まだまだ、熱中症を警戒する時期です。職場における熱中症による死亡事例の多くは7月と8月に発生しています。時間帯としては14時から16時台がもっとも危険。また平均気温偏差の大きかった年、つまり、例年よりも暑かった年には、熱中症が多く発生しています。
熱中症はしっかりと意識した事前の対策で回避できます。これまでにも当サイトでは数回にわたって熱中症を特集していますが、今回は、熱中症に関して重要な指標であるWBGT(暑さ指数)について解説します。
そもそもWBGT(暑さ指数)とはなにか
熱中症対策の第一歩はWBGT(暑さ指数)の把握です。WBGTとはWet Bulb Globe Temperatureの頭文字をとったもの。湿球黒球温度と訳されますが、一般的には「暑さ指数」と呼ばれています。
熱中症予防を目的として1954年にアメリカで提案されたもので、単位は気温と同じ(℃)で示しますが、気温とは異なります。人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目し、「湿度」「日射・輻射(ふくしゃ)・風など周辺の熱環境」「気温」といった環境情報を取り入れた指標です。
WBGT値は一般に販売されている機器で測定することが可能です。測定機器は比較的安価で持ち歩けるコンパクトなものから三脚を使用し、測定データを集計するものなど多くの種類があります(JIS規格に適合したものを選びましょう)。また、環境省の「熱中症予防情報サイト」でも数値が公開されています。
過去のデータから、このWBGT(暑さ指数)が28℃を越えると熱中症患者が著しく増加することがわかっています。ちなみに、日常生活に関する指針では、25℃未満で「注意」、25℃以上28℃未満で「警戒」、28℃以上31℃未満で「厳重警戒」、31℃以上で「危険」とされています(日本生気象学会「日常生活における熱中症予防指針Ver.3」(2013))。
作業時における暑さ指数評価の目安とは?
WBGT値は、たとえ作業場所が近くても、太陽照射の有無などの影響で大きく異なることに留意しましょう。細かい場所や状況ごとの正確な把握が大事です。身体作業強度(代謝率レベル)に応じて熱中症になる恐れのあるWBGT基準値が定められています。これを見ると「身体作業強度(代謝率レベル)」の高い作業ほど、WBGT値が低い状況で行わなければならないことがわかります。もし基準を越えるおそれがある場合、WBGT値を低減する工夫や、休憩時間の確保といった対策を徹底する必要があります。
⬜︎(区分0)安静 WBGT基準値33℃(熱に順化していない人32℃)
身体作業強度(代謝率レベル)の例
・安静 |
⬜︎ 低代謝率 WBGT基準値30℃(熱に順化していない人29℃)
身体作業強度(代謝率レベル)の例
・楽な座位 ・軽い手作業(書く、タイピング、描く、縫う、簿記) ・手及び腕の作業(小さいベンチツール、点検、組立てや軽い材料の区分け) ・腕と脚の作業(普通の状態での乗り物の運転、足のスイッチやペダルの操作、 立位、ドリル(小さい部分) ・フライス盤(小さい部分) ・コイル巻き ・小さい電気子巻き ・小さい力の道具の機械 ・ちょっとした歩き(速さ3 .5km/h) |
⬜︎ 中程度代謝率 WBGT基準値28℃(熱に順化していない人26℃)
身体作業強度(代謝率レベル)の例
・継続した頭と腕の作業(くぎ打ち、盛土) ・腕と脚の作業(トラックのオフロード操縦、トラクター及び建設車両) ・腕と胴体の作業(空気ハンマーの作業、トラクター組立て、しっくい塗り、中くらいの重さの材料を断続的に持つ作業、草むしり、草堀り、果物や野菜を摘む) ・軽量な荷車や手押し車を押したり引いたりする ・3 .5~5 .5km/hの速さで歩く ・鍛造 |
⬜︎ 高代謝率
[気流を感じない時]WBGT基準値25℃(熱に順化していない人22℃)
[気流を感じる時]WBGT基準値26℃(熱に順化していない人23℃)
身体作業強度(代謝率レベル)の例
・強度の腕と胴体の作業 ・重い材料を運ぶ ・シャベルを使う ・大ハンマー作業 ・のこぎりをひく ・硬い木にかんなをかけたりのみで彫る ・草刈り ・掘る;5 .5~7km/hの速さで歩く ・重い荷物の荷車や手押し車を押したり引いたりする ・鋳物を削る ・コンクリートブロックを積む |
⬜︎ 極高代謝率
[気流を感じない時]WBGT基準値23℃(熱に順化していない人18℃)
[気流を感じる時]WBGT基準値25℃(熱に順化していない人20℃)
身体作業強度(代謝率レベル)の例
・最大速度の速さでとても激しい活動 ・おのを振るう ・激しくシャベルを使ったり掘ったりする ・階段を登る、走る、7 km/hより速く歩く |
熱中症対策のためにやっておくべき管理
上記WBGT値の評価結果にもとづいて、必要な作業を安全に行なうために以下の3つの管理を徹底しましょう。
- 作業環境管理
WBGT値(暑さ指数)の低減等を行います。WBGT値を下げるには、遮光ネットや大型扇風機、ドライミストの導入など、さまざまな方法があります。また、休憩場所を整理し、氷、冷たいおしぼり、水風呂、シャワー等、身体を冷やす事のできる設備を設け、飲料水、スポーツドリンク等の備え付けを行います。
- 作業管理
作業時間の短縮等を行います。上記のWBGT基準値を参考に、大幅に越える場合、原則として作業を中止しましょう。やむを得ず作業を行う場合、単独作業を控えて休憩時間を長めに設定し、作業中の心拍数、体温及び尿の回数・色等の身体状況、水分及び塩分の摂取状況を頻繁に確認します。
また、作業員の熱への順化を行いましょう。身体が熱に順化すると効率よく汗をかくことができるようになります。順化には7日以上かけて熱へのばく露時間を次第に長くします。夏季休暇などの後も同様に順化期間が必要です。
服装は事前に検討して準備しておきます。なお、服装は素材などによって、WBGT基準値に補正値を加える必要もあります。以下、衣類の組み合わせによるWBGT知に補正値を加える補正値です。
二層の布(織物)製服 +3
SMSポリプロピレン製つなぎ服 +0.5 ポリオレフィン布製つなぎ服 +1 限定用途の蒸気不浸透性つなぎ服 +11 |
- 健康管理
健康診断結果に基づいた対応をとります。特に、糖尿病、高血圧症、心疾患、腎不全等の持病がある労働者は、医師の意見をもとに適切に配慮しましょう。労働者の健康状態は管理者がしっかり確認します。管理者は作業開始前、作業中の巡視を行います。また労働者同士もお互いの様子に注意するようにします。
もし異変を感じたら?
本人、周囲とも、異変を感じたら、すぐに体温を測定し、必要に応じて水分摂取や濡れタオルなどを使用して体温を下げるようにします。リンパが集中する「腋(の下)」「脚の付け根」「首」の3箇所を冷やすことが効果的です。平熱近くまで下がったことを確認するまでけっして一人にしてはいけません。また、症状に応じて躊躇せず救急隊を要請し、病院に搬送します。
まとめ
ここでは主にWBGT(暑さ指数)について詳しく見てみました。
責任者を置き、毎日、場所や環境ごとに数値を確認します。状況に応じてWBGT値を下げるために適切な対策を講じ、その日の労働者の健康チェックを欠かさないようにします。異常が起きた際の対応確認等をしっかりと繰り返すことで、熱中症のリスクは減らすができます。
また、熱中症の死亡例では本人が気づく間もなく手遅れになっていたという事例も散見されます。決して労働者任せにせず、管理者がたえず気を配ることが大事です。このとき、WBGTの数値は対策を取る際に有効な判断の材料となるはずです。
参考
厚生労働省 STOP!熱中症クールワークキャンペーン
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