実際の装着の仕方、点検や整備方法を学びます。

 

・受講方法

特別教育は、原則として事業主が作業者に行うようにとされていますが、一般的には建設業関連の一般社団法人や財団によって実施されているものを受講するケースが多いようです。こういった特別教育の講習会は全国各地で開催されています。講習日程一覧(https://www.kensaibou.or.jp/seminar/branch020.html?page=1)から、自分の住んでいる地域に近い講習を選んで受講してください。近隣で開催されていない場合は、出張講習に対応している団体もありますので問い合わせてみるとよいでしょう。

申し込みや講習の流れは団体により異なります。一般的にはホームページや電話で連絡し、予約を入れ受講料を支払い、当日受講します。受講料はテキスト代などを含め1万円程度ですが、省略できる科目数や団体により多少異なりますので適宜確認してください。

 

免除されるケースについて

基本的に作業床がない場所でフルハーネスを使用して高所作業をする作業員は全員、受講が義務となっています。ただし条件を満たしていれば一部の科目を省略、免除されることがあります。

以前から、フルハーネス安全帯を着用し、6カ月以上高所作業に従事経験があれば、以下の3科目が免除になります。

 

  • 作業に関する知識
  • 墜落制止用器具に関する知識
  • 墜落制止用器具の使用方法等

 

フルハーネスではなく胴ベルト型でも、高所作業の作業経験が同じく6カ月以上ある場合は以下の1科目が免除になります。

 

・作業に関する知識

また、「足場の組立て等」特別教育の受講者や、「ロープ高所作業」特別教育を受講者は、以下の1科目が省略可能です。

 

・労働災害の防止に関する知識

さらに、実際に作業する場が高所だったりフルハーネスを使用したりするような場合であっても、作業床がある場所で作業をする場合は特別教育を受ける必要はありません。たとえば、手すりなどがなく墜落の危険がある足場上で作業していても、特別教育は受講する必要はありません。ちなみに「作業床」とは、ビル屋上や機械の点検台など作業の足場となる平面な床のことです。作業床を設けることが難しい場所とは、具体的には屋根の上や柱、鉄骨上などを想定されています。しかし、作業床は法的に明確な定義がありません。高所作業車などはバスケットの床が作業床とみなされる可能性があります。自分の働いている作業場はどうなのか判断がつかない場合は所轄の労働基準監督署に確認するようにしましょう。また、6.75m以下(建設業では5m)だと胴ベルト型の使用が可能となり、フルハーネスを使用せずに作業することが可能です。6.75m以下で作業する場合には、その作業者には受講の義務はありません。

とはいえ、いくら足場があるから、受講義務はないといっても高所での作業には変わりはありません。今後、一層フルハーネスの普及を進めていくため、そして自分だけでなく周りの安全を守るためにも、高所での作業がある場合には受講しておくことが望ましいことに代わりありません。

 

・罰則について

特別教育を受講していない作業員を該当の高所作業に就業させた場合、罰則が適用されます。6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金となります。作業可能性がある場合は、余裕を持って受講しておくようにしたいですね。

 

まとめ

特別教育といっても難しいことはありません。すべて受講しても6時間で終了し、事前の勉強なども必要ないため一日で修了することができます。安全に作業を行い、事故を起こさないことが特別教育を受講する本当の意味です。事故を未然に防ぐためにも特別教育を受講し、フルハーネスを正しく使用しましょう。

 

<参考>

SAT「フルハーネス特別教育とは?概要や科目、申込方法や免除の条件を解説」

Bildyマガジン「フルハーネス義務化!よくある質問をまとめてみた」

施工の神様『「フルハーネス義務化」を勘違いしてる人が多すぎる! 現役講師からの警告』