新しい労働安全衛生法が2019年2月より施行されたことで、フルハーネスの着用が義務化しました。これによってフルハーネス安全帯を使う必要があるケースも変わり、これまでと同じ使い方でいいのかなどよくわからないこともあるかと思います。今まで使っていた人も、馴染みがなかった人も、今一度その運用方法を確認しておきましょう。

 

絶対に知っておきたい安全帯の新しい規制

あらゆる作業現場において、2019年2月から6.75m以上(建築業では5m以上)の作業では原則フルハーネス型安全帯の装着が義務付けられました。日本では長年「胴ベルト型安全帯」がメインだったため、馴染みのない方もいるかと思います。

胴ベルト型安全帯は1本のベルトを胴周りに巻きつけ、落下を阻止するための器具です。しかし欠点として、落下時抜けてしまい地面に墜落してしまったり、胴ベルトがずり上がり胸部・腹部を圧迫してしまうことがあります。上記は国内でも死亡事故が確認されており、その欠点を改善するためにフルハーネス 型安全帯の導入ということになります。

具体的に下記のような違いがあります。

 

1、肩や腿、胸などの複数のベルトで体を巻きつけることで、落下時に抜け出てしまうことや、ずり上がって身体の一点だけを圧迫するリスクを低減します。

2、宙つりの状態でも、身体の重心位置を頭部側にD環を維持するため、「逆さま状態」になることを防ぎます。

3、ショックアブソーバーという機器がついており、墜落阻止時に発生する衝撃を大きく減らします。また、ランヤードの切断リスクを低減する効果もあります。

 

では今回の規制がどういったものかを見ていきましょう。大きく3つのポイントに別れています。

 

1、名称が変わります!

「安全帯」から「墜落制止用器具」という名称に変わりました。馴染みのない名前にはなるものの、知らない人が見たときによく分からない「安全帯」という名前より「墜落制止用器具」の方が知らない人でも、より明確に目的がわかるようになるという判断からだと考えられます。

2、胴ベルト型安全帯は条件によっては「安全器具を使用している」とは見なされない!

今まで規格の「胴ベルト型安全帯」は2022年1月2日以降、6.75m以上(建築業では5m以上)の作業では「安全器具を使用している」とは見なされなくなります。基本的にはフルハーネス型墜落制止用器具(安全帯)のみが「安全器具をしようしている状態」として見られます。

3、フルハーネスの義務化に伴い、特別講習を受ける必要があります!

「墜落制止用器具のうちフルハーネス型のものを用いて行う作業の業務に係る特別教育(フルハーネス型安全帯使用作業特別教育)」を受講する必要があり、受講対象者は下記になります。

 

基本的には、「高さ2m以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、墜落制止用器具のうちフルハーネス型のものを用いて行う作業に係る業務」と規定していますので、この業務に従事する方が対象となります。(安衛則第36条第41号)

  • 高さ2m以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、墜落制止用器具のうち、フルハーネス型のものを用いて行う、作業に係る業務を行う者。
  • ただし、ロープ高所作業に係る業務を除きます。が別途「ロープ高所作業の特別教育」があります。
  • すでにフルハーネス型の安全帯の使用経験が6月以上ある方は、講習の内容を一部省略できる可能性があります。

対象となる人は以下の通りです。

実習は、学科と実技併せて計6時間の実習になりますが、詳しい内容は以下の通りです。

講習時間:1日間(計6時間)

受講料金:10,300円(教材費・消費税込)

<学科>

作業に関する知識:1時間

墜落制止器具に関する知識:2時間

労働災害防止に関する知識:1時間

関係法令:0.5時間

合計4.5時間

<実技>

墜落制止用器具の使用方法等:1.5時間

学科と実技の両科目で合計6時間となっております。

主催:建設業労働災害防止協会

 

腰ベルト型安全帯はもう使えないのか?

実際に建築現場に携わる方にとって、一番影響が大きいのはフルハーネスの義務化の部分かと思います。腰ベルト型安全帯が使えなくなるため、「そんなことになったら、今使っているものではなく、新しいものを購入しないといけない!」となるのですが、実はいくつか条件があり今までのものを使える(使わなければいけない)ケースも出てきます。

 

1、共通事項

胴ベルト型安全帯のU字のものに関しては、墜落制止用の部分がないため、「墜落制止用器具」に含まれなくなり、今後はいかなる条件下でも安全器具を装着しているとは見なされません。

 

2、胴ベルト型安全帯の利用できる高さ

6.75m以下(建築業では5m以下)の場合は例外的に今までの胴ベルト型安全帯の使用も認められています。実はこの高さ以下の場合、逆に胴ベルト型安全帯の利用を推奨しています。

 

理由は自由落下の際の距離にあります。

上記の図のように、フルハーネス型利用時は場合によっては地面にぶつかってしまう可能性がありますので、腰ベルト型安全帯が推奨されるというわけです。

 

結構高い、フルハーネス 型安全帯。みんなどうしてるの?

ちなみに現在日本での出荷数は、圧倒的に胴ベルト型のものが多いようです。経済産業省「第3回墜落防止用保護具に関する規制のあり方に関する検討会」によると、平成27年度では胴ベルト型安全帯が127万本なのに対し、フルハーネス安全帯は13万8000本にすぎません。ですので、ほとんどの建設現場に関わる方々は購入を検討している状況です。猶予もほとんどない中で、職人さんへの金銭的負担が増える。中には道具が揃えられないことで業務に支障をきたす方々も出てくるかもしれません。

そこで出てくるのが厚労省による助成金です。

「経費で新たにフルハーネス型を購入する中小建設会社などを対象に、1式当たり最大2万5000円の半額(1万2500円)を補助する」としています。もし、ご自身の事業所がまだ申請していないようであれば、ぜひ事業主様にお知らせしてください。

 

まとめ 最大の財産である「健康」を守りましょう!

さて、皆さんもすでに既知のものもあったとは思いますが、もう一度復習しておきましょう。

1、名称の変化に伴い「U字の胴ベルト型安全帯」は墜落制止の部分がないということで、今後は「墜落制止用器具(安全帯)」とは認められなくなりました。

2、6.75m以上(建築業では5m以上)の場合はフルハーネス 型安全帯が義務付けられた。

逆にそれより低ければ胴ベルト型安全帯を推奨。

なぜなら、自由落下の距離の問題により、フルハーネス型安全帯だと地面に激突してしまう可能性があるため。

3、フルハーネス型安全帯は高価なものだけに、厚労省より助成金がもらえる。

沢山のことを書きましたが、目指していることはただ一つ。

事故を減らし、現場で活躍する皆さんが健康に過ごすことです。

 

 

参考URL

建設業労働災害防止協会「正しく使おうフルハーネス」

建設業労働災害防止協会『「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」を公表します』

建設業労働災害防止協会『墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン(平成 30 年6月22日付け基発 0622第2号)』

経済産業省「第3回墜落防止用保護具に関する規制のあり方に関する検討会」