一般的に建設や工業などの業界は、まだまだ「男の職場」というイメージが強いかと思われます。実際に、日刊建設工業新聞社がゼネコン主要33社を対象に実施したアンケートによると、2016年4月1日時点での女性管理職比率は、回答した31社の平均1.02%で、1%を超えるのは11社となっています。2016年度の厚労省の調査によると、日本の産業界全体の平均は12.1%。これらの業界で働く女性は増えていますが、まだまだ管理職ベースでは全体の平均とは大きな開きがあります。政府は「20年までに(産業界全体の)女性の管理職比率を30%にする」という目標を立てていますが、そのためにどのようなことが必要になってくるのでしょうか。

組織での意識改革の現状は?

女性管理職の少なさについては先述しましたが、建設業で働く女性の割合は現状では女性12%、技術職に絞ると4%となっています。数字だけ見ると少ないですが、実際には増加傾向にあります。女性の割合が増えてくるにしたがって、この10年で少しずつ変化が表れているようです。

毎日新聞の取材によると、「竹中土木(東京都江東区)では、以前は出産後、内勤に移る女性がほとんどでしたが、5、6年前から環境対策の分野で女性技術者の活用が実績を上げて、理解が広まった」とのこと。また、「戸田建設(東京都中央区)は2014年にダイバーシティ推進室を作り、育児中の女性に限らず現場の全員が休日をとれるようにした事例を共有し、管理職が部下や同僚のワーク・ライフ・バランスに配慮できているかどうか自己診断するサイトを開設し研修も開いている」とのことです。

女性が働ける環境整備は少しずつ進んでいるようです。しかし、そう簡単にいかないのも事実。働き方を多様化すれば安全管理の連絡体制も複雑になる可能性があることは言うまでもありません。また、週休2日は工期や費用、日給制作業員の減収といった問題も内包しています。これに対して現状では、タブレット端末を活用したスケジュール管理を行う、遅れを見越した早めの工程を組む、といった取り組みがなされているようです。しかしこれだけではやはり難しく、実際には工事を発注する側にも理解が求められるようです。

女性が働き続けるために必要な制度

女性が働き続けるためには、しっかりした制度作りが必要です。女性が働き続けるために必要な制度について、マイナビニュースがインターネットで行ったアンケートからポイントをまとめてみました。

女性が働き続けるために必要と考えられる主な制度

  • 産休・育休がきちんととれる
  • 育休を延長できる
  • 男性が育児休暇を取れる
  • 勤務時間を柔軟にできる(フレックスタイム制度の導入)
  • 定時退社が可能
  • 在宅勤務が可能
  • 体調が悪い時に問題なく休める体制がある
  • 正規・非正規の給与格差是正が可能
  • 昇進・昇給等、男性と同等の待遇が確保される

上から3つ目までは、特に出産や子育てに強く関係すると考えていいようです。ここで興味深いのは、「男性が育休を取得できるか」というものです。もちろん、この点はあらゆる業界でも求められる点ではありますが、男性が育休をとることによって、女性が働くことが可能になる、ということに関してはよく理解しておく必要がありそうです。

このこととも関連しますが、男女平等の意識は大変重要です。長く働くには、男女関係なくモチベーションや安定した雇用体制が必要です。このために、業績がきちんと評価され、昇進・昇給するか、たとえ非正規であっても必要な分の給与がもらえるか、生理などの体調の変化によって不利益を被ることがないか、といったことへの対策を企業がしっかりと行っている必要があります

現場復帰できる職場が求められている

2016年に日本建築仕上学会女性ネットワークの会が行った「建築現場で働く女性のアンケート」によると、2015年度の前回調査に比べて「社内の他部署に異動を希望」が減る一方、「子どもの成長に応じて現場に復帰したい」が3割近くに増えたという結果がでています。単に女性が働ける職場を整えるという以上に、「現場で働き続けたい」女性をサポートする環境整備の必要性があるといえるでしょう。

この点に関しては先に示した「女性が働き続けるために必要な制度」とも重なってきますが、産休・育休ののち、どのように職場に復帰するのか、復帰する際の体制づくりが必要です。職場に復帰したとたんに仕事に追われるのでは元も子もありません。業務の時間管理だけにとどまらず、業務内容に関しても併せて、働きたいひとが無理なく働ける環境づくりが必要です。このために本人がどのような状況にあるのか、しっかりとコミュニケーションをとったのち柔軟な業務内容の検討がなされるべきでしょう。

まとめ

現在、女性の労働者比率、管理職比率ともに建設業界はかなり遅れを取っています。女性が働く環境を作るには、女性が安心して働くためのトイレや休憩室などの整備や制度の整備まで、これまでにないさまざまな配慮が必要になります。体力仕事は男性の方が向いていることは昔から言われてきました。このことは一概に否定できないでしょう。しかし、現在の建設業は様々な人間が複雑に動く現場です。「仕事を円滑に進める」と考えてみると、本当に男性の方が優れていると言い切れるでしょうか。

もちろん、女性の活躍が求められている背景には、日本の少子高齢化による人材不足があることは否めません。しかし、女性の持つコミュニケーション能力や周囲をよく観察し配慮する目といったものは、男性とは違ったしなやかさがあります。しかしここで女性がどれだけ優れているか、ということを言ってもあまり意味はないでしょう。本質的には、男女関係なくどのような仕事であれ、その仕事をやりたいと思った人間にチャンスを与えて尊重し、どうやればともに働くことができるか、と考える会社がより優秀な人材を得ると考えてもいいのではないでしょうか。

<参考URL>

日刊建設工業新聞「ゼネコン各社/女性管理職比率増加、1%以上は11社に」

http://www.decn.co.jp/?p=86441

日本経済新聞「厚労省 目標遠く、16年度の管理職の女性比率12.1%」

https://www.nikkei.com/article/DGXLASDF09H0M_Z00C17A8EE8000/

日本建設業連合会「もっと女性が活躍できる建設業を目指して」

http://www.nikkenren.com/komachi/overview.html

毎日新聞「はたらく 女性活躍へ乗り出す建設業」

https://mainichi.jp/articles/20180122/ddm/013/100/023000c

マイナビニュース「女性が働き続けるために必要な制度は?」

https://news.mynavi.jp/article/20160209-a045/

建設通信新聞「【現場で働く女性アンケート】現場復帰希望が3割増加 制度・環境整備の必要性浮彫りに」

https://www.kensetsunews.com/web-kan/87485