真夏のシーズンともなると、一昔前なら「日射病」や「熱射病」という言葉が飛び交っていましたが、最近ではあまり耳にしなくなりました。その代わりとして最近では「熱中症」という言葉を耳にするようになりました。

それでは、「熱中症」という言葉に取って代わられたのか、といえばそういう訳ではありません。「日射病」と「熱射病」、そして「熱中症」はそれぞれの持つ意味が違います。ここでは、それぞれの言葉の意味の違いと、対処法・応急処置の違いについて正しい知識を身につけてもらいたいと思います。

<おさらい>そもそも熱中症とはどういった症状のことを言うのか

「熱射病」と「熱中症」は同じ意味ではありません。また、言い間違いや類義語として捉えられることもある「日射病」と「熱射病」もその内容は異なります。それぞれの違いをしっかりとご理解いただくためにも、まずは「熱中症」について、おさらいしたいと思います。

熱中症とは

熱中症とは、主に高温多湿や暑熱といった環境下における、気温や湿度、風などの気象条件、激しい運動などを原因とした、身体の内外から「熱」の影響を受けて起きる不調全般のことを指します。補足をすると熱の影響を受けることにより、自身が作り出す熱(=体温)と身体から放出する熱(=放熱)の調整がうまくいかなくなったり、体内の水分や塩分の量、濃度のバランスが崩れたりするといった不調全般のことです。

これまでは、熱中症というのは症状別に「熱失神」「熱けいれん」「熱疲労」「熱射病」の4タイプに分けられていました。まずはこれらについて説明したいと思います。

1      熱失神

(症状)めまい/冷や汗/一過性の意識障害など
(発生の主な原因)熱を体外に逃すために皮膚の血管が広がり、それに伴い血圧が低下。それに応じて脳への血流が減るために生じる。

2 熱けいれん

(症状)手足のけいれん/筋肉痛/足がつるなど
(発生の主な原因)汗をかいた時に水分を摂取し、塩分補給を怠ることにより血中の塩分濃度が低下するために生じる。

3 熱疲労

(症状)倦怠感/吐き気・嘔吐/頭痛など
(発生の主な原因)汗の量に対して十分な水分補給がなされていないために生じる。

4 熱射病

(症状)40度以上の体温上昇/発汗停止/意識障害など
(発生の主な原因)脱水症状の悪化や体温調節機能の不全ために生じる。

これまでは上記のように4つに分類されていました。しかし、現在では分類方法が変わり重症度に応じてI〜III類と分類する方法が主流となっております。次はこの新しい分類に沿って説明します。

I度(軽度)

症状:めまい/立ちくらみ/生あくび/大量の発汗/筋肉痛・筋肉の硬直(こむら返り)
従来の区分:「熱失神」、「熱けいれん」、「日射病」に当てはまる状態

II類(中等度)

症状:頭痛/嘔吐/倦怠感/虚脱感/集中力・判断力の低下
従来の区分:「熱疲労」に相当する状態

III類(重度)

症状:意識障害/小脳症状/けいれん発作/肝・腎機能障害/血液凝固異常
従来の区分:「熱射病」に当てはまる状態

*症状や重症度はぴたりと当てはまるものではありません


熱中症に含まれる「日射病」と「熱射病」。それぞれの違いと特性

ここまでの内容で日射病と熱射病の違い、そしてそれぞれが熱中症に含まれるということを大まかにご理解いただけたかと思います。次は、日射病と熱射病についてより詳しく説明したいと思います。

日射病とは

直射日光による日焼けや熱によって熱中症が発生すること。

熱射病とは

意識障害やけいれん発作などを引き起こす熱中症の症状。

つまり、日射病とは熱中症を引き起こした原因が直射日光によるもので、そこからついた診断名です。そして熱射病は重度(III度)の熱中症を表す診断名ということになります。一方で熱射病は、直射日光の差し込まない屋内の環境下でも発症するというわけです。

熱中症に含まれる「日射病」と「熱射病」の違い

日射病 熱射病
原因 直射日光によるもの 高温多湿などの環境下、激しい運動など
症状 I度(めまい/筋肉痛 など) III度(意識障害/けいれん など)

*いずれも症状が進むと生命の危機に直結するため、迅速に医療機関へご相談ください

なお、日射病の症状が確認できた際に、「I度だから問題ない」などと決して思わないでください。確認した時点では軽微な症状であっても、あっという間に重症化し、深刻な危機を迎えるケースも少なくありません。「日射病」「熱射病」の違いを問わず、症状を確認したら、暑さを避けた場所へ避難するなどの応急処置を実施した上で、速やかに医療機関へご相談ください。


それぞれで異なる「日射病」「熱射病」「熱中症」の対処法

日射病と熱射病の違いについてご理解していただいたところで、「日射病」の予防法と、熱射病にかかった際の応急処置についてご説明します。

まずは「日射病」について。こちらは直射日光が原因なわけですから、事前対処法としてはこれを避けることが効果的であるとご理解いただけるかと思います。

日射病の予防方法

1 帽子を被る

通気性の良い麦わら帽子ほか“ツバ”の広い帽子が効果的です。さらに、後ろ(首元)にハンカチやタオルなど日光を遮るものを垂らすのも良いでしょう。

2   日傘をさす

日傘は遮断性、遮光性に優れたものが増え、最近では男性用の日傘も登場しています。作業中に使用することが無理ならば、移動中や休憩中に利用してみてはいかがでしょうか。

3    日焼け止めを塗る

紫外線の皮膚への吸収を防ぐ日焼け止めも日射病の予防には効果的です。顔や手だけでなく首筋に塗っておくのも良いでしょう。

4 通気性の良い衣服を着用する

直射日光を浴びて熱を帯びることにより身体にたまった熱を効果的に放出することも日射病予防には効果的です。できれば通気性の良い服を着用することをおすすめします。一方で、身体にフィットしている服の場合、血流を悪くする可能性もあるので注意が必要です。

熱射病の応急処置

熱中症においても同様のことが言えるわけですが、深刻な事態を迎えている熱中症においては、応急処置と同時に医療機関への速やかな連絡が必要です。

1 涼しい場所へ移動させる

冷房の効いた屋内、車の中などの涼しい場所へ移動・避難させてください。もし、屋外などでこういった涼しい場所が遠かった場合は、風通しの良い日陰へ移動し、安静にさせてあげてください。

2  医療機関への相談

繰り返しになりますが、医療機関への連絡が最重要です。涼しい場所へ避難させたら、速やかに最寄り、あるいはかかりつけの病院へコンタクトを取り、指示を仰いでください。

3 衣服を脱がす

脱衣のほか、ネクタイやベルトをゆるめて身体の熱を放出させてください。

4    身体を冷やす

保冷剤やそれに準じたものが手元にある場合は、「首筋」や「脇」、「足の付け根」など皮膚の近くに太い血管がある部分を冷やしましょう。また、団扇や扇子、厚紙、タオルなどをあおいで身体に風を当てることも効果的です。

5 水分と塩分を摂取する *ただし嘔吐や意識障害がある場合は無理に飲ませない

意識がはっきりしていること、吐き気や嘔吐がないことを確認した後に、水分と塩分を摂取させます。最適なのは水分と塩分を含んだスポーツ飲料水や経口補水液などです。一方で、お茶やアルコールなどは利尿作用があるため水分補給となり得ないので注意が必要です。

 

いかがでしたでしょうか。

「熱射病」と「日射病」は似て非なるもの。医療機関への報告や、あるいは診断結果などで耳にする際はそれぞれの違いはしっかりと認識し、適切な対応をとりましょう。

なお、熱中症の予防と対策については「その筋肉痛、熱中症の兆しかも 暑さのピークを迎える前に知っておきたい熱中症のサインと対策」でも紹介していますので、こちらもご覧ください。

また、熱中症予防に効果が期待できる「熱中症予防に効果が期待できるドリンク10選」や「熱中症予防に効果的な飴、タブレット10選」などもあわせて読んで、最悪な事態を招かないようにしましょう。

 

*本内容は記述時点で入手している情報をもとに執筆された原稿であるため、その内容の実現や確約、正当性をお約束する趣旨のものではありません。あらかじめご了承ください。


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