年度末が近づき異動や退職など人の入れ替わりが多くなる時期。自分がいなくなってからも業務がスムーズに進むようにしっかり引き継ぎたいですが、自分のやり方を人に伝えるのは意外と難しいものです。今回は引き継ぎの際、押さえておくべきポイントを紹介します。

 

自分も企業も信用問題に!きちんと引き継ぎができないと危険な理由

後任者の「大丈夫です」という言葉を信じていたら、あとから問い合わせが来たり、上司や取引先から怒られたり。引き継ぎトラブルの体験談には枚挙にいとまがありません。引き継ぎがうまくいかないと、後任者は不馴れな業務に手間取り案件ごとの効率が落ちます。業務が滞るとその分会社の利益は減ってしまい、いままでのようにスムーズに進まないことに取引先からの信用も落ちてしまいます。引き継いだ自分の責任問題も問われ、仕事に影響が出るかもしれません。

このように引き継ぎをうまく行わないとトラブルが頻発してしまう可能性があるのです。ではなぜ引き継ぎはうまくいかないことがあるのでしょうか。原因を探っていきましょう。

 

  • 引き継ぎを受けたひとの約7割が”不満”を感じている

引き継ぎについて調べた調査結果を見てみましょう。ベストチーム・オブ・ザ・イヤー実行委員会「部署異動に関する引き継ぎの実態調査の結果」によると、引き継ぎを受けた7割のひとが「問題があった」と感じています。

また引き継ぎの問題点を聞き取った具体例としては「充分な時間がない」「説明がほとんどない」「全体像がわからない」などいい加減な引き継ぎが多く、その後の業務に支障をきたしたことが上がっています。

出典:ベストチーム・オブ・ザ・イヤー実行委員会「部署異動に関する引き継ぎの実態調査の結果」2012年

 

自分では分かっている物事を他人に伝える、というのは簡単そうでいて、そのすべてを相手に伝えるのはとても難しいことです。具体的に伝えているつもりでも、自分でも無意識に抜け漏れが出てしまうことがあります。さらに”伝えること”に集中してしまうので、受ける側の理解度まで意識が至らないことがあります。しかし教わる方は新しいことを覚えるのに精一杯で、すぐには抜けには気付けません。立場も受動的になるため質問もしづらく、実際に業務についてからようやく足りない部分に思い至り、その部分をなぜ教えてくれなかったんだ、と不満に感じるのです。

 

引き継ぎで気をつけるべき10のポイント

それではどんなことに気を付けて引き継ぎをすればいいでしょうか。ポイントを10個にまとめましたので、それぞれ見ていくことにしましょう。

 

1 資料を作る

引き継ぎの資料作りは重要です。時間がないからと口頭で伝えていると、後任者は自分でメモを取るしかなく、実際の業務のときに頼りになるものがなくなってしまいます。

マニュアルは引き継ぎの際に使いますが、実はあとから見ることで本領を発揮するものなのです。面倒がらず必ず作成しましょう。

2 大枠を伝えてから細部を説明

業務手順をマニュアル化し、分かりやすくまとめておきましょう。仕事の流れごとにまとめて、まずは大枠を伝えイメージをつかみやすくし、それから細部を伝えると理解がスムーズです。その際、日頃の業務で当然のことも省略せず、抜けや漏れがないように気を遣いましょう。

3 自分のノウハウも追記

自分が今まで身に付けた効率のよいやり方や、取引先の好みなど、これからも業務に必要と思われる情報は伝えるようにしましょう。

4 なんでも資料にしない

資料の分かりやすさも大切です。「資料が分かりにくかった」というのは引き継ぎをうけたひとの不満でも上位を占めています。自分流のやり方や豆知識を最初から当然の手順として組み込むと、後任者が混乱する可能性もありますので、あくまでもアドバイスとしての追記程度にとどめましょう。

5 できるだけ時間をかけて伝える

引き継ぎ時間の少なさは引き継ぎの問題点の1位でした。自分も他の業務をしながらの引き継ぎになり、時間がないことは確かですが、それは引き継ぎを受ける側も同じです。お互いの貴重な時間を使っているのですから、時間内はきちんと伝えましょう。また、少し余裕があるときは余剰時間も引き継ぎにあてて、後任者の理解度を深めるとよりよいでしょう。

6 「困ったときは」アフターケアもしっかりと

一連の業務をしっかり伝えていても、想定外のトラブルは起こるものです。困ったときはどうすればいいかの対処法も伝えておきましょう。想定されるトラブルの対処法はもちろん、問題ごとに聞くべき上司の名前なども伝えておくとよいでしょう。

7 不便のあるところやこれからのビジョンも伝える

現状自分が行っている業務で不便を感じていることがあれば、それはおそらく後任者も同じように感じるはずです。隠さずに伝えておくとよいでしょう。また同様に自分が業務に対し将来的にどのようなビジョンを持っていたかも伝えると、後任者も同じビジョンで業務に取り組んでくれるでしょう。

8 経験の違いを理解する

業務を引き継ぐ場合なによりも難しいのは”経験の違い”を理解した上で相手に伝えることです。自分の経験から「これくらいは相手もわかるだろう」という”先入観”が出てしまいます。自分にとっては当然のことも後任者にはまったくはじめての知識かもしれません。後任者の立場に立って1から伝えていきましょう。

9 後任者の理解度をチェック

説明が終わったばかりのときは後任者も分かっている気になっていたり、不明なところに気づきにくい状態です。質問がなかったことに安心せず、引き継いだ業務を実際に一通りやってもらいましょう。見ている前でやってもらうことで理解度を確認できますし、間違っていてもすぐに対処できるので安心です。

10 後任者との人間関係は大切に

時間がないからといって、態度が横柄だったりいい加減に教えるようなことがあると、相手のやる気もなくなり理解度も落ちてしまいます。後任者が気兼ねして質問をしづらくなることも。また後任者から「教え方が下手だった」などと自分の信用に関わることを言われてしまう可能性もあります。真摯に取り組みましょう。

 

伝え方で「印象」も「理解度」も変わる! 

引き継ぎで気をつけるべきことを理解しても、その伝え方はさまざまです。もちろん時間をかけられるならばそれに越したことはありませんが、対個人に伝えるのか、対グループに伝えるのかでもその伝え方は変わりますし、業務形態や内容によっても変わってくるでしょう。ここでは、どのような伝え方があるのかを見ていきたいと思います。

 

  • 研修やセミナーなどを行う

複数の人間に引き継ぎしなくてはいけない場合、ひとりひとりに引き継ぎを行っていては時間がいくらあっても足りません。そのような場合は一同のスケジュールを合わせ、一気に行える研修やセミナー方式で引き継ぎを行いましょう。また自分ひとりでは手に余ると感じたときは、同様の業務についている同僚の力も借り、手分けして引き継ぎを行うこともひとつの方法です。

  • 人当たりの良い話しやすい雰囲気で教えよう

また引き継ぎのときは、気を遣わせないよう教える側が壁を取り払い、質問しやすい雰囲気を作るとよいでしょう。話術に長けていなくとも、丁寧に教えれば誠実さは相手に伝わります。引き継ぎはスムーズに行われ、周囲から「できる人だな」と思われ評価があがります。後任者からや上司から良い印象を持たれることは、今後の仕事できっとプラスになるでしょう。引き継ぎに必要なポイントをおさえ、自分の信頼を積み重ねるつもりで行ってみてください。

 

まとめ

引き継ぎをうまく行うには思っている以上に細かい気配りが必要です。人間同士のことですから引き継ぎがうまくいかないのはある意味当然のこと。けれども気を付けるべきポイントを押さえておけばうまく伝わる確率は上がります。引き継ぎは重要な仕事と捉え、ひとつひとつしっかりと確認して行いましょう。

 

参考URL

リクナビジャーナル「【異動・転勤の方必見!】デキる社会人のスマートな引き継ぎポイント4つ」

リクナビ派遣『後任者が喜ぶ!「仕事の引き継ぎの基本」と「職種別ポイント」教えます』

履歴書Do「仕事の引き継ぎのコツ後任者が困らないバトンの渡し方」

マナトピ『信頼され続ける!仕事の「引継ぎ」3つの極意』

サイボウズ式「仕事の引き継ぎに不満を感じる若手ビジネスパーソンは7割」