2015年にパリで行われた、温暖化対策について協議する国際会議「COP21」において、2020年以降の温暖化対策の国際枠組みとして「パリ協定」が採択されました。日本ではこのパリ協定を受けて、2030年度までに温室効果ガスを-26%削減する事を目標として様々な取り組みが行われています。取り組みの一つとして、住宅や建物における省エネを進める「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」、またの名を「建築物省エネ法」が国土交通省によって2015年7月に制定され、2017年4月には適合義務や届出等の規制的措置が施行されました。日本中の建築物の省エネ化が段階的に進められており、建築物によっては基準を満たす義務が発生しています。

今回はこの「建築物省エネ法」についてどのように対策をすればいいか、建築物がどれだけ省エネできているか調べる為の「省エネ計算」について学び、考えていきましょう。

 

「建築物省エネ法」って? 省エネ計算が必要な理由

建築物省エネ法は、建築物のエネルギー消費性能の向上を目的に制定されました。一定以上の大きさがある建築物に対して国が定める「エネルギー消費性能基準」をクリアする義務や、どれだけエネルギー消費を減らせているかの性能向上計画を認定する制度など、省エネを推進するためのルールが盛り込まれています。建物の大きさや使用する目的によって、その内容や果たすべき義務が異なってくるため注意が必要になります。

建築物省エネ法は、大きく「規制措置(義務」「誘導措置(任意)」の2つで構成されています。まずはこれを順にみていきましょう。

まず義務化されている「規制措置」の対象となる建物は、「2,000㎡以上の大規模な非住宅建築物」、「2,000㎡以上の大規模な住宅建築物、300㎡以上2,000㎡未満の中規模建築物」、「新築の住宅建築物」の3種類に分けられています。それ以外の建築物については全て「誘導措置」の対象となります。

2,000㎡以上の大規模な非住宅建築物

「2,000㎡以上の大規模な非住宅建築物」については厳しい規制がかけられています。新築・増改築する場合には、その建物が「建築物省エネ法」に適合しているかどうかの判定を受けるという「適合義務」が課せられることになり、この基準を満たして「適合判定通知書」を受け取らない限り、建築に着工することも建物を使用することも不可能になりました。また一度、合格判定をされたあとも継続的に指定機関などによる審査、検査などが行われるため、手続きに沿って建築物を完成させる必要があります。

2,000㎡以上の大規模な住宅建築物、300㎡以上2,000㎡未満の中規模建築物

「2,000㎡以上の大規模な住宅建築物、300㎡以上2,000㎡未満の中規模建築物」については「届出」が義務とされています。「基準に適合せず、必要と認める場合、所管行政庁は計画の変更、指示、命令などができる」といった内容となっているため、適合性調査を疎かにする事が出来ないようになっています。

新築の住宅建築物

「新築の住宅建築物」では、住宅事業建築主(住宅の建築を業として行う建築主)が、新築する一戸建て住宅に対して住宅トップランナー基準を満たすよう努力する義務が課されています。住宅トップランナー基準を満たすことを考慮しなければ、場合によっては社名の公開や罰金といった措置がとられることもあります。

続いて「誘導措置」についてです。誘導措置の対象は、新築・改築はもちろん、既存の建造物も含めたほぼ全ての建物が対象となっており、任意となっているため強制力はありませんが、基準を満たすことでメリットを享受する事ができます。

建築物省エネ法によって、建築物の所有者は所管行政庁から省エネ適合認定を受けると「省エネ基準適合認定マーク(eマーク)」というマークを建築物や広告などに表示できるようになり、省エネ性能を備えた建築物だという事をアピールすることができるようになりました。

さらに「容積率特例」と呼ばれる仕組みがあり、建築物の新築・増改築、建築物への空調設備等の設置や改修などを対象として、その計画が特例基準に適合している場合に認定を受けることができます。この認定を取得すると、容積率特例として「省エネ性能向上のための設備について、通常の建築物の床面積を超える部分は床面積として不算入(延べ床面積の10%を上限)」(※)などのメリットを受けることができます。

※出展:建築環境・省エネルギー機構/住宅性能評価・表示協会建築物省「エネ法に係る適合義務(適合性判定)・届出マニュアル」

 

このように、「建築物省エネ法」によって大・中規模の建築物は適合が義務付けられ、小規模の建築物は適合する事で容積率特例措置によるメリットを受けることができることとなりました。全ての建築物を対象として省エネを強く推進していきたいという政府の意図が感じられます。

さて、「建築物省エネ法」では前述のように建築物の大きさや用途によって変化する省エネ基準がありますので、まずは基準を満たしているかについて調べることが必要です。基準を満たしているかを調べる為には、省エネ性能の調査=「省エネ計算」が必要になります。

 

規制の基準と評価(計算)方法

建築物の大きさや用途によって変化する省エネ基準ですが、具体的にはどのような点を基準としているのでしょう。また、それを実際に計算するにはどのようにすれば良いのでしょうか。

省エネルギー性能の評価については、下記の2つの基準を用います。

 

・外皮基準
  ⇒住宅の窓や外壁などの外皮性能を評価する基準
・一次エネルギー消費量基準
  ⇒設備機器等の一次エネルギー消費量を評価する基準

 

外皮基準においては、断熱・放熱などの熱性能に関する基準が地域別に定められており、断熱性能を示す「外皮平均熱貫流率UA」と日射遮蔽性能を示す「冷房期の平均日射熱取得率ηAC」を計算し、基準内に収める必要があります。

「外皮平均熱貫流率UA」は、住宅の内部から床・外壁・屋根などを通過して外部へ逃げる熱量を外皮全体で平均した値です。値が小さいほど熱が逃げにくく、省エネルギー性能が高いことを示します。

「冷房期の平均日射熱取得率ηAC」は、窓から入ってくる日射による熱と、窓以外から日射の影響で熱伝導により侵入する熱を評価した、冷房期の指標です。値が小さいほど住宅内に入る日射による熱量が少なく、冷房効果が高くなります。

外皮基準は、非住宅用途の建築物では適用されません。ただし、一次エネルギー消費量の計算を行う上で外皮情報を入力する必要があるため、設計において建築物の外皮性能を考慮することが必要となっています。

一次エネルギー消費量基準においては、地域や床面積の大きさなどから「空調」「換気」「照明」「給湯」「家電等」の基準値が設定され、これを合算したものが一次エネルギー消費量基準値になります。

この基準を満たすためには、設計段階で算出された「空調」「換気」「照明」「給湯」「家電等」のエネルギー消費量について合計値を算出し、そこから太陽光発電設備などによるエネルギーの創出を差し引いた値が基準値以内となるようにする必要があります。

 

サポート・代行を使うメリット&種類

建築物の外皮性能や一次エネルギー消費量を算出する為の省エネ計算は、建築物の各種面積や素材・方位・設備などについての情報を揃えた上で、条件ごとに変化する係数を計算に入れつつ数字を算出しなくてはなりませんので、多大な労力を要する事と思われます。
省エネ計算についてのサポートプログラムや代行業者は多数存在します。うまく利用することで労力を節約して省エネ計算を行うことができます。

・住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム

こちらは住宅建築物の省エネ計算サポートプログラムです。各項目の値について住宅設計図などから入力を進める事で、一次エネルギー消費量を算出する事ができます。各項目についている「?」のマークをクリックする事で、どのように入力すればよいかについての解説を確認する事ができます。APIを利用した開発を行うことにより、他のソフトウェアと連携することも可能です。

・非住宅建築物に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム及び技術情報

こちらは非住宅の建築物についての一次エネルギー消費量を算出する為のサポートプログラムです。「モデル建物法」と「標準入力法・主要室入力法」の2種類があり、マニュアルが用意されています。住宅向けのプログラムと比較して入力項目も多く、より専門的な知識が必要となる内容になっています。

・特建調査.com

全国で対応している省エネ計算代行業者です。業界最安値を謳っており、所管行政庁への届け出まで代行してくれます。

・省エネ計算書作成代行センター

省エネ計算代行を専門に扱っている業者です。専門業者ならではの柔軟な対応が可能となっています。

 

まとめ

今後も建築物の省エネ化が政府主導で推進されていく事は間違いがなく、省エネ基準も今後より厳しいものにアップデートされていく事も予想されます。「建築物省エネ法」やその評価基準、そして省エネ計算についての経験を積んでいく事で、省エネの時流に対して柔軟に対応していく事ができると思います。まずは省エネ計算を実施し、求められている基準との距離感を確認してみて下さい。

 

参考URL

建築環境・省エネルギー機構/住宅性能評価・表示協会建築物省「エネ法に係る適合義務(適合性判定)・届出マニュアル」

建築省エネ機構「建築物省エネ法の概要」

東建コーポレーション「一読で概要がわかる!改正建築物省エネ法とは?」

国立研究開発法人建築研究所「建築物のエネルギー消費性能に関する技術情報」

ホームズ君「平成28年省エネ基準の概要」