建設業界に身を置いていれば、2017年頃から「i-Construction(アイ・コンストラクション)」という言葉を耳にした方も少なくないと思います。2017年にはそれこそ業界内でこの言葉が飛び交っていましが、実際どんな意味で、どんな効果をもたらしてくれるのでしょうか。その内容と現場について探ってみたいと思います。
i-Constructionが始まった背景には、建設業界の生産性の低さがあった?
「i-Construction」とは一体何のか。こちらは国土交通省が掲げる20個の生産性革命プロジェクトのひとつで、建設業界における「測量」「設計」「施工」「検査」「維持管理」に至るすべての業務プロセスでICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を導入し、建設生産システム全体の生産性向上を目指す取り組みを言います。
なお、国土交通省では「i-Construction」のなかでも数ある施策のなかから
【トップランナー施策】
1 ICTの全面的な活用(ICT土木)
2 企画の標準化(コンクリート工)
3 施工時期の標準化
に注力しており、「トップランナー施策」として2016年度から本格的に推進しています。
なお、上記トップランナー施策のうち、(2)(3)についてはICTとの関連性は薄く、このなかでも石井啓一国土交通大臣が「生産性の向上の一番の鍵はICT土木」と発言していることもあり、こちらでは「1 ICTの全面的な活用(ICT土木)」について掘り下げていきたいと思います。
次項でi-Constructionについて説明する前に、建設業界の現場をおさらいすると、この業界は深刻な人材不足に陥っており、2014年度現在で、技術労働者役340万人のうち、2014年度現在で働いている50歳以上の技能労働者はおよそ110万人。そのうち7割以上の方が2025年までに離職すると予測されています。一方で29歳以下の労働者の数は全体の10%にとどまっています。
若手が育たない理由はいわゆる「3K(きつい、汚い、危険)」を若者や女性が敬遠しているため、とも言われ、その代案として外国人労働者の受け入れも進んでいますが、移民の受け入れに保守的な日本においては、先に挙げた労働人口の減少を賄えない可能性が高いのです。
つまり、労働人口が少なくなるため、その代案として省人化、省力化を実現するためのICT化が急務となっているのです。
また、建設業界が構造的に生産性を上げづらいという点にも触れておきたいと思います。
(1)大半の仕事が分業体制をとっている
建設業界では各工程で専門工事業者の協力をもって完成させることが多く、大手ゼネコンが受注した後に下請けへ発注することを前提とした多重構造であることが大半です。そのため1社だけの効率化で全体の生産性をあげづらいという傾向があります。
(2)作業の標準化や仕組みかがしづらい単品受注生産
ひとつの製品を繰り返し生産する製造業などと異なり、同じ現場、工期、内容のものが二つと存在しないため、標準化や仕組み化が難しく、人件費の削減など生産性向上のための施策が一部に限られていることが多いです。
こういった状況から、国主導で舵取りすることとなり、2016年9月12日に開催された第1界未来投資会議のなかで、安倍晋三総理大臣が“建設現場の生産性を20125年までに20%向上させる”よう関係省庁へ指示、i-Constructionが始まることとなりました。
<参考>
i-Constructionを理解するための4つのキーワードとは?
1 CIM(Construction Information Modeling/Management)の採用
これまで図面を用いた検討では関係者が現場の様子をイメージしながら進めていましたが、イメージしている“想像図”が一致せず、認識の齟齬が生まれていました。そこで3Dモデルを採用し、その齟齬を減らそうという取り組みです。施工対象の構造や施工手順、周囲との干渉などが画面に現れるため、齟齬の減少のみならず、すり合わせ時間の短縮化、協議の迅速化が期待できます。
2 ドローンの活用
従来の測量方法では数千地点を計測するのに1週間近くを要していたものを、ドローンを用いれば、数百万地点の測量を15分ほどで完了させられます。さらにドローンによる写真測量により、測量データを3Dで生成可能となり、設計・施工計画時に必要な土の量を自動算出する省力化にも繋がります。
3 ICT建機を利用すれば経験の浅いオペレーターでも活躍できる
土木工事における建機の操縦は熟練の技術者がこなしていましたが、自動制御できるICT建機であれば経験の浅いオペレーターでも正確に施工できるようになります。さらに、安全性の向上も見込めます。
4 i-Constructionコンソーシアムの立ち上げ
産学官民の連携を目的に立ち上がった組織で、国や自治体建設関連企業が持つニーズに、大学研究室やメーカーなどが応える形を作り出しました。現在、1,700件以上のニーズが寄せられているとも言われおり、これらでマッチングした露仕組みは建設現場へ試験的に導入したり、開発助成制度を適用することが予定されています。
今後の建設業界にi-Constructionはしっかりと根付くのか?
建設業界で新しいテクノロジーを導入するには、基準や法律の整備、投資支援、ICTに対応できる技能労働者の育成など、まだまだ解決すべき課題はあります。
一方で、政府の動きが積極的なこともあり、関連する民間企業の動きも活発であるとみる向きもあります。まだ先の話、と思わず、今後迫り来るトレンドとして、積極的に情報収集することをおすすめします。
<参照>
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