仕事をしていると、どうしても大小様々なミスや事故が起こるものです。事故は多種多様な原因が複雑に絡み合い起こるもの……と思いきや、実際は見逃されてきた小さなミスをそのままにしていた時に起きてしまうものがほとんどだと言われています。小さなミス達を見逃さず、原因を突き止め、一つずつ解消していくことで事故のリスクを軽減することが可能です。

事故の原因を突き止めて未然に防ぐために有用なのが『ヒヤリ・ハット報告書』です。幸い事故にならなかったけれども『ヒヤリ』としたり『ハッと』したりしたことがあったら、それを具体的に報告します。こういった報告を集める事で、大きな事故の原因になりうる小さな原因を集め、対策することができるのです。

事故は予防できる! ハインリヒの法則とは?

大きなミスや事故が1つ起きる時、その事故の前には29件の軽微な事故が起きており、更にはそれらの事故につながる300件ものヒヤリ・ハット事例が起きていると言われています。

この「1:29:300」の比率は、アメリカのハーバート・ウィリアム・ハインリヒの調査によって指摘された指標です。ハインリヒは5000件以上の労働災害を統計的に調べ上げ、この比率が法則として存在する事を導き出しました。この法則はハインリヒの法則として現在でも広く知られています。

ハインリヒの法則は労働災害に限らず、様々なビジネス上のミスについても同様に適用することができる優れた法則として知られており、日本では『ヒヤリ・ハットの法則』と呼ばれる事もあります。この法則にのっとって考えれば、300件のヒヤリ・ハットが見逃され続ければ、会社を揺るがすような重大な事故が起きてしまう、という事になります。

この法則は数字に注目が集まってしまいがちですが、大事なのは数字ではないとハインリヒは語っています。「重要なのは数字ではなく、それらが同じ原因に根ざしているという事実である」と語るハインリヒは、ヒヤリ・ハットと重大な事故は同じ原因で起きており、ヒヤリ・ハットを潰していくことで重大事故の98%は未然に防ぐ事ができる、と主張しています。

言い換えれば、ほとんどの事故は偶然の産物ではなく、小さな予兆を見逃さなければ防ぐ事ができるという訳です。その小さな予兆を集める為に、『ヒヤリ・ハット報告書』はとても重要なものであると言えます。

ヒヤリ・ハット報告書をつくるにあたって必要な項目は?

ヒヤリ・ハット報告書は安全でない状況、安全でない行動を見つけるためのものです。状況や行動を詳しく把握するためにも、下記のような項目は報告書のひな形にあると便利でしょう。なるべく状況を想像しやすいように気をつけて書くと、自然と良い報告書がつくれるでしょう。

いつ、どこで、何をしたときに起きたか

まずは「いつ起きたか」です。例えば、日没頃の時刻であれば野外作業の場合は西日が目に入りやすく、視界が悪くなることなどがありそうですね。また、日がくれてからの時間帯であればなおさら視界は悪くなります。状況を想像しやすくする為に、なるべく正確に時刻を書いておきましょう。

次は「どこで起きたか」です。作業は様々な状況下で行われる為、場所についてもはっきり想像できるような書き方ができるよう心掛けましょう。例えば「トラックで」よりも、「トラックの荷台に積んだ資材に乗っている状態で」などの具体的な書き方が望ましいですね。

更には「何をした時に起きたか」を書きましょう。先ほどのトラックの荷台の例で言えば「トラックの資材へシートをかけようとした時」よりも「雨が降ってきたため資材へシートをかけようとトラックの荷台へ登り、シートをかける動作を行った時」などの具体的な報告が望ましいです。

どうなったか、もしくはどうなりそうだったか

この項目はヒヤリ・ハット報告書において一番重要な部分です。タイミングが悪ければこんな事態になっていた、重大な事故に発展する時はどんな時か、という想像力を巡らせて、ヒヤリ・ハット事象を考え直す事はひとりひとりの事故に対する意識を強くさせてくれます。些細なことでもなるべく詳細に書きましょう。

原因はなんだったと考えられるか

原因については、ハッキリとは原因がわからないケースもありますので必ずしも明確に書かなくてはいけないというわけではありません。『ヒヤリ・ハット報告』で大事なことは事例を集めることです。『ヒヤリ・ハット報告書』が集まってくれば原因がわかってくることもありますので、気負わずにできる限りの見解を書いてみましょう。

今後に向けての提案、要望など

これも原因と同じく、必ずしもハッキリと書く必要はない項目となります。ですが、何か改善できるアイデアがあれば現場の責任者にとってはありがたいものです。もし書けることがあれば書くようにしましょう。

上記のような項目を基本として、職場や現場に合わせて報告書のひな型を作成してみると良いでしょう。

『ヒヤリ・ハット報告』の習慣づけを!

ヒヤリ・ハット報告書の書き方やフォーマットについては前述させて頂きましたが、実際に導入する事を想像するといかがでしょうか。文書作成にはそれなりに時間がかかりますし、文章を書くのが苦手な人もいますよね。そもそも何がヒヤリ・ハットにあたるのかについても個人によって認識に差が出てきそうです。また、実際に書く習慣を植え付けて、浸透させ続けるのはなかなか苦労するかもしれませんね。そこで、職場にヒヤリ・ハット報告書を習慣づけていく為のヒントをご紹介します。

『ヒヤリ・ハット報告書』の提出を評価に加える

『ヒヤリ・ハット報告書』を書きましょう!と発表するだけでは、余計な仕事が増えたと感じられて中々書く事に気が進まないかもしれませんね。報告書提出への動機づけとして、評価上のプラスなどをアピールし動機を植え付ける事が大切です。明確に1枚1ポイント、というような形ではなくても良いかもしれませんが、たくさん提出をしてくれた人には少しでも良い事があると思えるような環境が望ましいでしょう。

文章の書き方について誘導や指導を行う

文章を書くのが苦手な人にとっては、書く事自体が苦痛になってしまうかもしれません。そんな人も気負わずに、かつ正確に書けるような工夫していくと良いでしょう。例えば、『ヒヤリ・ハット報告書』の見本を添えたり、一部の項目を選択肢から選ぶ形にしたりするだけでもハードルは下がります。状況を詳細に書く事が苦手な人には、赤ペンで添削を入れて指導することや、直接事情を聴取して内容を補填するのも良いでしょう。

定期的に報告書を書く時間や、内容を振り返る時間を作る

『ヒヤリ・ハット報告書』を書く時間を1日の勤務の中に用意することで、時間に追われず書くことができます。例えば、退勤前の10分間に報告書を書く時間を用意するなどです。業務外の時間に書かせていてはタダ働きになってしまい、自発的な報告が減ってしまいます。また、毎朝の朝礼や週一回の会議などで提出されたヒヤリ・ハットの内容を共有していくことも大切です。原因をみんなで考え、注意喚起と対策を行う事で、自分の提出したヒヤリ・ハットが全体の為になったという実感があると、自然とヒヤリ・ハット報告書を書こうと思えるものです。

以上の事は『ヒヤリ・ハット報告書』の提出を習慣づける為の一例に過ぎません。職場にあわせた形で、どのようにすれば習慣になるかについてアイデアを出してみると良いでしょう。

まとめ

安全に対する意識付けは、疎かにしてしまえば事故の原因になりかねませんが、『ヒヤリ・ハット報告書』の提出が習慣になると、実際に事故になってしまった場合にどうなってしまうのかについて想像する癖がついてきます。それが次のヒヤリ・ハットに気づけるような感性を育てる事にもなります。当事者にとっても、責任者にとってもとても良い影響が生まれます。

ヒヤリ・ハット報告の習慣は、安全意識を高めるためにも効果を発揮します。ミスや事故のない安全な現場をつくるためにも、危機意識を共有して習慣づけていきましょう。

また不安全行動防止に向けた、さまざまな取り組みについて知りたい方は『【職場環境改善】ストレスチェックがヒヤリハット発生を低下させる!?』『【労災対策】机上の理論は危険を招く!? 安全の為やるべき本当の対策』『不安全行動防止にも効果アリ!? 現場でのメンタルヘルス対策』『「安全衛生経費」の確保が、現場の安全を高める』をご覧になってください。

【職場環境改善】ストレスチェックがヒヤリハット発生を低下させる!?

【労災対策】机上の理論は危険を招く!? 安全の為やるべき本当の対策

不安全行動防止にも効果アリ!? 現場でのメンタルヘルス対策

「安全衛生経費」の確保が、現場の安全を高める

 

参考URL

介護経営「ヒヤリ・ハット報告書を定着させるための3段活用」

TOCANA「【統計学】失敗を未然に回避するヒヤリ・ハットの法則!」

厚生労働省「ヒヤリ・ハット事例」